第6話 本屋




「あ~ららっと」


 『魔殿の森』。

 丸い黒のサングラスをかけて、水玉模様の手ぬぐいを喧嘩かぶりをして、小豆色の甚兵衛を身に着ける猫背で年齢不詳の男性である本屋ほんやは、酔っぱらいのように足元をおぼつかなくさせながら歩いていた。


 名の通り、本を売買する本屋は気まぐれに『魔殿の森』と町とを行き来していた。

 『魔殿の森』にいれば、珍しいものをたった一つだけ収集できる白い本をすぐに買い取ることができる、何なら自分も白い本に収集して売れる本を増やそうそうしよう。なんて商魂逞しく考えて、『魔殿の森』にいるわけではない。

 単なる気まぐれ、なのだ。

 町に構える店や町にいるのに飽きたら、ふらりと『魔殿の森』に足を進めるだけ。


 危険な場所に行くなんて莫迦なやつだ。

 町の人たちは本屋を莫迦にするが、危険な場所でもそこがどういう場所か、どういうことに気をつけていればいいのかを理解していれば、危険は危険な場所だが、それほど危険な場所でもないな、と思いつつ、本屋はへらりと笑って、ご忠告ありがとうございますと感謝するのであった。




「「本屋~」」

「あ~ららっと」


 自分の名を呼ぶ声がして天を仰げば、お得意様のすず凪とあわ埜が箒を使って飛んで来たので、本屋はへらりと笑って手を振ったのであった。











(2023.5.12)



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