第十二話 お買い物
屋内の休憩スペースにて、俺はそわそわと彼女の到着を待っていた。
全面張りのガラスから下に見えるのは、ダンジョン前の露店と人がごっちゃになった広場ーー俺がかつて気持ち悪くなった場所だ。
ここ、「あまのダンジョンモール」は子天ノ内ダンジョンに併設されたショッピングモールで、ダンジョンの入り口がある一階部分には新規登録や相談コーナーなどのダンジョンに関する諸々の窓口が、二階部分には装備やHPポーションなどのダンジョンで使うアイテムを販売する店がテナントに入っていた。
しかも二階ではダンジョン製アイテムのみに使える特殊通貨、コインで買い物できるといこともあって、端に設置されたここも大変な賑わいだった。
「いやあ危なかった。マジで死ぬかと思ったわ」「俺なんか腕吹っ飛ばされちまったぜ」とか何も知らない人が見たら耳を疑うような会話が繰り広げられている。
客層的には高校生くらいの男子が多いみたいだった。多分俺らみたいに放課後に遊び気に来ているんだろう、制服姿のDKもいた。
そして当然、女子の姿はほぼない。
さっきから「話しかけようかな」みたいな変な視線も感じるしーーは、早く来てくれっ。俺がおまいらの幻想をぶち込ます前にっ。
「あ、いたいた。
良かった~。見つからないかと思ったよ」
そんな願いが通じたのか、久志本さんがフリフリと手を振ってやってきた。
彼女が歩くたび、まるでモーゼが海を割ったようにざあっと進行方向から人が退けていく。
流石は陽キャ。オーラが違うってやつだな。
「大丈夫? あそこで酔わなかった?」
「う、うん。平日で人が少なかったから……」
「そっか、それならよかった~。
でも気持ち悪くなったら、ちゃんと言ってね?
今日は蓮花ちゃんに楽しんでもらうために来たんだから」
「うい」
「……全く、れんかはかわらないね」
いつも通りの優しさに触れ、思わず変な声が漏れる。
すげーよ。全然嫌味とか感じねえ。
よくこんな子と一緒に遊ぶ約束できたなあ、俺。ダンジョン効果さまさまってやつか? ……いや、どっちかというとTSの影響かなあ。
確か男子とは絶対に二人で出かけない、とかの噂を聞いたことがあるし。
うーむ、でももし男に拒否感があるとかだとしたら、何だか騙してみたいで気が引けるなあ。
と、何とも言えない感情に陥りながらも世間話(俺は相槌をうってるだけ)は続き、今回の目的の一つである店の前へ。
「じゃ~ん。ここが装備品業界最大手、Dウェポンズだよ~。
剣から鎧まで何でもござれり。冒険者にとってのインフラ的お店なのです」
「おお~、ここがっ」
「ほお、これはなかなか壮観だね」
えへんと胸を張る久志本さんが案内してくれたのは、「Dウェポンズ」というテナント。
彼女の言う通りダンジョン製の色んな装備品を扱っているお店で、100平米はありそうなそこにはカラフルな武器や防具が所狭しと陳列され、まるでどこぞの玩具屋さんのような有様だった。
「手前にあるのが剣ゾーン。
両手剣とか太刀とか色々飾ってあるね~」
「ほほおっ」
視界に入るのは、色んな種類の刃が付いた武器たち。青い刀身をした刀や炎っぽい装飾のゴテゴテした剣、中には鎖鎌なんてのもある。
こうしてダンジョン関連の店に入るのは初めてだ。
やっぱり男ならこういうのに憧れるよなあ。
お、大剣もあるじゃん。懐かしい、俺モ〇ハンで使ってんだよ。
試しに手にとって、ぶんぶんと振ってみる。
……やっぱり軽いな。
「それ、最初はびっくりするよね~。
本当の使用感を知りたいときは、あそこで試すのがいいかな」
「な、なるほど」
魔石やモンスターの素材で作られたダンジョン製のアイテムは、ダンジョン内でしかその能力を発揮しない。重量や切れ味、攻撃力増強などの特殊効果は無視される。
外の世界では本当にただの玩具でしかないのだ。
だからこうした店では使用室という場所が設置されていて、局所的にダンジョン内部となったそこでアイテムを試すのが常だ。
因みに何でそこだけダンジョン内部になっているかと言えば、近くのダンジョンから文字通り引っ張ってきているかららしい。
何言ってるか分からないかもしれないけど、本当にそういう技術らしいのだ。
頭のいい人は凄いねってやつだ。
またダンジョン内部では何故か銃や戦車などの現実世界の武器や兵器は通用しない。ダンジョン配信ができるように道具として使えはするものの、モンスターに対して一切のダメージを与えることが出来ないのだ。
だから冒険者はこうした店でダンジョン製のものを買って、冒険に挑む必要があった。俺が初めて冒険者に潜ったときも、支給品の各種ダンジョン製装備が用意されていた。
「……でも私、多分これ使えないんだよね」
「あ、そっか~。ごめん。
確か他の武器は弾かれちゃんだっけ?」
「う、うん」
ダンジョン製の各種装備品には幾つかの制限が付けられている。
製造する上で意図的に付けられるものもあれば、意図せず付いてしまうものあるらしい。
前者の例でよくあるのが「Lv10以上」とかの制限だ。
これは初心者が装備のみの力で強くなるのを防いでいるらしい。
そして後者の例で特に冒険者を悩ませているのが、「同種拒否」と呼ばれる制限だった。製造途中で確実に付いてしまうらしいそれは簡単に言えば、同じ種類の装備を同時に持てないというやつだ。
例えば大剣とマジカルステッキは武器というカテゴリーで被ってしまうゆえに、ダンジョン内では同時に使えない。
ついでに何故か俺の装備『魔法少女(炎)セット』は外せない事実も加味すると、金輪際俺はあのステッキから抜け出せないというわけだ。
またこれは防具も同じで、例えば鎧の上に鎧を着るとかはできない。
つまり俺もあの姿で戦わなければーー(以下略
「えっと、確か防具じゃなくてアクセサリーは大丈夫なんだっけ?」
「そう、みたい」
「おっけー。それじゃあ、いっちょ行ってみよう~」
久志本さんの先導、奥に設けられたアクセサリーコーナーへと歩く。
装備品は主に武器・防具・アクセサリーの三つに分けられる。
ネックレスや指輪といったそれらアクセサリーだけは俺でも自由に付けられるみたいなのだ。実は初配信の時も協会から貰った、敏捷が少し上がる「初心者のチョーカー」を付けていた。
その性能は防具には劣るものの、中には結構な特殊効果が付いたアクセもあるらしいから、本当の本当に楽しみである。
お願いします神様。どうか俺にカスタマイズの楽しみをっ。
「あ、これとかいいんじゃない?」
「え、えと……」
久志本さんが見せてくれたのは、一本のカチューシャ。
効果は「敏捷アップ(大)」。俺が持っている「初心者のチョーカー」より効果幅が大きい。お値段も1000コインとお手頃だ。
ただーー
「ちょ、ちょっと恥ずかしいな」
「ええ、そうかな~? 可愛いと思うんだけど……」
久志本さんが不思議そうに商品を確認する。
そりゃあ久志本さんが付けたら可愛いだろうさ。でも残念ながら俺は御免だ。
なにせ見た目があれにしか見えないのだ。黒くて丸いお耳が二つい付いて、ほら某テーマパークでカップルがよくつけて遊んでいるようなーーリア充死すべしっ。
「あ、そこに猫耳のカチューシャがあるじゃないかっ。
ほら、れんか。ほら早く久志本さんに言ってっ」
と何やら不穏なことを言い出すクロ。
とうとう隠そうとすらしなくなったよ、この猫……。
そんな煩悩の支配されたお前にはこうだ、と自分で付ける。
「わっ可愛いっ。
なんだ、蓮花ちゃんは猫派だったんだね~。それなら先に言ってよ、もう~」
「いや、あのっ」
とまあこんな感じであらぬ誤解を受けつつも、穏やかに買い物は進みーー
「よし、それじゃあちょっと店員さん呼んでくるね。
蓮花ちゃんはここで見てていいよ~」
「あ、うん」
幾つか良いものをピックアップしたところで、久志本さんがそう言って去っていった。
「同種拒否」のルールも意外とあいまいで、中には何故この二つで駄目なんだっていう組み合わせもあるらしいのだ。
それを防ぐためにも一回は使用室で試すのが無難だ。
アクセサリーコーナーで一人になった俺。
何だか居心地が悪いなあ、と思ったところでーー
「なに探してんの~?
良かったら何か買ってあげるよ」
野生のチャラ男が現れた。
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