月夜の教会にて

鈴乱

第1話 月夜の教会で

『あぁ、疲れたな』


 誰もいない真夜中の教会。

 私は最前列の長椅子に腰かけてぼうっとしていた。

 祈りの儀式ももう終わった。既に人々も各々の家に帰っていった。

 今日すべきことはすべて終えたはずだ。

 もしかしたら、迷える子羊がくるかもしれないが、今のところは静寂に包まれている。


 月の光が窓から幾筋も差し込んでいる。珍しく明るい夜だ。


「今日は、満月なのでしょうか……」

 口にしてしまえば、月が見たい衝動に駆られる。

 ――教会もそろそろ戸締りをしなければ。見回りもかねて、少し外に出てみようか。


 今思えば、うっかりしていたのだと思う。張り詰めていたはずの気を、抜いていた。


 長椅子を立って、通路を歩く。教会の出入り口は一番後ろにある。そこから出て、少し月を眺めてみよう。


『お前は、そんなに強くねぇだろ』

 ふと、彼の声が脳裏をよぎる。


『えぇ、そうですね』

 今は素直にそう言えるような気がした。


 扉に辿り着いて、押し開けようとした刹那。私の中に一瞬の違和感が走る。直感的に体が警笛を鳴らす。


“開けてはダメだ”


 そう、頭が叫ぶのに、私は扉を押そうとする手を止めることが出来なかった。

 まるでそれが決められていた運命のように――。


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月夜の教会にて 鈴乱 @sorazome

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