第十四話 レベルアップ配信(雑談枠)



 二学期になって初めての休日。

 俺は晴れやかな気分で妹と共に朝食のお茶漬けを食べていた。


 もぐもぐ。うん、うまい! やっぱりお米は最強だな!


「あ、そういえば今日は配信する日なんだっけ」


「だな。今日はレベルアップ配信兼雑談枠の予定」


「おっけー。楽しみにしてる」


「おう。自慢のおねぇが活躍するところ、よーく見ててくれよな」


 妹の言葉に乗せられ、ついそんな大言を吐いてしまう俺。


 嘘です冗談です。ただでさえ掲示板を見たせいで恥ずかしくなったのに、さらに普段の俺を知る家族に見られるのは羞恥心がやばいので、あまり見ないでください。


 不意に妹が手を止めて窺うような視線を向けてくる。


「おねぇ、何か変わった?」


「そうか? それじゃあ……あれだな。

 ふ、また一つ、大人になったってやつだな」


「なに勿体ぶっているのさ。

 ただ友達ができただけじゃないか」


 思い浮かぶのは昨日の久志本、いや莉々との会話。


 いやあ分かってないな、クロは。

 俺レベルになると友達認定すらさせてもられないのさ。友達だと思ってたやつに「え、伊奈川君? あ、隣の席のやつか。たまに話しかけてくるくらいだから忘れたわ笑」とか言われるなんてザラだからな。

 う、頭ががががが。


「あっそ。良かったね~」


「ちょ、それで終わり?

 もうちょっとこう、何かないのかよ?」


「ええー、どうせソシャゲで推しキャラが当たったとかでしょ?

 真面目に聞くだけ損ってやつだよ」


「失礼な。

 ほら前に言っただろ、ダンジョンで久志本さんに助けてもらったって。

 昨日その子と出かけて、しかも友達っていってもらえんだよ。凄いだろ?」


「……呆れた。

 ふつー、一緒に出掛けた時点で友達でしょ?」

 

「ぐっ」


 と、陽キャ特有のガバ認定に心をやられつつ、「今度その子の写真見せてよ」みたいな話をしながらご飯を食べ終えーー







「みなさんこんにちわ~。

 魔法少女系Dtuber、蛍日蓮花です」


 子天ノ内ダンジョン三階層にてクロを肩に乗せ、配信くんの前で手を振っていた。


 ______________


 【ダンジョン配信】三階層攻略のため、レベルアップします!【蛍日蓮花】

 12人が視聴中 0分前にライブ配信開始

 ______________



 コメント

 〈マ=ツー〉:こんにちわ

 〈暗示総統〉:ないす

 〈ジョンボールおばさん〉:初見です

 〈あれんすを斬る者〉:ちわ~ 初見です


「あ、マ=ツーさん、暗示総統さん、こんにちわ。またきてくれて嬉しいです。

 初見さんもこんにちわ~。本枠は雑談しながらモンスターを倒していく感じになりますので、よければゆっくりしていってくださいね~。

 あ、それと魔法少女について何か知っていたら教えてくれると嬉しいです」


 コメント

 〈あれんすを斬る者〉:りょ

 〈つねった〉:なんか今日初見さん多いなw どこかでバズった?

 〈マ=ツー〉:確かどこかの掲示板で紹介されたんじゃなかったっけ?


「掲示板? うっ頭が」


 ぐ、封印されし忌まわしき過去、「可愛い」「エッッ」とかの書き込みが蘇ってきやがった。

 ……なんというかこう、俺みたいなやつが男からそういう目で見られてると妙な気恥ずかしさがあるな。

 もし俺も何も知らなかったら推してそうだな、とか考えると余計になあ。


 コメント

 〈つねった〉:急にどしたw

 〈マ=ツー〉:そりゃあ女に餓えたスレ民どもの書き込みを見ればなあ……

 〈スルト〉:せんせー、男子が蓮花ちゃんを泣かせてまーす

 〈ジョンボールおばさん〉:い、いや特におかしなこといってないよな?

 〈あれんすを斬る者〉:おっ、そうだな(やべー書き込みから目をそらしつつ)

 〈暗示総統〉:エゴサはするなとあれほど……


「い、いえ、みなさん私は大丈夫です。

 私は強い女ですからね、それくらいの羞恥乗り越えてみせますよっ」


 コメント

 〈暗示総統〉:お目目ぐるぐる可愛い

 〈ジョンボールおばさん〉;AVの導入みたいでいいと思います!

 〈マ=ツー〉:↑そういうとこやぞw

 〈あれんすを斬る者〉:AV……アニマルビデオかな?(すっとぼけ)


「ジョンボールおばさん、わかります。

 ああいうのってなんで絶対に騙されないような言葉で乗せられちゃうんでしょうね?」


 コメント

 〈マ=ツー〉:そして本人が乗ってくるんかいっ

 〈あれんすを斬る者〉;なるほど完全に理解した 

            これ俺らがツッコミ側のやつやな!

 〈スルト〉;おかしい、初配信の時はもっと清楚だったはず……

 〈つねった〉:↑本当にそうか? 初戦闘からは完全にメッキ剥がれたやろw 

 〈暗示総統〉:でも確かにテンション高いような……?


「あ、暗示総統さん。そうなんですよ~。

 実は……ってそうだ。折角だしクイズにしますか。

 みなさん、私の気分がいい理由を当ててみてください。きっと誰かと付き合った時に役に立つと思いますよ?」


 コメント

 〈あれんすを斬る者〉:誰かと付き合った時……すーっ。煽りかな?

 〈スルト〉:今日はう〇ちがいっぱい出たっ

 〈ジョンボールおばさん〉:昨日が生理だった

 〈暗示総統〉:誕生日とか?

 〈マ=ツー〉:お前ら……まともなの俺と暗示総統さんくらいじゃねえか

 〈つねった〉:↑しれっと自分もまとも側に入れんなやw

 

 俺の言葉に酷いコメントを返してくるリスナーたち。

 おまいら、そんなんだから彼女の一人もいなんやぞ(ブーメラン)。

 

 ってあれ。なんか俺、しれっとめんどくさい女ムーブしてない?

 なんか心なしか肩のクロの視線も冷たい気がするし……。

 いやいやこれはあれだから、ただ配信者として皆を楽しませてるだけだからっ。


「こほん。残念でした~。

 正解は『高校になって初めて友達が出来た』でした。正解者には100蓮花ポイントを進呈します。皆さん大きな拍手をっ」


 コメント

 〈暗示総統〉:888888888

 〈あれんすを斬る者〉:888888888

 〈スルト〉:どんどんパフパフッ

 〈スー・ズ〉:蓮花ポイントは一体……?

 〈マ=ツー〉:高校になって初めて? ……妙だな。今はもう二学期。

        それまで友達ができないなんてことありうるか?


「ぐぅ」


「ふっ。あっさりバレてるじゃないか」


 どこぞの名探偵さんに「あれれ、おっかしいぞー」され、思わず声が詰まる。

 やっべ。適当に憧れた人と友達に慣れたとかに言えばよかったっ。なるほどこれがトリックを当てられて自白する犯人の気持ちかっ(違う)。


 コメント

 〈あれんすを斬る者〉:いやいやただの言い間違いだろ

            そんな、俺らじゃあるまいし……

 〈サイドハーフ〉:でも言われてみれば、この配信に友達っぽい人いなくね?

 〈ジョンボールおばさん〉:↑確かに 多分高校生だろうし、

              友達が集まって身内ノリっぽくなるのが普通だよな

 〈暗示総統〉:……もしや、こちら側?


「……うう。そうですよ。

 私クラスだとぼっちで、ずっと一人で過ごしてきましたよっ。いいじゃないですか、一人。ゲームとか本とか自由に出来ますからねっ」


 そういうのって意外とバレるんだよなあ。

 妹とか両親の「あっ夏休み中何の予定もないんだ(察し)」みたいな視線の痛いこと痛いこと。

 でも大丈夫。きっとみんなならその良さもわかってくるはずっ。


 コメント

 〈マ=ツー〉:まあ気楽ではあるよな

 〈暗示総統〉:わかる 俺も同じ

 〈スルト〉:? みんなで遊んだほうが楽しくない?

 〈あれんすを斬る者〉:↑てめーは俺を怒らせた

 〈スー・ズ〉:それじゃあ周りには配信してるって言ってない感じ?


 「スー・ズさん、その通りですね。

  それと、もしリアルの私を知ってる人がいてもあまり騒がず生温かい目で見守ってくれると嬉しいです。まだちょっと恥ずかしいですからね」


 コメント

 〈ジョンボールおばさん〉;おっけー

 〈スー・ズ〉:まあそもそも俺らに広められるような友達がいないわけですが

 〈あれんすを斬る者〉:↑ま じ で や め ろ


 と、こんな感じでリスナーと楽しく(?)雑談しながら一時間ほどレベルを上げて。蛍日蓮花としての二回目の配信を終えたのだった。

 因みに某掲示板では「【速報】新人Dtuber蛍日蓮花ちゃん ぼっち属性追加!!」なんてスレが建てられたとか、建てられなかったとか。






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【ダンジョン配信】三階層攻略のため、レベルアップします!【蛍日蓮花】

 354回視聴 0分前に配信済み  

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