第二十二話 魔女



 211:名無しのDtuberファン

 光ったあああああ


 212:名無しのDtuberファン

 ダンジョン発生ktkr!?


 213:名無しのDtuberファン

 まじで!? こんな近距離で!?


 214:名無しのDtuberファン

 え、この光ってダンジョン発生時のやつなん?


 215:名無しのDtuber

 わからん、わからんが……そうとしか考えられないのよなあ


 216:名無しのDtuber

 お、光が収まって……カメラ生きてるやんけっ!


 217:名無しのDtuberファン

 ?? 何この真っ黒な空間? モールの証明でも落ちた?


 218:名無しのDtuberファン

 >>217

 多分生成途中のダンジョンを中から映したものだと思われ

 ダンジョン生成の流れって↓な感じなんよ

 ①謎の光発生

 ②周囲一帯に巨大な黒いドームが出現、範囲内の人間を外にテレボートさせる

 ③一定期間の後にドームが消失、中のダンジョンが姿を現す

 んで今は②と③の間で、偶然カメラだけドームの中に取り残されたんじゃねーかなって


 219;名無しのDtuberファン

 あれ、でもその生成過程って長らく謎とされてきたんじゃなかったっけ?

 確かドームが生まれた時点で中から人が完全に締め出されて、かつドームに阻まれて外から侵入できないとかで


 220:名無しのDtuberファン

 そうそう、だから俺たちは世紀の大発見を目にしてるかもしへんな


 221:名無しのDtuberファン

 それってつまり、僕たちは世紀の大発見を目にしてるかもしれないってコト!?


 222:名無しのDtuberファン

 だからそういってるじゃねえかw


 223:名無しのDtuberファン

 大事なことなので(ry


 224:名無しのDtuberファン

 ってかちょっとまて。奥の方に何か見えね?


 225:名無しのDtuberファン

 ……おいおい


 226:名無しのDtuberファン

 は? ここはドームの中って話だよな……?

 ならなんで人が倒れてる・・・・・・んだよ!?








 それは突然の事だった。


「これとかどうかしら?

 ほらこことかかっこいいじゃない」


「う、うーんそれはちょっと女子には似合わないっしょ。

 どっちかっつーと、中学二年生的な男子がよく付けているというか……」


「あ、あははは」


「……れんか。それ、さっき君が手に取ってなかったかい?」


 千沙が持ってきた龍の装飾が施された腕輪に、ごにょごにょと呟くなみ。


 な、なに言ってんだよ、クロ。

 あの病はとっくに卒業したんだ。かっけなあとかそんなこと全然思ってねえし(震え声)。


 と呑気に妹用のプレゼントを三人で選んでいるときだった。


「うわ、眩しっ」


「なんだよ、これっ」


 突如周囲が騒がしくなるのと同時に、視界が真っ白な光に包まれた。

 自分の体すら見えない、完全なホワイトアウト状態。つい、その驚きと恐怖で声を荒げそうになってーー


「……二人とも、落ち着いて?」

 

 ぎゅっと、千沙に手を握られる。

 伝わってくるのは彼女の温かい体温と、細かな手の震え。

 

 ……やっぱり情けないな、俺は。

 

 また助けられたのだ、という自覚が広がると共に心が凪いでいく。


 気が付けば、俺たち三人は大きな道路、その歩道に立っていた。周囲には呆然と佇む大勢の人の姿もある。

 ここは……そうだ。子天ノ内ダンジョンの近くを走る大通りだ。

 それを証明するように奥にはダンジョンモールーーいや違う。東京ドームを黒く塗りつぶしたのかのような、巨大な建物が立っていた。

 

 白い光、突然のワープ、黒いドーム。

 ここまで揃えばさすがの俺でも何が起こったのか理解できた。


「……生まれたみたいね、新しいダンジョンが。

 みんな大丈夫? 怪我は無い?」


「う、うん」


「あーしも千沙のおかげで無事っしょ。

 ……あー、びっくりした。莉々の方は大丈夫かなあ?」


「そうね。ちょっとL〇NEしてみるわ」

 

 ぱっと俺たち二人から手を離し、スマホを操作し始める千沙。


 ダンジョン発生時のテレボート先は基本的に建物の中や歩道など、発生地点周辺かつ転移者に危険や危害が及ばない場所が選ばれる。

 ただ中には突然のことに錯乱して道路に飛び出してしまうなんて人もいて、ダンジョン関連の死傷事故はこれまでも数件確認されていた。

 あまり考えたくはないが、莉々がそうした何かに巻き込まれている可能性は十二分にある。


「……そうだ。どうして忘れていたんだろ。

 君を魔法少女にした目的を、彼女のことを」


「何か、思い出したのか?」


 唐突に意味深なことを言い始めるクロに、つい口に出して聞いてしまう。


 クロがすぐに俺の肩に飛び乗り、ざあっと毛と尻尾を逆立てた。


「れんかっ。早く莉々に連絡するんだっ。早くっ」


「お、おう。あ、ちょっと莉々に電話してみるわっ」


「っ、そうね。こっちも既読が付かない。

 お願いできるかしら?」


 クロの気迫に押され、祈るようにL〇NE電話ボタンを押す。


 プルルル、プルルル……


 鳴り響くコール音。一回、二回、三回ーーいつまで経っても莉々は出ない。


「だ、大丈夫だよね? 

 ただ混乱してて気づかないだけっしょ……?」


「……ええ、そうに違いないわ」


 傍らで不安そうに手を握り合う千沙となみ。


 莉々はまだ電話を取らない。おいおい……冗談だろ?  


「やっぱり、このダンジョンは莉々のものなんだっ。

 くそ、あんなに近くにいたのにっ、どうしてっ……」


 クロがバシバシと前足で俺の肩を叩く。


 莉々の、もの? ダンジョンが……?


「どういうことだ? 本当に何か知ってるのか?」


「今までれんかは気にならなかったかい?

 モンスターや職業、魔石とかを構成するD粒子はどこから来ているんだろうって」


「そりゃあまあ……でも名だたる科学者が調べても分からなかったんだよな?」


「そんなの当り前さ。なにせD粒子は科学とは全く別の力、魔法によって生み出されるんだから。

 そしてその原料となるのが心、思いの力。

 つまりダンジョンは人の感情を代償にしてこの世に産み落とされたものなんだよ」


 クロが語る夢物語のような話。

 色々と突っ込みたい部分はあるけれど、今はとにかく莉々のことだ。


「それじゃあこのダンジョンが莉々のものっていうのは……?」


「そのまんまの意味、莉々の感情を元に生み出されたんだよ。

 それもとびっきり苦しい、無くしてしまいたいと思えるほどの感情をもとにね。

 ダンジョン騒動の元凶ーー魔女はそうした苦しみを抱く人に近づき、その心を奪ってダンジョンへ作り変えようとするのさ。

 彼女と取引を交わしてしまえば最後、その感情はダンジョンという遊具になり、永遠に失われることになる」


「……それで、どうすりゃいい?

 何か防ぐ方法はあるのか?」


「ドームの中に入って、中のボスを倒し、ダンジョン生成を止めるんだ。

 そうしたらきっと何とかなる、はず。

 なにせ彼女を、魔女を止めるために君を魔法少女にしたんだからね」


 確証がないのか、クロの声がどんどんと小さくなっていく。


 正直、クロの話の全部を理解できたとは思えなかった。

 ただクロが嘘を言っていないだろうことは分かってーーくそったれっ。莉々がそこまで苦しんでいるのに気づけなかったのか、俺はっ。


 それで、ええと、このままだと莉々は苦しい感情を永遠に失ってしまうと。

 ……あれ、でもそれって凄くよいことなんじゃないのか?


「案外そうでもないんだよ、れんか。

 人の感情は表裏一体。たった一つだけ取り外せるほど簡単なものじゃないのさ。

 もしれんかが人間関係で苦しんだ感情を失ってしまったら、莉々たちへの心象はがらりと変わるだろう?」

 

 クロの言葉にゆっくりと頷く。

 

 もしそうなったら、今感じている莉々に対する恩も忘れてしまうのだろう。あの時抱いた感謝も、彼女のために何かしたいという思いも消えてしまうんだろう。

 なんだかそれは凄く……悲しいことのように思えた。


「蓮花? 結局、莉々と連絡は取れたん……?」


「あっと……」


 戸惑いがちに服の袖を掴んでくるなみ。

 縋るような、目をそらしたくなるほど切実な思いが籠った視線に捕らえられる。


 どうする? いっそのこと全部話しちまうか?

 

 ……いや、もし元に戻れたとしても、自分がそんなに苦しんでいたんだと周りに知られていたら嬉しくないか。

 話すとしても、それはきっと彼女の口から語られるべきだ。

 だったらーー


「……さっき連絡が取れたんだ。向こうで無事・・にしてるってさ。

 だから二人は待っててくれ。莉々が帰ってくるのを」


 なみの手を優しく、包み込む。ドームのボスを倒す覚悟を決める。


 ーーこれはきっと俺のエゴだ。

 莉々にとってはそんな苦しい心、捨ててしまった方が楽なのかもしれない。


 でも莉々がーー俺を救ってくれた恩人が変わってしまうのは嫌だから。

 何より今のこの三人との関係が好きだから。


 だから、全力で止めさせてもらう。


「え、それなら一緒にーー」


「わかったわ、蓮花。

 ……ちゃんと二人で帰ってくるのよね?」


「ああ、絶対だ。俺を信じてくれ」


 尚も食い下がろうとしたなみを千沙が止めてくれる。


 ありがとう、と心の中で礼を言って、ドームに向けて駆け出した。


「クロ、どうしたらいい?

 壁に阻まれてドームの中には入れないって話だぜ?」


「いっただろう? 魔女を倒すための存在、それが魔法少女だって。

 あの姿ならドームの壁なんて簡単に抜けられるはずさ」


「ああ。そうだったな。

 ーー変身」


 ダンジョン前広場は半分ほどが黒いドームに占領され、残りの半分はスマホやカメラを持った人々で埋め付くされていた。

 適当な裏路地に入り、魔法少女姿へと変身。

 並み居る人のかきわけて、ドームへと突き進んでいく。


「うお、すげーコスプレっ」


 派手な衣装をした俺の登場にわずかに沸く群衆。

 さりとてすぐに目の前のドームの方に興味が吸い取られていった。


 そうしてあまり注目されることなくドームの前までやってこれてーー


「っ」

 

 ステッキを壁へと押し付ける。


 ぐにゃりという感覚と共に、向こう側へと吸い寄せられていく体。

 あっと驚く間もなく俺は黒い壁をすり抜けて、中へと足を踏み入れていた。


 視界に広がるのは床も壁も天井も真っ黒な、殺風景の空間。

 どこにも光源がないのになぜか視界が機能するその場所の中心に、見覚えのある服装を着た少女が倒れていてーー


「莉々っ」


「まってっ。奴がいる。気を付けてっ」


「ふふふふふふ」


 駆け寄ろうとした直後、ドームに男の笑い声が響く。


 一体どこから、と視線を動かすのもつかの間、俺の目の前の地面から何かが生えてきた・・・・・


「ようこそ、おいで下さいました、可愛いお嬢さん。

 いやはや、あなたのあーんな姿やこーんな姿がこれから私の瞳に収められると思うと、トキメキが止まりませんなあっ」


 真っ黒な人型の体に、どこぞの一眼レフカメラを頭にのっけた化け物。

 あの映画館のCMによく出てくるカメラ男にそっくりなモンスター(?)がそこにはいた。

 しかもめちゃくちゃ気持ち悪いことを言って。


 いや……あの、うん。

 別に敵がどんな姿だろうと全力で戦うけどさあ……この、釈然としない気持ちは何なんだろうなあ……。


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