第5話 一角獣




 浩輔は想像していた。

 白い本にこれから異世界の『魔殿の森』に連れて行くと聞かされてから。

 きっと、一角獣がいるのだ。と。

 一角龍、一角馬、一角兎、一角亀、一角ペンギン、一角鶴、一角犬、一角猫、一角梟などなど、一角が額から生えている動物がいて、その中から一匹だけ白い本に収集する動物を選ぶのだ。

 おとなしいだろうな。

 絶対におとなしい。

 だって、能力が付加されるなんて白い本は言わないから。

 浩輔はこれから行く『魔殿の森』はそれはそれはゆったりとした時間が流れて、それはそれは豊かな色彩にあふれて、それはそれは心優しい一角獣たちがいるのだと信じて疑わなかった。


 白い本は一切言っていないのに。






「嗚呼ああああこんな危険なところなら何か役立つ能力を付加してくれてもいいんじゃないかな!?」


 浩輔は追い続けた。

 海斗を吸収した白い本を持ち、空を飛び続ける魔法使いだろう少年少女を。

 浩輔は逃げ続けた。

 一角ペンギンから。

 右左に身体を揺らしながら進む姿は何とも愛らしい。のだが。

 顔が怖い。

 影を負い身体の輪郭すべてを濃くさせたどこぞのスナイパー並に怖い。

 片手に持っている武器は水鉄砲で怖くないけれども。

 多分、絶対、怖くない痛くない、はず。

 まだ一角ペンギンが撃っていないので、どれほどの攻撃力かはわからないけれども。




「あの子、私たちを追って来るけど」

「白い本に収集した不思議な少年を追って来てるんじゃないかな。何か話していたし」


 すず凪とあわ埜は浩輔を見下ろしたが、すぐに前を向いて飛ぶ速度を上げた。

 まずは本屋に見つけるのが先だった。


「「早く買い取ってもらわないとね」」


 取り返したいのなら魔法を使えばいいだけの話。

 取り返せないなら力が足りなかったと地に這いつくばって諦める。

 ただそれだけの話。

 待ってくださいという、あの少年の言葉に耳を貸す必要なし。なのだ。


「「じゃあね~」」











(2023.5.11)


 

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