第九話 一歩
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〈レコーディア〉:……なるほど。基本情報は概ね分かりました
後は勝手に見ていますので、自由にやってもらって大丈夫ですよ
「うえ? そうなんですか?」
ステータスやスキルの情報を一通り見せた後、そんなことを言ってきたレコーディアさん。
確かにありがたい話ではあるけど……うーむ、迷惑じゃないか?
コメント
〈マ=ツー〉:気にしなくて大丈夫よ
この人、Dtuberの配信にずっと張り付いてるとかザラだからねえ
〈暗示総統〉:↑それな
「え、そうなんですか?
ってことは何か他に作業しながら見てるんですかね?」
コメント
〈レコーディア〉:そういうことです
今は五人同時に見てます
「はえ~複窓ってやつですね、納得です。
因みに他の皆さんは何か別の作業をしていたりします?」
コメント
〈スルト〉:夏休みの宿題やってるところ
〈暗示総統〉:上に同じく
〈マ=ツー〉:俺はダンジョンでアイテム探索中やな
今月のノルマがきついんよ
「やっぱり私と同じ学生さんが多い感じですかね。
そろそろ学校が始まるので色々やらないとですね~。はあ。
それとマ=ツーさんはクランとかに入っているんですか? なんかめちゃくちゃ嫌な単語が聞こえましたけど……」
クランとは相互扶助を目的に主に冒険者間で結成される組織の事(w〇ki参照)。
その実態はクランによって様々で、サークルのように「集合場所だけ決められ、後は自由参加」みたいにユルいものもあれば、会社のように「一週間以内にこの素材を何個集めろ」みたいなノルマが設定されてるところもあるらしい。
もしマ=ツーさんが後者だったら大変そうだなあ。
コメント
〈マ=ツー〉:いや、常時張り出されてる採集クエストがあるんよ
それが納品数に応じて報酬がアップするもんだから、
その目標ラインを勝手にノルマって言ってるわけ
〈レコーディア〉:通年クエストの事ですね
発注元は最前線を攻略する大手クランで、
数が必要な回復アイテムの素材を応募してるのが大半です
「なるほど。縁の下の力持ちってわけですか。
いいですね、私は好きですよ~。マ=ツーさんみたいな人がいないと、組織が回りませんから」
諸々あるダンジョン配信の中で最も人気があるのは、前線組ーーダンジョンの未踏破部分を攻略する人たちの動画だ。
未知のモンスター・階層との対峙、何度命を落とすかも分からない死闘、そして極限状態でこそ輝く彼らの力量とコンビネーション。
俺もそんな光景を見て、いつかこの舞台に立ちたいと胸が熱くなったものだ。
ただ彼らの冒険の裏には〈マ=ツー〉さんみたいな人達の尽力があることを、俺はネトゲで知っていた。
クランの中で一番大事なのはイベント当日だけ参加するような人じゃなくて、毎日ログインしてコツコツ素材集めてくれる人なのだ。当時は俺も時間があるときはずっと張り付いていたから、よく感謝されていたっけ。懐かしい。
……そーいや、あのゲーム最近はプレイしてないなあ。
みんなどうしてんだろ?
コメント
〈マ=ツー〉:お、おう
〈暗示総統〉:は?
〈るねった〉:好きとかいうから、マ=ツーさんガチ照れしてるやんw
「あ。いえっ、そういう意味で言ったんじゃないですよ。
一見地味な仕事を出来るのは人として尊敬できるってことです。やっぱりみんな、強敵と戦ったりとか派手な方が好きですからね」
回想に浸っていると、何やらコメント欄が不穏な空気に。
そっか、こういうのも気を付けないといけないのか。うーん、難しいなあ。
〈るねった〉:まあそれはそう
〈マ=ツー〉:わ、分かってるさ……俺は所詮良い人どまりの人なんだ
〈ミミちゃんに踏まれたい〉:あー、これはキツイですね…… どんまいです
〈サイドハーフ〉:こんちゃーす 今何してる感じ?
〈暗示総統〉:新人魔法少女ちゃん(ホンモノ)
管理人登場で
雑談中
「サンドハーフさん、こんにちわ。現在は子天ノ内ダンジョンを散歩中です。
こうして見ると見事に冒険してませんね。そろそろモンスターの一匹とでも交戦したいところなんですけど……」
「あ、丁度お客さんが来たみたいだよ」
肩に乗ったクロの声に前を向くと、そこにいたのは小さな白いウサギ。
少し離れた草むら(たぶん10mくらい?)からひょっこりと顔を覗かせて、こちらを窺っている。
このモンスターの名前は確かーー
コメント
〈スルト〉:ドッジラビットだっ モフモフっ
〈レコーディア〉:子天ノ内ダンジョン三階層に生息するモンスターですね
高い危機察知能力と素早い動きが特徴です
「なるほどです、敏捷型ですか。
それじゃ、早速いきますね。
_______________
魔法のステッキから炎の弾丸を放つ。
一撃の威力は低いが、連射性能は高い。
_______________
発動と同時に放たれた炎の弾が、ドッジラビットの体に吸い込まれーー直前でひょいと跳んで躱される。
「
すかさず、連続で叩きこんでーー
「はあ、はあ。……あの、全然当たらないですけど!?
難易度設定ミスってませんっ?」
多分二十発は打ち込んだものの、一向に当たる気配すらなかった。
しかもドジラビットの野郎、何故かじりじりと近づいてきているし。いやほんと、どういうことだよ……?
コメント
〈るねった〉:www
〈マ=ツー〉:俺も最初はそう思ったなあ 懐かしい
〈レコーディア〉:A.仕様です。
「まじですかい。
え、みなさんこの地獄を乗り越えてきたんですか? 何か裏技とかあるんじゃ?」
コメント
〈マ=ツー〉:後衛職は基本それしかないかなあ
回避のたびに近づいてくるから、その内当てるようになるんよね
そんで当てて、元に戻っての繰り返しを三回くらいやれば終わる
〈暗示総統〉:己との闘い……頑張って
〈ミミちゃんに踏まれたい〉:まだこのエッな光景が見られるんです?(ゴクリ
視界に映るのは嬉しくないコメントの数々。
や、やりたくねえ。なんか変な人いるし、同じ画が続くのも配信的に良くない気がするんだよなあ。
何か状況を打破できるアイテムとかは……あ。
「そうだ。私もう一つ、スキルがあるんですよね。
これで何とかなりませんか……?」
_______________
魔法のステッキから炎の球体を生み出す。
一撃の威力が高く、持続時間が長い。
_______________
コメント
〈つねった〉:エッッッッ
〈レコーディア〉:魔法使い系統の標準的なスキルですね
使用者と球の距離が近いほど速度も精度も上がるのでーー
「近いほど速度も精度も上がる……?
なるほど、分かりましたっ」
レコーディアさんの説明にひらめくものがあって、ドッジラビットに向き直る。
距離的には……もうちょっと待った方がいいかな、と再び
コメント
〈サイドハーフ〉:???
〈マ=ツー〉:今ので一体何が分かるんや……?
〈つねった〉:分かった(分かってない)
何やら不思議そうなコメント欄に「?」となりながらも、とうとうドッジラビットが射程範囲に入ってーー
「っ」
ーー右足を蹴り上げ、地面の砂を飛ばす。
きゅい、と慌てて後ろに飛ぶドッジラビット。
「
同時に一気に走って距離を詰め、その着地地点へと火球を発射する。
ドッジラビットはくいと体を丸めて回避しようとするも、その瞬間、奴の体は確かに動きを止めてーー
「もらったあっ、
距離的には1mくらいか。
灯篭ほどの大きさをした火の玉が凄まじい速度で飛翔しーードッジラビットの体へと着弾した。
ゴウ、と音を立てて燃え上がり、やがて魔石のみが残された。
「よっし。俺の勝ち!
なんで負けたか、明日までに考えといてください」
コメント
〈ソルト〉:あああモフモフがああ
〈つなった〉:めっちゃ強引に倒したなwww
〈ミミちゃんに踏まれたい〉:攻略系を越えてまさかの戦闘狂枠ですか
いいですね~^
〈サイドハーフ〉:戦闘中の荒れてる感じもよき
〈暗示総統〉:それな
コメント欄を見れば、賞賛よりも戦闘中の発言の方が多いようだった。
やっぺ。普通に俺とか言ってたわ。いやさっきのは元ネタがあれだから何とかなってるか。
「ってか。戦闘狂って何ですか、戦闘狂って。
私、レコーディアさんの助言に従っただけですよ?」
コメント
〈マ=ツー〉:言ってないんよなあ
〈つねった〉:やっぱりかw
〈レコーディア〉:言葉足らずでしたね 私が言ったのは
「距離が近いほど速度も精度も上がるので防御用に最適」
ってことです
「うえ?」
コメント
〈マ=ツー〉:ついでに初心者配信者にとってこの戦いはある種の登竜門で
最終的に友情が芽生えて見逃すか、泣く泣く倒して終わるかで
癒し枠か攻略枠にわけられるんよ
〈暗示総統〉:掲示板とかだと結構有名
「つ、つまりそれをすっ飛ばした私は……?」
コメント
〈マ=ツー〉:戦闘狂枠だなww
〈つねった〉:ようこそ、こちら側へ(ニッコリ
「ジーザスっ」
とまあこんな感じで、予想外はありながらも配信は進みーー
「それでは、今日はこの辺で終わりたいと思います。
長い間お付き合いただきありがとうございました。次の配信は来週を予定しているんで、良かったらまた見に来てくださいね」
コメント
〈つねった〉:乙~
〈マ=ツー〉:おっけー。また見に来るわ。
〈スルト〉:おつ、楽しかったっ
〈ミミちゃんに踏まれたい〉:お疲れさまでした~
〈レコーディア〉:お疲れさまでした
またよろしくお願いしますね
少しだけ惜しまれながら(?)一時間弱の初配信を終えたのだった。
「結構よかったんじゃない?
君の暴走を除けば、終始和やかな感じだったし」
「だな。ああー終わったああ」
急に緊張がやってきて、思わず大きな息を吐く。
まあでも、うん。俺も楽しかったな。
______________
【初配信】はじめまして、魔法少女系Dtuber蛍日蓮花です
112回視聴 0分前に配信済み
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