第116話 試験が終わって
「ん〜〜!! やっと終わった」
試験最終科目が終わって、凝り固まった身体を伸びをしてほぐしていると栞が席を立って寄ってくる。表情が明るいので試験の手応えは良かったのだろう。
「涼、お疲れ様。できはどう?」
「まずまずかな。おかげさまでね」
俺の方は特に問題はなし。一応全て答案は埋めることができたし、見直しをする余裕すらあった。後はミスや勘違いをしていないことを祈るのみ。
これも栞が前日まで試験勉強に付き合ってくれていたおかげだ。しかも自分の分を完璧にした上で俺の面倒まで見てくれて、本当に頭が下がる。しかも頑張ったらご褒美までついてくるのだ。
膝枕をされたり、頭を撫でられたり、ものすごく可愛く甘えてきたり。まぁ、やってることとしてはいつも通りなんだけど頑張った後にされると次も頑張ろうって気になるから不思議なものだ。
頑張りの度合いで言えば栞の方が上なので、栞にこそご褒美が必要だと思うのだけど、栞的には俺を甘やかすのが自分へのご褒美なのだという。
一度膝枕を交代してみたけど、されるよりもするほうが好きらしい。俺の可愛い顔が見れるのがどうとか言い出したので、恥ずかしくなってそれ以降は余計なことは言わずにされるがままになっている。
実のところ、試験勉強も一緒にいる口実に過ぎない。勉強なんてなくても一緒にいるわけだけど、それを口実にしておけば多少栞の帰宅が遅くなっても文句を言われることもない。そもそも母さんも文乃さんも何も言ってはこないのだが。
これも一学期の期末の成績が良かったおかげだ。さすがに栞が1位で居続けたり、俺が10位以内をキープし続けることは強制されてなくて、それなりの上位を維持してほしいと言われている。
なので勉強を疎かにして順位を落とさないようにこれからも努力は続けていく予定だ。成績が良い方が気分もいいし、何より栞との将来のためにもなるはずだから。
「栞の方も大丈夫そうだね」
「ふふん。誰にものを言ってるのかしら?」
俺も聞かれたので、一応栞にも聞いてみたけど、ドヤ顔が返ってきた。俺の分からないところを全部潰してくれたのは栞なので当然といえば当然なのだが。初めて図書室で試験勉強を一緒にした時みたいな物言いに、ちょっとだけ懐かしさを感じてしまったり。
「それもそっか。栞は俺の先生だもんね」
「先生じゃなくて彼女ですー。彼氏のお世話をするのは彼女の役目、つまり涼の勉強の面倒を見るのも私の役目なんだから」
よくわからない理論で胸を張る栞。よくわからなすぎて笑いが込み上げてくる。
「なんにせよ、2人共無事に試験を乗り越えられたことだし、帰ろうか」
「うんっ! 今日は勉強はお休みにして、ゆっくりしようね?」
「そうだね」
今日の予定は午前中の試験だけで終了なので、このまま帰宅してしまって問題はない。久しぶりに開放されたので、今日くらいは勉強のことは全部忘れて栞とのんびり過ごせる、なんて思っていたのだが……。
「ちょいちょい! 待ちなよ、お二人さん!」
俺達を呼び止めた楓さんはとっても清々しい顔をしている。確か朝までは死んだような顔をしていた気が……。明るく元気な楓さんだが勉強のほうは不得手としているから、色々予想はできたけど。
「彩香……。あなた試験終了した途端、魂が抜けたような顔してたけど、もう復活したの?」
「そんな昔のことは忘れたわ。過去は振り返らない主義だからね!」
「いや、お前はもう少し反省しろ。そして過去を振り返って復習をしろ。一夜漬けに付き合わされるこっちの身にもなれっての」
遥が楓さんの後ろから頭を小突く。これもなんとなく予想通りで、面倒見のいい遥のことだから、楓さんに赤点だけは取らせまいと勉強を教えていたに違いない。
俺達とは完全に立場が逆だ。早くも栞の謎理論は崩れ去った。何事もそれぞれの在り方があるので、当てはまらなくて当然である。
「そんなこと頼んでないもん。遥が勝手にやってるんでしょ?」
「彩……お前ね、俺が面倒見なかったら赤点まみれになるぞ? それでもいいのか? 補習受けたいなら放っとくけど?」
遥の言葉で楓さんの表情が暗くなっていく。補習なんて受けたいやつはそうそういないので楓さんのこの反応はごくごく普通のものだ。
「うぅっ、それはやだ……。遥ぁ、見捨てないでぇ……」
「はいはい。見捨てませんよ。というかもうちょっと普段からやっとけばこんな苦労はしないんだからな?」
遥にすがりつく楓さんと、その頭を優しく撫でる遥。
うーん……。俺達、いったい何を見させられてるんだろう…?
……ってこれ、いつも俺達がやってるやつだわ。なるほど、こんな気分になるのか。微笑ましくはあるんだけどむず痒いというか。
「ねぇ、彩香? 私達帰ってもいいかな?」
「あぁっ! しおりん待ってよ!」
「いや、だって。あんな茶番を見せられるだけなら早く帰りたいし……」
茶番とか言ってあげるなよ……。それ、俺達にも返ってくるブーメランだからね?
「だから待ってって! ね、せっかく試験が終わったんだから遊びに行こうよ! 息抜きも必要でしょ?」
楓さんが俺達を呼び止めた理由、それは遊びのお誘いだったらしい。
───────────────
頭働かないなりに、なんとか絞り出しました!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます