襲撃

 魔女。

 人類の敵。呪いの集合。魔力の怪物。


 イレギュラーと呼ばれるこの存在の発見例は、記録が残っているものだと三体。

 二百年前に一体、五十年前に一体。そして現在に一体。

 発生要因、あるいは原因は不明。唐突に現れ、圧倒的な強さで人々を蹂躙する。

 その時代のあらゆる兵器を用いて討伐作戦が決行され、尽く失敗し、多大な犠牲だけを残す。

 三例全て、その過程も、破壊の規模も異なっているが、一つだけ共通していることがある。


 それは、


 全て魔女は、自害によってその生命終了している、ということだ。



 ・・・



 最初、私はこの作戦に懐疑的だった。


『魔女が隠れていると思われる地域全体を魔法で焼却する』


 しかも範囲内の人達を避難させたりもせず、不意打ちで焼き尽くす、なんて。人を助けるために魔法少女になった私からすれば、容認できるはずもなかった。

 でも、作戦は決行された。

 高校生の私には、少々刺激が強すぎる光景だった。夢に見るんじゃないかと思うほどに。

 住人の人達が悲鳴を出す暇も無く、一瞬で該当地域は焦土と化した。


 ただ、一軒の民家を除いて。


「あれが魔女の住処?」

「そうみたいね」


 一緒に作戦に参加した魔法少女達の話し声が聞こえる。

 焦土にポツンと、何の変哲もない一軒家が鎮座していた。

 魔法によって焼かれた地面はそこら中から火を吹き、赤黒く染まっていたが、その一軒家の周辺だけは、元の色と形状を保っていた。

 寒気がするほどの結界強度、そして効果範囲だ。私が同じ範囲を守ろうとすれば、そよ風を受けるだけで粉々になってしまうような強度になってしまうだろう。


 その場にいる全員に待機が命令される中、ついに一軒家の玄関、その扉が開いた。


 中から出てきたのは、私と同じか、少し上かくらいの女の子だった。

 眠たそうに目を擦る姿からは、一切の脅威も、敵意も感じられない。

 女の子は最初、周りが焦土になっていることを不思議がっている様子だったが、私達の方に視線を向けた途端、目を大きく見開き、そして、


 吐き気がするほどに濃く、重い殺意を溢れさせた。

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フェイク・ウィッチ 蜂蜜酢 @Hachimitu888

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