第104話 お世話?
母さんに病院まで来てもらったのでそのまま帰宅してもいいと先生には言われたけれど、制服を始め荷物も学校に置きっぱなしなので一度戻ることに。こんなことなら回収してくるべきだったのだが、あの時はそれどころではなかった。特に栞の取り乱しっぷりがすごかったし。
競技中に抜けてきたので皆にも心配かけているだろうし、なにより途中退場してしまったことで迷惑をかけてしまったので謝らないといけない。
なんて思っていたのだけど……。
「お、皆!涼達戻ってきたぞ!」
クラスメイトのもとに戻ると何故かやたらと讃えられた。『さすが』とか『やるじゃとか』『格好良かったー』とかとか。遥には背中をバシバシ叩かれて、怪我してるからやめろって涙目(本当に痛かったんだ)で訴えたら本気で謝られた。
女子の誰かが『私も守ってー!』なんて言っていたのは栞が睨んで黙らせていた。というのも、栞を守った行動によって俺の株が上昇しているとかなんとかで女子達に囲まれて。これによって心配性な栞が俺を渡すまいとしがみついてきて猫みたいに唸りながら威嚇して……って栞を猫にたとえるのは良くないか……?
皆ニヤニヤしながらやっていたので、きっと栞をからかってるだけなんだろうけど。
体育祭のプログラムはその後は怪我人を出すこともなく順調に進んで、最終的にうちのクラスは学年内で3位という結果に終わった。
足を引っ張ってしまったことを謝ったけど、皆が気にするなと言ってくれて、更には片付けはいいから先に帰れとまで言ってくれた。せっかくの好意に甘えて、栞と一緒に下校することに。
途中で栞がコンビニに寄りたいと言い出した。
「涼は外で待ってて」
普段ならずっとくっついて離れようとしないのに。よくわからなかったけどその言葉に従って待つこと数分で出てきたんだけど、俺を待たせてまで買いたかったものってなんなのだろうか。
いつも通り栞を伴って帰宅して、母さんへの挨拶もそこそこに俺の部屋まで引っ張っていかれた。
「涼、着替え手伝うから」
お世話をするというのは本気みたいだ。学校で制服に着替えた時は自力でできたので、大丈夫なのだが……。
「自分でできるけど?」
「いいから、私に手伝わせて!」
栞の圧がすごくて、根負けしてあっという間に上半身裸にされてしまった。
「背中、見せてね?」
栞は俺が応えるより早く背後にまわって、当てられたガーゼの上から傷を一つ一つ触れていく。時々ピリッとした痛みが走るけど、栞の手つきが優しくてそれすらも少し心地良かった。
「こんなに傷だらけになってたんだ……私、涼が応急処置してもらってる間目を背けちゃってたから、ちゃんと見とかなきゃって思って。ごめんね……じゃないね。ありがとう、涼」
「ううん。俺こそごめんね、栞に心配させて。栞を守れても自分がこんなになってたら格好悪いよな……」
できることならもっとスマートに助けたかった。こんなたくさん怪我してたら無様だよな……。
「そんなことないよ。いつもいつも助けてくれて、私にとっては誰よりも格好良いよ。そりゃ……こんな無茶はこれっきりにしてほしいけど……。嬉しかったから」
こんな俺でも栞は認めてくれて、自信をくれる。身体を張って栞を守ったのは俺だけど、精神的には栞だっていつも俺を助けてくれてるんだ。
「そっか……でも、本当に栞に怪我がなくて良かったよ」
「もう……もっと自分のことも気にしなきゃダメなんだからね?」
「わかってる。心配かけたくないから、これからは気を付けるよ」
「うん」
栞はそこで言葉を区切って少しだけ俯く。心なしか顔も赤いような気がする。顔を上げた栞は上目遣いで呟くように言う。
「ねぇ……キスしていい?」
普段2人きりの時は不意打ち気味にしてきたりするのに、今日はなぜか断りを入れてきた。拒否する理由なんてないから受け入れるんだけど。
「ん、いいよ」
ベッドに腰掛けて隣をポンポン叩いて座るように促すけど、栞は隣ではなく俺の膝に跨ってギュッと抱き着いてくる。
「今日はどうしたの?やけに甘えるね?」
「だって……。隣じゃイヤ。もっとくっつきたいの。あのね……キス、私からするから涼は動かないでね?」
「うん……いいけ──んんっ」
言い終わる前に唇が塞がれた。さらに舌まで差し込んできた。
「ちゅっ──んっ、涼……好きっ。ちゅ、ちゅっ。涼、涼……大好きっ。んちゅ──」
こんなにも情熱的に求められるとなんかそういう気分になってしまうわけで、昨日もしたというのに身体が反応してしまう。そんなの俺に跨っている栞にはすぐバレてしまうわけで。
「へへ……涼、反応してくれてる。嬉しい……」
栞もすっかりスイッチが入ってしまったようで、目がトロンとしている。
でも今日はまずいんだ……。
「ちょ、ちょっと待って。これ以上はダメだよ」
「なんでぇ……?」
俺が止めようとすると、泣きそうな顔で不満を訴える。
「母さん達、下にいるし……」
「昨日だっていたでしょ?なんで今日はダメなの……?」
「いや、それはその……今日は準備がないと言うか……」
つまりはあれだ。昨日使い切ってしまって在庫がないのだ。俺達は未だにはっきり言うのが恥ずかしくて『あれ』とか『準備』とか濁した表現をしている。
「……なくてもいいよ?」
ドクンと心臓が跳ねた。本当にビックリした。
なんてことを言い出すんだ……。
「ダメだよ、絶対に。何があったら聡さんと文乃さんに顔向けできないし、なにより栞の負担が大きすぎるから。だからね、大人になって責任が取れるまでそれは我慢してね?」
ドキドキしながら俺の気持ちを伝えた。だってちゃんと栞のことを大事にしたいから。
「ふふっ、嬉しいなぁ。こんなに大事にされて幸せだなぁ……。試すようなこと言ってごめんね、冗談だったの」
冗談だとわかってほっとしたけど、軽はずみに言っていいことじゃないと思う。
「俺がその気になったらどうするつもりだったの?」
「涼ならそう言ってくれるって信じてたから。でも、ごめんなさい。冗談で言っていいことじゃなかったね」
わかってくれたならいいけど……。それよりもそろそろ降りてくれないと本当によろしくない。
「わかったならちょっと離れよ?」
「え、嫌だけど?」
「だからこれ以上されたらまずいって……」
「ちゃんと用意してるから……」
「へ?」
我ながら間抜けな声が出たもんだ。
「だから、用意……してある。帰りにコンビニ寄ったでしょ?昨日なくなったの私も知ってたし……。今日は……っていつもかもしれないけど、我慢できそうになかったから。守ってもらってからずっと涼にドキドキしてるの。折れた指を見た時は取り乱しちゃったけど、それでもずっと。だから……」
「そっか……それならいい、のかな?」
「もうダメって言われてもやめないからね?」
また貪るようなキスをされて、ベッドに押し倒された。栞は獲物を前にした獣みたいな目をしていたけど、それすらも綺麗だなってボーっとする頭で思ったりして。
「今日は私が全部するから涼は動かないでね?」
キスの前も同じことを言われたけど、どのみち栞が上に乗っているので動けない。
栞の言うお世話ってこういうことも含まれるのかなって思いながら、栞の気が済むまで身を委ねることになった。
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最近この2人こんなことばかりしてる気がします!
脳内で勝手に2人が始めてしまうので仕方ないんです……。
誰か止めてください……!
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