後処理

 夜。水浸しになった街道、そして道路の先に、倒れ伏す複数の人影があった。

 一人を除き、全員が黒いスーツ或いは隊服らしきものを身に纏っており、一つのチームであることが伺える。

 苦しげにうめき声をあげ、起きる様子のない彼ら。そこに、何処かの学校の制服を纏った、一人の高校生位の少女が近づいていく。

 少女は人影の中で唯一白の衣装を纏った女性の傍まで行くとしゃがみ込み、肩を優しく揺すりつつ声をかけた。


「ほら先輩、いつまでも気絶してないで。もう夜なんだから起きてください」

「……ぐっ、千花ちかか?」


 先輩と呼ばれた白服の女性は、少女――千花の言葉に苦悶の声を漏らしつつ起き上がる。

 体を起こした女性は周りに倒れる黒服達を見渡すと安心したように息を吐いた。


「全員生きてるな」

「起きてるのは先輩だけですけどね」

「そうだろうな」


 女性は軽く服を払い立ち上がると、千花に対し問いかける。


はなはどこにいる?」

「狙撃防がれて拗ねてますよ。今はけいに抱きついて寝てるんじゃないですかね」

「……そうか」


 聞いたのはここにはいないとある少女――華という魔法少女のこと。昼間に渾身の狙撃をあっさりと防がれた彼女は、現在仲間の魔法少女に慰めてもらっているところだった。

 千花の返答に女性は小さくため息を吐くと、咳払いを一つして声色を真剣なものに変える。


「作戦を練り直す」

「ほいほい。魔法はどこまで通用しました? 割と強めのやつだったと思うんですけど」


 まず千花が質問する。用意していた魔法がどれだけ使のか、その確認。


「二つ目までだ。殆ど使用もできていない」

「えっ嘘、アレ効かなかったんです?」


 千花もハナから期待していなかったが、しかしそれでも女性の返答に驚きの声をあげる。


「反射されたからな。当たれば効くのだろうが、一度見せた以上二度目はまず当たらんだろう」


 そして、続いた女性の言葉に絶句した。

 困惑と驚愕とその他色々な感情が混ざり合った表情で固まり言葉を失う千花。数秒その状態で停止したあと、我にかえった彼女は早口で捲し立てる。


「は、反射!? あんな複雑怪奇な術式を!? 使うだけでも大変なのに!?」

「魔女の名は伊達ではないということだな」


 冷静な女性。

 その様子に千花は呆れたような目を向ける。


「そのレベルなら他の魔法とか、搦め手なんかもダメそうですね……。なんならもう作戦立てても無駄じゃないですか?」

「ならどうするんだ」

「そりゃもう当たって砕けろというか、行き当たりばったりというか」

「それを選べば確実に砕け散るし、間違いなく行き止まるだろうな」

「まあそうでしょうねー……」


 千花は大きくため息をつく。


「魔女の居所も全然わかんないし、嫌になりますよ。もう諦めてよくないですか?」


 千花の言葉に女性は答えない。

 千花はさっきよりも深くため息をつき、続けた。


「そういえば、魔女との諸々、一般人に見られてたっぽいんですけどどうしますか? 緘口令? 菓子折りでも持っていきます? 口封じは勘弁ですよ」

「面倒だ、なかったことにしておけ」

「うぇ、またあれ使うんですか? 最近使いすぎじゃないです? 濫用はよくないですよ、マジで」


 二人の会話の傍ら、倒れていた黒服達が目を覚まし始める。

 二人はそれらに気づくと、撤収の準備を開始した。


「30秒後に転移しまーす。皆さん準備してくださーい」

「帰るぞ。もう一度作戦を立てる」


 慌てて次々と立ち上がっていく黒服達。

 きっかり30秒後、彼らはその場から姿を消し、夜の闇と静寂が残るだけとなった。

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