第12話 回復湿布
(あーあ。あんな雑魚一角ペンギンをいなしたくらいであんなに喜んじゃって)
けれど、冷めた眼差しを露わにしたは刹那の間。
ほしい。
すず凪は切に思った。
白い本を癒す少年も、一角獣を癒す少年もどちらも。
この二人がいれば、白い本に珍しいものを収集し放題。
つまりは、がっぽがっぽお金を稼ぎ放題だ。
(くっくくく。あら。もう。変な笑い声がうつっちゃったじゃない)
悪魔の笑みを浮かべたのも、刹那の間。
すず凪は力を使って座り込んでしまった浩輔に近寄ると、しゃがんで回復湿布を差し出した。
「これを首の後ろに貼れば体力が回復するわ」
「はあ。どうも」
にこにこ笑うすず凪を見て礼を言いながらも、浩輔は受け取ろうとはしなかった。
この魔法使いの少女と後ろにいる魔法使いの少年は、何も言わず勝手に海斗を白い本に吸収したのだ。
魔法でここに呼び寄せてくれたのは感謝するが、信用できるかと言えば、信用できない。
けれど。
(こーゆー見知らぬ、しかも異世界では、現地の人の協力が不可欠なんだよなあ。海斗は漬物の手の力?っていうので、白い本から自力で出て来られたみたいだし。また吸収されても大丈夫だろうけど。魔法使いだし。他にも色々魔法使えるんだろうなあ。俺たちのこの癒しの力でどうにか対処できるのかな)
頼りになりそうだ。味方なら。
厄介になりそうだ。敵ならば。
浩輔は座ったまま海斗を見た。
海斗は浩輔を見て小さく頷いて、すず凪に話しかけた。
「おまえらはどうやら俺たちの癒しの力が必要らしいな」
すず凪がしゃがんだまま海斗を見上げて、無言で見つめること、十秒。
すず凪は立ち上がって海斗と向かい合うと、そうよと肯定した。
「あなたたちの力があれば、この『魔殿の森』の珍しい生物無生物ぜんぶ白い本に収集することも夢じゃないわ。そして、その白い本を売れば、一生困らない生活を送れる」
「収集ってことは、一生その白い本に閉じ込められたままってことか?」
「いいえ。どれくらいの時間閉じ込めるかは個体差はあるけど、一定時間閉じ込める必要があるわ。でも一生白い本に閉じ込められたままじゃない。私たちが収集して、本屋の力で白い本から出すの」
「つまり、白い本に記録されたあとは、また自由の身になるってわけだな」
「ええ」
「最長どれくらいの時間閉じ込められるんだ?」
「最長一週間。閉じ込められている間は休眠状態になる、はずなんだけど。あなたは例外みたいね」
「クッククク。その本屋ってのはいつも都合よく現れてくれるのか?そいつがいないと白い本から出られないんだろう?」
「ええ。嘘みたいにね。ふらふらしている人だけど、白い本に収集してから大体一時間以内で見つかるわ。嗅覚がすごいんじゃない」
「クッククク。そうか」
少しの間、こいつと二人で話をさせてくれ。
海斗がそう言うと、すず凪はわかったわと言って、あわ埜と未だ田園世界に飛んでいる本屋を連れて少し離れたところへと移動したのであった。
(2023.5.31)
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