第十一話 画面の向こうの彼ら(掲示板回)



「……こ、これがクラスL〇NEか」


 始業式を終えた日の昼3時ごろ、自室にて。

 久志本さんから送られてきた招待用URLを前に俺は武者震いを続けていた。


 ぷるぷる いじめないで。ぼく わるいスライムじゃないよう。


「いやこれどういう時間なんだい? 

 よろしくとか言ってさっさと参加してすればいいじゃないか」


「いやそれが怖いんだって。

 今向こうでどんな会話が繰り広げられてるのか分からないからさ、途中で入って流れをぶち壊しかねないんだよ。

 そもそも俺みたいなぼっちーー」


「えいっ」


「あ”?」


 机の上のクロがぴょいと飛び掛かってきたと思えば、そのおみ足は見事に画面の『参加』ボタンにクリーンヒット。

 「こあまのうち高校☆1年3組」に参加しました、との通知がピコンと鳴る。


 こ、こいつやりやがったッ。

 やべえ、急いで挨拶しないと。

 今まで気づきませんでした。よろしくお願いします、か? いや流石にそれは硬すぎるか。だとしたもっとシンプルの方が? あああ、時間がないっ。


【よろしく】


 と、とりあえずこれで送信っと。

 

 さあ返事はいかに? と祈るように見守ってーー


【よろしく~】

【あれ、伊奈川さん入ってなかったんだ】

【「よろしく」スタンプ】

 ……


 送られてくるのは「よろしく」や「気づかなかった」といった悪意を感じないメッセージたち。


 ほっ。良かった、そこまで変には思われてないみたいだ。

 メンバー全員がいるかなんて確認しないだろうし、本当に気付かなかっただけかもしれないな(願望)。


「それと、クロてめえ。

 よくもやってくれやがったな。マジで終わったかもと思ったわ」


「れんかが悪いんだよ?

 うだうだ悩んで、いつまで経っても決断しないから」


「い、いいかクロ?

 人にはそれぞれルーティンっていうのもがあってだなーー」


「はいはい、僕が悪かったよ。

 ……全く、昔はそんなんじゃなかったのに」


「ぐう。……って、ちょっと待って。

 クロ、昔の記憶を思い出したのか?」


 クロの含みのあるぼやきに突っ込む。

 

 あの後も、クロの過去については何かの約束をしたこと以外何も分からなかった。どこからきて、どんな経緯で俺と約束を結んだのかも。

 それが、まるで俺と旧知の中であるかのような発言をした。

 

 もしや冒険の影響でそっち方面も思い出そうとしてるだろうか?


「あ、ほんとだ。なに言ってるんだろうね? 

 僕もよくわからないや、忘れてくれていいよ」


「なんだ、そりゃ」


 結局いつもの結論に至ってしまって、落胆を零す。


 今まで何となくクロを信用してきたけど、どこまで信用していいんだろうなあ。










 新人Dtuberについて語ろうぜ Part1334


 117 名無しのDtuberファン

 [朗報?悲報?]全世界のDtuber人口が10万人突破かっ!?


 118 名無しのDtuberファン

 >>117 

 多すぎだろ どうなってんだ……


 119 名無しのDtuberファン

 逆に今はダンジョン関連じゃないと再生数回らないからなあ

 世知辛い世の中だぜ


 120 名無しのDtuberファン

 そーいや既存の人気配信者さんの動画、軒並み再生数落ちてるんだっけ?


 121 名無しのDtuberファン

 >>120 そうそう

 だから最近はダンジョン配信を始めるY〇tuberさんが増えてるってわけ


 122 名無しのDtuberファン

 そんな業界で今なお子供向け動画で100万再生を常に叩き出している人がいる件について


 123 名無しのDtuberファン

 >>122

 あの人は、ほら……神様だから


 124 名無しのDtuberファン

 >>122

 子供たちを笑顔にして食う飯は美味いか? ……美味いんやろなあ


 125 名無しのDtuberファン

 でも最近、Dtuber関連の動画を上げて炎上してなかった? 

 ほらマナー違反が何とかって


 126 名無しのDtuberファン

 >>125

 あー、あれなあ

 はたから見ててちょっとかわいそうだったわ


 127 名無しのDtuberファン

 どゆこと? 誰か教えてクレメンス


 128 名無しのDtuberファン

 >>127

 ほら、冒険者の間にはモンスターに先に攻撃を当てた人の方に優先権があるっていうルールがあるだろ

 ただ動画の中に他の冒険者から戦闘中のモンスターを譲ってもらう場面があって、それでルール違反だろって嚙みついた人がいたんよ


 129 名無しのDtuberファン

 ええー 普通に譲ってもらったんだろ? 

 何でそれで炎上するんだよ……


 130 名無しのDtuberファン

 >>129

 「あなたみたいに影響がある人が来たら譲るしかないだろ」だってさ

 それで「確かに」界隈と「それくらいいいだろ」界隈に分かれて大喧嘩よ


 131 名無しのDtuberファン

 まあ言いたいことは分からなくはないけども……


 132 名無しのDtuberファン

 配信者に完璧を求めすぎ定期


 133 名無しのDtuberファン

 ところで誰か新人で面白い子知らない?

 何か最近マンネリ化してる気がして……


 134 名無しのDtuberファン

 >>133

 大手は「300人で○○ダンジョンを攻略してみた」

 個人勢は「Dスタの○○ちゃんが言っていたダンジョンに来ました!」

 とかそんなのばっかよな

 良くも悪くも人気になる方法が確立されてる


 135 名無しのDtuberファン

 >>134 

 約10年分の積み上げがあるわけだしなあ

 黎明期の粗削りな感じはもう見れんのよ……


 136 名無しのDtuberファン

 どこかに歴史とか全然知らないぽっと出の子、いないかなあ……


 137 名無しのDtuberファン

 異世界転生者に期待するしかねえな

 ダンジョンのない世界からやってきて、滅びに向かう世界を配信で救おうとするやつ

 

 138 名無しのDtuberファン

 >>137

 それなんてエ〇ゲ?


 139 名無しのDtuberファン

 >>137

 ちょっと面白そうなのずるだろw


 140 名無しのDtuberファン

 そんなおまいらに朗報

 蛍日 蓮花 で調べてみて ワイのおすすめの子や


 141 名無しのDtuberファン

 しゃーない乗せられてやるか

 ……お? 結構可愛い子やんか 衣装もすげー凝ってるし

 

 142 名無しのDtuberファン

 悪名名高い子天ノ内ダンジョンじゃねえか(ワクワク)


 143 名無しのDtuberファン

 ナニをわくわくさせてるんですかねえ


 144 名無しのDtuberファン

 お、話し始めた


 145 名無しのDtuberファン

 「あ、こんにちわ~」

 この子、このナリで落ち着いたしゃべり方なんか


 146 名無しのDtuberファン

 リスナーと一対一の会話か……

 こういうのでいいんだよなあ、こういうので


 146 名無しのDtuberファン

 「友達と一緒に安全に突破させていただきました」

  ちっ

 

 147 名無しのDtuberファン

 その友達との話kwsk


 148 名無しのDtuberファン

 「変態紳士vsフェ〇戦士vsダ〇クライ」みたいな感じで……」

  ダ〇クライ来たwww


 149 名無しのDtuberファン

 ダ〇クライ過労死しすぎィ!!


 150 名無しのDtuberファン

 同士だと思われてリスナーにロックオンされてるやんw


 151 名無しのDtuberファン

 「ステータスオープン!!」

  まさかの魔法少女(ホンモノ)だったか


 152 名無しのDtuberファン

 しかも衣装付きとな、珍しいなあ


 153 名無しのDtuberファン

 ここらへんも面白いけど、おススメは15:00あたりかな

 登竜門さんの登場やで


 154 名無しのDtuberファン

 あーあの有名になりすぎて形骸化したやつな

 意図せず分類されるから面白いんであって、狙ってやるんだとしたらもうそれは別の何かナニカなんよな


 155 名無しのDtuberファン

 まあ見てみましょうや


 156 名無しのDtuberファン

 「はあ、はあ。……あの、全然当たらないですけど!?」

  この反応、もしやご存じない?


 157 名無しのDtuberファン

 演技だとしたら凄いなあ、違和感ないわ


 158 名無しのDtuberファン

 ……ところで美少女が汗かいて息切らしている姿はどう思う?


 159 名無しのDtuberファン

 エッッッッ


 160 名無しのDtuberファン

 とても健康的良いと思います、ええ


 161 名無しのDtuberファン

 「近いほど速度も精度も上がる……? なるほど、分かりましたっ」

  全力疾走来たああ、これで勝つるっっ


 162 名無しのDtuberファン

 見えっっっ


 163 名無しのDtuberファン

 「もらったああ」

  急に言葉遣いがw

 

 164 名無しのDtuberファン

 おお、すんごい獰猛な笑み


 165 名無しのDtuberファン

 「よっし、俺の勝ち! なんで負けたか~」 

  普段の清楚っぽい感じも戦闘中の荒れた感じもどっちもいいじゃあ^~


 166 名無しのDtuberファン

 見た目的にも戦闘中の方が素なんかね?


 167 名無しのDtuberファン

 可愛けりゃどっちでもいいんだよ


 168 名無しのDtuberファン

 ……ところでお前ら見えたか?


 169 名無しのDtuberファン

 見えっ……


 170  名無しのDtuberファン

 ふぅ


 171 名無しのDtuberファン

 やはり可愛い子のパンーー




 バタン、とPCを閉じる。


「うわ、なにこれ。はっずっ」


 思わず漏れるは羞恥の声。


 そろそろ寝ねようかという頃。

 何か話題になっていないかなあと新人Dtuberに関する掲示板を見ていたら、そこには俺のことを可愛いと言ったり、そういう目で見ている人がいて、そういや凄い恰好だったなと今更思い至りーー


 ……うん、俺は何も見なかった。いいね?

 

 言い知れぬ恥ずかしさから逃れるように、俺は布団にもぐった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る