思い出

 記憶の底。

 大切にしまわれたあの日々の思い出。

 何一つ、隅々に至るまで忘れたことのない、命よりも大切な輝かしいそれら。


 そんな記憶の中で、はいつも笑っている。


 私の隣で、目の前で、背中で、膝の上で。

 どこに行っても、どんな時でも、彼女は笑顔を絶やさなかった。


 彼女の暖かい声を、今でもハッキリと思い出せる。

 彼女の暖かい体温を、今でもハッキリと思い出せる。

 彼女の匂いも、姿も、今ここにあるように、まるで現実かのように、カタチをもって思い出すことができる。


 誰よりも何よりも、世界よりも、大切な彼女。


 だが彼女はもういない。

 死んだ、殺された、抹消された、


 彼女が居た記録は、もう私の中にしか残っていない。


 そう思えば、心には途方もない悲しみと喪失感が満ちる。

 会いたい、話したい、彼女が如何に可愛く、優しく、強いのかを自慢したい。


(寂しいよ、■■)


 それが出来ないことも、したところで誰にも伝わらないのも。

 知っている私は、ただ寂しさに痛む心を無視して、庇って、誤魔化して、足を進める。


 いつ終わるかも分からない道程に、全てをすり減らしながら。


 歩みの果てに、彼女が待っていることを信じて。

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