第三話 男の人って……
「それじゃあ、やるぞ」
「うん、その意気だよ。
必要なのは願うこと。なりたい姿をイメージするといい」
妹と黒猫による尊厳破壊を乗り越えた後、俺は再び変身とやらにチャレンジしようとしていた。
洗面台の鏡に映るのは(見た目だけなら)活発系の女の子。
魔法少女になるなら赤と炎が似合うかなあ。俺も炎とか操ってみたいし。
「変身っ」
その呪文と共に俺の体は白く発光しーーやがて予想通りの姿が現れた。
ひらひらした赤いミニドレスに身を包み、真っ赤な髪を二つに束ねた少女。
右手の魔法のステッキらしき杖と右頬の炎を模したマークが、いかにも炎の魔法を使いますよ感を醸し出している。
うむ、俺にしてはなかなかに可愛いんじゃなかろうか。
「……驚いた。普通に女の子っぽい衣装なんだね。
君の性格的にボーイッシュ系を攻めると思っていたよ」
「あ。そうじゃん」
やっべ、ついゲーム感覚でやっちゃったけど、これ俺が着るのか。
……まじ? こんなひらひらした服を?
この姿の俺が怪人と戦う最悪な光景が頭に浮かび、血の気がさあと引いていく。
「その……直せたりする?」
「何言ってるんだい?
この僕が戻し方なんて知ってるわけないじゃないか」
「っ……」
黒猫の態度につい手が出そうになるも、その感情を視線もろとも彼方に流す。
……まあ、うん。明日の事は明日の俺が何とかしてくれるさ(現実逃避)。
「それで、この姿になったら魔法が使えるって認識で大丈夫か?」
「うん、多分ね。ただここではやめておいたほうがいいよ。
魔法の制御は一朝一夕に身に付けられるものじゃない。最初は安全な場所で練習するべきさ」
「あー確かに」
火事でも起きたら洒落にならないか。
うーん、火を思いっきりぶっ放しても場所……どこだろ? 『公園にコスプレ姿の不審者出現!?』とか騒がれたくないしなあ。
あー、でも夜なら「花火やってました」で誤魔化せる可能性が微レ存?
「まあ、それは後々考えることにして、と。
これで君も立派な魔法少女だね、れんか。
僕の名前はクロ、君のパートナーさ。よろしくね」
「ああ。よろしく、クロ。
出来れば短い付き合いになることを祈るよ」
黒猫ーーもといクロが差し出してきたお手々に右の拳を合わせる。
かくして、この奇妙な生き物との共同生活が始まったのだった。
「ダンジョン……?」
それから暫くして、魔法少女に関する情報でもないかとネットの海を彷徨っているとそんな不思議な単語を見つけた。
それがあったのは政治・経済のニュース欄。
なにやら去年の日本の海外からの観光客は新ダンジョン発生の影響で前年比の130%まで膨れ上がったらしい。これで10年連続の増加とのとこ。
?? ゲームとかの話じゃ、ないよな……?
「どうしたんだい? 何か変わった事でもあった?」
「あ、そうなんだよ。何か日本にダンジョン? とやら現れたみたいでさ、ちょっと色々と調べてみるわ」
ここに来て初めての(TS以外での)明確な変化だ。
何か分かるやも知れぬ、と何故か硬直してしまったクロを尻目に適当なサイトを周って情報を集める。
そうして、大きな特徴として分かったのは主に三つ。
・ダンジョンとは10年前から日本にのみ現れるようになった異空間のこと(発生原因はいまだ不明)。
・中には凶悪なモンスターやトラップが待ち構えていて、探索者はそれ専用の装備とスキルで戦わねばならない(現実の防具や兵器は効果がないらしい)。
・ダンジョン内で死亡しようと現実の体には影響しない。これはダンジョンに入った時点で探索者の体が全く別の物質ーーD粒子に置き換わるから。
とまあこんな感じで、その娯楽性と安全性の高さから特に若い世代を中心にダンジョンで遊ぶのが流行っているらしい。
また今では日本の重要な観光資源になっているのだとか。
うーむ。本当にゲームみたいな話だ。
誰ぞやの『筐体型VRゲームの究極進化版』っていう例えが一番しっくりくるな。
「ちょっと動画でも見てみるか。
ダンジョンを攻略する様子を配信してくれる人もいるみたいだぜ」
「う、うん。そうだね」
クロに説明した後、大手動画投稿サイトに上がっていた一本の動画を再生する。
タイトルは『箱高ダンジョン攻略日記part1@鶴森もえ』。ダンジョン配信と調べたら一番上に出てきた動画だ。
『みなさんこんにちは~。Dスター所属、魔法剣士系アイドルの鶴森もえです。
今日は箱高市にあるーー』
洞窟のような場所でこちらに向けて笑顔で手を振る20歳くらいの少女。
その全身は顔を除いてフルプレートの白い鎧で固められており、まるでどこかの女騎士のよう。
そうして彼女は軽い足取りで中を進み、並み居る敵を討ち滅びしていく。
小鬼のような化け物をロングソードで叩き潰し、襲ってきた大きな蛇を白いビームで滅却させる。
基本「このモンスターはここが弱点なんですよね~」とか談笑しながら、時には嗜虐的な笑みを浮かべて力をふるう彼女。
後に残るのは紫色の石(魔石というらしい)のみ。
そんな男ならだれもが夢見る姿を見せられて、興奮するなと言われる方が無理な話だった。
俺も早くその一員になりたい、と体が疼いて仕方ない。
「ーー思い出したよ、れんか。
僕たちはそこに行かなくちゃいけないんだ」
俺が内なる冒険心と格闘を繰り広げていると、クロがそんなことを言ってきた。ーーそれも何時になく真剣な声音で。
……色々と聞きたいことはあるけど、まず一つ。
「そこってのはこのダンジョンのことか?」
「いや、多分他のダンジョンでもいいんだ。
ただ君たち魔法少女はモンスターを倒して強くならなきゃいけない。何となく、そんな気がするんだ」
「なるほど、ね。そういう話なら俺も大歓迎だ。
確か家の近くにもダンジョンがあったからな」
どこか申し訳なさそうなクロに笑いかける。
箱高に行くとなったら結構お金がかかりそうだと思ったけど、それならありがたい。
ダンジョンの情報が載ったレビューサイトで俺が住んでいる市を探してーーあった。
モンスターの強さを示す脅威度はE~C。「初心者にもおすすめ」との文言もある。うん、これなら俺が行っても大丈夫そうだ。
……あれ、でも口コミ評価が☆2.7くらいしかないな。しかも評価が上と下に両極端に分かれているひょうたん型だ。
何か嫌な予感がするな、とレビューの欄を開く。
まずは☆1から。
ーー
☆1 タイトル:「初心者におすすめ」と書いてありましたが……
完全に詐欺です。気色の悪い触手トラップやこちらの服を溶かすスライムがいました。高評価は全部チ〇ポ共による工作です。
〇ね。
☆1:タイトル:男の人っていつもそうですよね……!
私たちのことなんだと思っているんですか!?
==
!!?? あー、ダンジョンってそういう……。
い、一応高評価の方も見てみるかあ。
==
☆5 タイトル:彼氏と一緒に行きました。
とてもよかったです。
☆5 タイトル:初心者にお勧め
1~2層は強いモンスターは出てきません。
女性の方でものびのびやれるはずです!
ーー
「……」「……」
あまりにあまりにもな情報に、思わずクロと一緒に頭を抱える。
違うんだよなあ、今それは求めてないんだよ。
だってさーーむしろやられる側じゃん、俺っ。
「さ、今から楽しみだね。子天ノ内ダンジョン。
どんなワクワクする展開が待ち受けているだろう……?」
「誰が行くかっ。待ってるのはエ〇エ〇の展開なんだわっ。
正直メス堕ちする未来しか見えねぇよっ」
「……へえ、本当にそれでいいのかい?
触手に捕らえられた可愛い女の子を合法的に助けられるチャンスがあるかもしれないよ?」
「あっ」
クロの言葉に、天啓を受けたような衝撃を受ける。
そうだ。この姿ならあんなことやこんなことになった女の子をガン見できるわけでーー
「そ、そこまで言うなら仕方ねえな。
クロのためにもちょっと覗いてみるか」
「……ほんと、男の人ってどうしていつもそうなんだろうね」
浮かれた気分の中、クロの冷たい一言が刺さった。
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