雪と猫

雪と猫

人との関わりは疲れるもの。

消えてしまいたいが、こんな寒い日に遠くまで行く勇気はない。


玄関前にしゃがみこんで、しんしんと降る雪を見ていた。


大粒の雪がどんどん、私にも積もる。

あたりはみるみる暗くなる。


鼻水が出るほど寒いが、家に戻って家族に情けない顔を見せる気にはなれない。

白いため息を見ていると、からからと玄関の引き戸が開いた。


猫が前足で器用にドアを開けて出てきた。

尻尾をたてて私の横に来たので、開けっ放しのドアは閉めてやる。


猫の黒い毛はすぐに白くなった。

寒くないのか、猫は横になって私に白いおなかを見せている。


お前は優しいね、とその腹を指でくすぐった。

猫はひゅるりと起き上がって、玄関前の石段をおりた。


振り返ってこちらを見ている。

暗闇に金色の目が光っている。


私が立ち上がると少し進んで、またこっちを振り返った。

なんだなんだ、ついていってやろう。


深い雪の上をスキップするように進む猫。

人間は無様に埋まりながら歩いた。


納屋の裏。向こうの家の納屋との間に細い道があるのだ。

ここに入りますよ、と猫が立ち止まる。


猫は悠々と進む。

こんなところ、大人になってからは当然入らなかった。


水仙が咲いていた。

水仙って、毒じゃなかったか。


こんなの猫の散歩道に咲いていていいのか、と心配する。

しかし猫は素知らぬ顔で水仙の横にならび、それがまた絵になる。


猫はどんどん奥へ進んで行った。

納屋の裏道、突き当りは別の家の塀だった。


猫は私を待っている。

突き当りの右側には小さな、猫しか通れないような穴倉があった。


行けないよ、というが猫は目を細めて見ている。

私が立ち尽くしていると、猫は白い鼻息を吐いて穴に入っていった。


覗いてみると中は苔むしていた。

いつもこんなところを通っていたのか。

それにしては帰ってきた猫が汚れていることはそうそうない。


猫はもう私を待たずに進んで行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

雪と猫 @morning51

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ