第八話 初配信
子天ノ内ダンジョン、地下三階層。
暖かな陽気と長閑な草原が広がるその場所に、俺は魔法少女姿で立っていた。
「れんか、やる気は十分かい?」
「……ああ、今なら何でもやれる気がする」
不安そうなクロの言葉に、大きく首肯する。
SNSのアカウントを作って宣伝したり、人気配信者の動画を見て研究したり、この一週間色々準備してきたんだ。きっと大丈夫さ。
……いやごめん嘘。何かめちゃくちゃ心臓がバクバク言っているわ。
現実逃避がてら、いま一度配信画面に目を落としてみる。
胸の前で半透明で表示されているそこに書かれているのは、「【初配信】はじめまして、魔法少女系Dtuber蛍日蓮花です」の文字。
タグには「子天ノ内ダンジョン」もちゃんと入れて、導線の確保も十分。
すーはーと息を吸いこんで、俺は配信開始の画面を押した。
さあ。伊奈川煉也、一世一代の大勝負やっ。
______________
【初配信】はじめまして、魔法少女系Dtuber蛍日蓮花です
0人が視聴中 0分前にライブ配信開始
______________
切り替わる表示。
画面に映るのは原っぱをバックに優雅に微笑む俺の姿。傍らに浮かぶ配信くんーー良い感じの画角で自動追尾してくれるドローン型カメラによって撮影された映像だ。
これのおかげで一人でも生放送ができるんだから、ほんとハイテクな時代になったよなあ。……因みにこれのせいで貯めていたお年玉の半分が消えていたりする。ゆるせねえよなあ?
______________
1人が視聴中 0分前にライブ配信開始
______________
「あ、こんにちわ~。
新人Dtuberの蛍日蓮花です。これから子天ノ内ダンジョンを攻略していく予定ですので、のんびり見ていってくださいね~」
「……うわ、相変わらす凄い切り替えだね」
初めての視聴者の登場にすかさずお淑やかな笑顔を浮かべる。
うん、声も震えていないしなかなか自然に振舞えているじゃなかろうか。
思い出すのは「人気
『いい、おねぇ?
大事なのは親しみやすさなんだよ。魅せプや無駄なキャラ付けなんて必要ない。
配信を見に来た人を楽しませること、これを目標に頑張ってみて』
『ほーん、じゃあ今話してる感じでやればいいのか?
自分で言うのもなんだけど、わりと男っぽいだろ、この口調』
『うーん、あんまりお勧めしないかな。
そういう色物キャラは上手くやらないと視聴者さんが離れちゃうからね。
ほら、日常生活で自分のことを俺なんて呼ぶ女の人がいたら、何だあいつってなるでしょ。それと同じで面白いとか云々の前に違和感が来ちゃうんだよ。
もっと言えば、男受けを狙ったイタイ奴に見えちゃうわけ』
『……それなら、出来るだけ普通の女の子っぽく振舞った方がいいのか?』
『うん下手に奇をてらったりする必要はないと思う。
男の人って自分が知ってる分野に女の人が入ってくるだけで嬉しいものだからね。
そういう意味で初心者女子のダンジョン配信は強い。
基本男社会で女子ってだけでポイント高いし、先輩冒険者の誰しもに初心者の時期はあったわけだから共感も得られる。
おねぇ見たことあるでしょ? 女性の配信者さんがゲームとかをしてると、「あーそこは俺も苦労したわあ」とか経験者が集まって苦労話を始めるの。
配信見に来てる人も、なんだかんだ言って自分のことを話したいものなんだよ。
だから自分から興味を持って話題を引き出してあげればいい、そうしたらきっと自然と配信も盛り上がってくると思うよ』
『な、なるほど』
『あとはギャップとかも大事だけど……まあ、おねぇは大丈夫か。
さ、それじゃあ次は男受けするしゃべり方の練習だね。
とはいっても出来るだけ清楚っぽい感じでしゃべれれば十分だよ。男なんて基本女にそれしか求めてないんだから』
と元男として耳が痛い講釈を聞いて、今日は清楚女子型質問ボットになろうと決めていたのだ。会話のさしすせそを使ってうまく話題を広げてみせるぜっ。……ところで、さしすせその「せ」ってなんや? せ、せ、セ〇クスが上手ですねっ!?
コメント
〈マ=ツー〉:お、三階層や。懐かしいなあ
「あ、マ=ツーさん。コメントありがとうございます。
先輩冒険者の方ですかね? そうなんですよ。まだ一週間前に冒険者登録したばかりなので、これからスタートっていう感じです」
コメント
〈マ=ツー〉:なるほど。楽しみにしてるわ
〈暗示総統〉:一・二階層には行かないの?
「おっと、暗示総統さん。騙されませんよ?
Dログっていうレビューサイトで事前に確認してましたからね。友達と一緒に安全に突破させていただきました」
コメント
〈マ=ツー〉:あー、あれかあ(苦笑い)
評価酷いことになってるもんなあ
〈暗示総統〉:あれのせいでクラスの女子が来たがらない、残念
「やっぱりみなさん迷惑されてるんですね。
もうなんか「変態紳士vsフェ〇戦士vsダ〇クライ」みたいな感じで見てる分にはすごい楽しかったんですけど……あ」
コメント
〈マ=ツー〉:!!??
〈暗示総統〉:……もしや、結構いけるクチ?
やっべ、ついいつもみたいにネタを出しちった。
そう思って、コメントを見てもそこあったには意外と好意的な声。
……そういやTS前もネットスラングとかを使う配信者って結構人気だったな。
なるほどこれも親しみやすさってやつか。そこまで我慢しなくていいとなると、気が楽だなあ。
「こほん。今の話は置いておくとして、です。
実は皆さんに聞いてほしいことあるんですね。ちょっとこれを見てみてください」
配信の目的を話そうと、自身のステータスを開示状態にして配信に乗せる。
_______________
ーー Lv6 HP 15/15 MP 40/40
職業 『魔法少女(炎)Lv1』
スキル 『
装備 『魔法少女(炎)セット』(ON)【固定】
使い魔 クロ(マジカルキャット)(ON)
状態 配信中
______________
そこに表示されたのは身バレ防止のために名前が空欄となり、またレベル上げによりHPとMPが上昇したステータス。ついでに状態の欄も追加され配信中となっていた。
コメント
〈マ=ツー〉:魔法少女!? まじか本当にそんな職業あるのか……
〈暗示総統〉:初めて見た
「ええ、そうなんですよ。私も色々調べてみたんですけど、何の情報が見つからなくて……
それで配信とかしたら何か分かるかもと思って、始めてみたんです」
コメント
〈マ=ツー〉:確かに自分の職業の事なら気になるわなあ
おっけー、ちょっと管理人のところに連絡してみるわ
〈暗示総統〉:使い魔っていうのは?
「あ、マ=ツーさん、ありがとうございます。
使い魔ってのはこれのことですね、おいでクロ」
「ようやく僕の出番かい? 待ちくたびれたよ」
コメント
〈マ=ツー〉:!! かわわっ
〈スルト〉:モフモフきたーっ
〈ミミちゃんに踏まれたい〉:ほお、魔法少女に黒猫とはよく分かってますねえ
〈暗示総統〉:よくなついてる……
恨み言を言いながらひょいと飛び乗ってくるクロの登場に、コメ欄が湧く。
これもネット上に何もなかったからなあ。分からないことだらけだよ、ほんと。えーと、調べた情報によるとーー
「確か扱いとしては精霊使いの精霊と同じみたいですね。
戦闘には関与しないけど、パーティー枠も圧迫しないって感じです」
精霊という特殊な種族のモンスターを使役して戦う職業、精霊使い。
彼らが使う精霊もまたパーティー(一緒に潜る仲間のこと、ただし最大八人)の仲間として登録されないらしい。
モンスターをバーティーで倒した場合その経験値はパーティーメンバーに平等に分配されるから、枠を取らない分本人のレベルアップが早いなどの利点があるとのこと。
コメント
〈ミミちゃんに踏まれたい〉:当然ですね
猫ちゃんに戦わせるなんて万死に値しますよ
〈レコーディア〉:新スキルと聞いて
〈スルト〉:管理人さんやん!! はっやっ
「あ、ミミちゃんに踏まれたいさん、レコーディアさん、スルトさんも見に来てくれてありがとうございます。
管理人? あれ、そういえばどこかで……」
レコーディアという名前に聞き覚えがある気がして、思考を巡らせる。
どこ、だったかなあ? 確かスキルとか職業を調べているときにーー
コメント
〈マ=ツー〉:「完全攻略 サルでもわかる冒険者のすすめ」
っていう攻略サイトの管理人さんやね
多分蓮花ちゃんも知ってるはず
「あっ、そうでしたっ。
あのサイト凄く助かったんですよね。ありがとうございますっ」
コメント
〈レコーディア〉:いえ、好きでやってることですから
「完全攻略 サルでもわかる冒険者のすすめ」
有志によって運営されてるそのサイトには、職業やスキル、各ダンジョンの情報や初心者冒険者向けの講座など、色んな情報が網羅的にまとめられていたのだ。
そして確かにそこの管理人の名前がレコーディアさんだった。
国内有数の情報が集まるサイトの支配者さん。
おー、これは色々と進展しそうなんじゃないかっ。
現在の状態
______________
23人が視聴中 5分前にライブ配信開始
______________
チャンネル登録者数 11人
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます