第十九話 隠した感情(Side久志本莉々&掲示板回)



『い、意味わかんないよ、莉々ちゃん。

 私たち、友達じゃなかったの……?』


 大切にしたい、と確かにそう思っていた女の子が目の前でぼろぼろと泣いていた。


 ……いつからだろう、自分の”好き”がみんなのそれと食い違うようになっちゃったのは。

 

 あれ・・のせいで男が怖くなったから? それとも最初からこうだった?

 よく、分からない。

 ただ変わらぬ事実として、莉々は必ず同性・・、女の子を好きになった。


「いいですか? 性的少数派、LGBTというのはーー」


 授業とかで習うから言葉自体は知っていた。

 勿論みんなもその存在を理解はしていてーーでもいざ直面した時にちゃんと向き合えるかと言えば、それは別問題。というより、あの子みたいに混乱して傷ついて、突き放すのが普通だと思う。

 

 一度それで何もかも壊してしまって、だから莉々はそれを隠すことにした。

 中学校の同級生が誰もいない高校に行ったし、ダンジョンで二人のあられもない姿に欲情してしまった時はすぐさま二人をダンジョンから遠ざけた。罪悪感から、ギルドの護衛依頼を受けたりもしていたけれど、それでもちゃんとできていたはずだ。


 それが変わり始めたのは、蓮花との出会いからだと思う。


 それまでクラスで孤立して、誰とも関わろうとしなかった蓮花。

 もしそれが自分たちの所為なら助けたいと思ってーーでも同時に莉々は一つの期待を抱いてもいた。

 それはすなわち、彼女もまた自分と同じなのでは……? という淡い期待。


『い、いや本当に大丈夫。特に男にモテるのはちょっと……』


 そう考えると、こんな発言や時折見せる不思議な言動ーー例えば体を寄せると妙に胸を意識したりなども理解できた。

 そしてーー


「昔人間関係で色々あってさ。

 俺は彼らの”普通”に耐えらなかったんだ」


 ーー今目の前で莉々が胸の内を吐露してくれていた。

 彼女に何かがあったかはよく分からない。ただ彼女の過去は私のそれと無関係じゃない気がした。


「でも本当は気づいていたんだ。

 変わらないと、いけないって。前に進まないとって。

 だから……ありがとう、莉々。ダンジョンで俺に声をかけてくれて、俺をここまで引っ張てくれて」


 蓮花が笑う。胸元の服をぎゅっと握りしめて、目尻に涙を貯めながら。

 そんな彼女の様子に莉々は胸が苦しくなった。それをカミングアウトする怖さは痛いほど知っていた。


「ひゃっ」


 試しに蓮花の手を握ってみると、彼女の体が面白いほど硬直する。 

 そしてすぐに顔を真っ赤にさせてぐいぐいと距離を取り始めた。


 ……やっぱり、蓮花は自分とおんなじだ。

 だったらもう隠す必要もないのかな。


「……私も、ずっと普通が怖かったんだ~。

 それで自分の気持ちをずっと騙してて……おんなじだね、私たち」


「そ、そうだね?」


 明らかソワソワした様子の蓮花。

 その明らかに慣れていない感じが面白くて、ぎゅっと手に力を込めた。

 

 初めての同士。初めての秘密の共有者。

 ……なんだか、胸がポカポカする。これが安心感、なのかな~。


「あ、そ、そうだ。妹に友達の写真を見せろって言われててさ。

 良かったら俺と一緒にツーショットを撮らせてくれないか?」


「えっと……」


 だから、蓮花の提案に少し考えた後に頷いた。


 蓮花を見習ってちゃんと前に進まないと。


 




 


「おかえりなさい、莉々。

 大丈夫? 誰かに声をかけられたりしなかった?」


「うん、大丈夫だよ~。遅くなってごめんね、お母さん」


 自宅の扉を開けると、玄関にいたお母さんが出迎えてくれた。

 時刻はもうすぐ19:00。門限時刻ギリギリだ。

 あの事件のせいで余計な心配をかけるようになっちゃったから、気を付けないと。


「気にしないで。一番大切なのは莉々の心なんだもの。連絡さえしてくれれば、門限を破ってくれて構わないのよ。

 ……ただ今日は体調が悪いのかしら? 顔が赤いわよ?」


「へっ? 本当?」


 玄関横の鏡を見ると、そこには頬を真っ赤にさせた自分の姿。それはまるで誰かに恋でもしているかのようでーー

 

 い、いやいや、ただ仲間を見つけて舞い上がってるだけだからっ。

 まだそういうのはちょっと、あれだよっ。

 

「だ、大丈夫。ここまで走ってきただけだからっ」


「そう? それじゃあ身支度を終えたらご飯にしましょうか。

 今日は莉々が好きなハンバーグよ。楽しみにしてて?」


「おお~」


 リビングへと去っていくお母さん。

 その言葉に胸を躍らせながら、洗面台でばしゃばしゃと手を洗う。


 ーーほんとうに、いっしょなのかな?

  ただのかんちがいかもしれないよ?


「っ」

  

 また、あの声だ。

 夏休みの途中から聞こえるようになった幻聴。無邪気な女の子のようにも、あるいは意地悪な男の子のようにも感じる不思議な声。


 声の主は一体どこにいるんだろう? それとも本当にただの幻聴?

 そんな感情を宿して洗面台の鏡を睨む。


 鏡に映るのは自分の姿と洗濯機やらが置かれた洗面所。

 何度探してもそこに異常は見あたらなくて……いや違う。洗濯機と壁の闇が異常に暗い。黒い何かがそこにいた。


 あれは……ネズミ?

 それがこの声の主なの?


 ーーまあ、いまはそれでいいや。

  でもくるしくなったらいってね? ちゃんとたすけて・・・・あげるから。


 そんないつもの言葉を残して、声はネズミと共に消えていった。









 新人Dtuberについて語ろうぜ Part1335


 514:名無しのDtuberファン

 [速報]ダンジョンタロウさん、今週末に子天ノ内ダンジョン出没かっ!?


 515:名無しのDtuberファン

 >>514

 急にどした? そもそもダンジョンタロウって何者よ? 熊か何かなん?


 516:名無しのDtuberファン

 色んなダンジョンをめぐって、現地の可愛い女の子に突撃インタビューする生配信をする人やな

 わりときわどい質問も飛んだりするから、一部界隈で結構人気あるんよ


 517;名無しのDtuberファン

 ああー、前に生配信中に犯罪行為を自白する人がいて警察沙汰になったやつか

 いつのまにか復活してたんやな


 518:名無しのDtuberファン

 >>517

 というより自粛もしてないな

 あの人はただの正義のジャーナリストらしいから


 519:名無しのDtuberファン

 すげーな ツラの皮が厚いというかなんというか……


 520:名無しのDtuberファン

 それでなんで子天ノ内ダンジョンに来るなんて話になったん?

 確か人が集まっちゃうとかで、いつも行先をぼかしてたよな?


 521:名無しのDtuberファン

 それがさっきこんなツイートをしたんよ


 ダンジョンタロウ@正義のジャーナリスト

 「今週末、突撃インタビューしますっ

  取材場所は何を隠そう、日本の中心ですっ! いやあ俺もビッグになったなあ」


 ほんで「日本の中心→中部地方→子天ノ内ダンジョンじゃ……?」

 みたいな感じやな


 522:名無しのDtuberファン

 >>521 「日本の中心→中部地方にたくさんあるよな→子天ノ内ダンジョンじゃ……?」

 最初からガバガバ推理じゃねえかw


 523:名無しのDtuberファン

 日本の中心(青森県)


 524:名無しのDtuberファン 

 っ、日本の中心(徳島県)


 525:名無しのDtuberファン

 日本の中心とか言ったもん勝ちやからなあ……

 俺の地元も「日本地図のこことここを折ったらうちで交わるっ」とか適当なこと言ってたわw


 526;名無しのDtuberファン

 日本の中心は果たしてどこなのか?

 その謎を解き明かすため、我々はジャングルの奥地へと向かった。


 527:名無しのDtuberファン

 日本の中心(ブラジルのジャングル) 理由:日本の反対側だから


 528:名無しのDtuberファン

 >>527

 カロリーゼロ理論ばりのガバガバ理論跳躍やめろやw


 529:名無しのDtuberファン

 >>527

 日本とはいったい……うごごご!

 

 530:名無しのDtuberファン

 でも万が一中部地方全体を指してるんならありそうな話よな

 子天ノ内ダンジョンはほら……特殊だから


 531:名無しのDtuberファン

 まあ他にはない特徴を備えてますからな……ひひっ


 532:名無しのDtuberファン

 そうなったらワイの推しの蓮花ちゃんと鉢合わせることもあるんかね

 なんかそれは……いややなあ

 

 533:名無しのDtuberファン

 >>532

 分かるマン 蓮花ちゃんにはあの感じで伸び伸びやってほしいわ


 534:名無しのDtuberファン

 まあ人気になったらリスナー一人一人に構ったりも出来なくなるからなあ

 別に成功を望んでないわけじゃないんやけど……


 535:名無しのDtuberファン

 >>534 

 売れないままの君でいて、ってやつやな

 そういう時は別の推しを見つけるといいで

 ほんでまたその子が育ったらまた別の子に、これを繰り返すんや


 536:名無しのDtuberファン

 >>535 かなC 


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る