第9話 白い本




(ありがとよ、ばっちゃん。ばっちゃんが、ちっちぇえ頃から俺に漬物を教えてくれたおかげで、俺はこの異世界でこの力を目覚めさせることができたぜ)


 白い本を癒す漬物の手の力を。

 海斗は今も存命の祖母の顔を頭に浮かべつつ、言葉を紡いだ。


「クッククク。おまえらに雑に扱われたその嘆きを、俺のこの漬物の手で癒してやったってわけだ。そのお礼に俺を出してくれただけの話よ」


 うわー、何だろうこの少年。

 顔に手をかざして、自分に酔っちゃっている感満載なんですけどー。

 すず凪とあわ埜はドン引きしながらも、海斗が手に持つ白い本を見た。

 確かに。雑に扱っていた自覚はある。

 あるけれども。

 そもそも白い本に意思があるなんてそんな話は聞いたことがない。

 ないけれども。

 気のせいでは、ないだろう。

 ご機嫌です健康体ですと言わんばかりに、白い本が輝きを放って、艶やかになっている。

 少年の言葉に嘘はないだろうと、すず凪とあわ埜は判断しながら、お互いに顔を見合わせて、にんまりと笑った。

 この少年がいれば金が多く稼げる。

 白い本がこの少年によって常に癒されているなら、何でもかんでも吸収可能であり、白い本の外見もとてもきれいになっているので、本屋も感涙にむせび、財布の紐を緩めると言うもの。


 すず凪は最大限に可愛い顔と可愛い声を作って、海斗を上目遣いで見た。


「あなたのお名前は?」

「クッククク。教えるわけねえだろうが」

「私たちが魔法使いだからですか?偏見です。私たちに名前を教えたからって、命を握られるわけじゃないんです」

「クッククク。信じられねえなあ。勝手に白い本に閉じ込めただろうがよ」

「格好が珍しいあなたを収集した白い本は高く売れると思ってつい。いきなり閉じ込めたことは謝るわ。ごめんなさい」

「クッククク。素直なのはいいことだが、信じられねえなあ」

「じゃあ、どうしたら信じてくれますか?」

「そうだな。まずは、俺と一緒にいたおまえらと同じ格好をしている少年がいただろう。あいつを俺の目の前に連れて来たら。考えてやる」


 バチバチバチっと。

 すず凪と海斗の目線が交わる先で火花が散る中。

 すず凪はにこっと笑って、わかりましたと言うと、呪文を唱えると同時に空中で杖を使って魔法陣を描き出し、そして、どちらも終えるや否や、忽然と浩輔が出現したのであった。


「おわっ。海斗!え?何?俺、おまえを追いかけつつ、一角ペンギンから逃げてたんだけど?」

「クッククク。この魔法使いに感謝するんだな。おまえをここに連れて来てくれたんだ」

「あ。それはどうもありがとうございます!とても助かりました!」


 浩輔はすず凪に思いっきり頭を下げると、すぐに海斗に向き合った。


「つーか。海斗。さらにハイになってるんだけど」

「クッククク。力が目覚めたからな」

「え?マジか!?え?じゃあ、俺も異能の力が?つーか、何の力なんだよ?」

「クッククク。白い本を癒す漬物の手の力だ」

「え?」


 え?











(2023.5.30)



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