第102話 ◇二人三脚
各学年の騎馬戦が終了したらひとまず昼休憩。一旦全生徒が教室に戻って昼食となる。
「話には聞いてたけど本当にしおりんと高原君のお弁当、中身一緒なんだねぇ」
「彩香ちゃんその話もうやめない?私朝のでお腹いっぱいだよぉ……」
一緒に昼食をとっているのは最近特に仲良くしてくれている面々だ。
そして橘さんの言う朝のというのは栞がぶちまけた話のことだろう。
「そう?私は微笑ましいなーって聞いてたけど」
「だって……惚気がすごくて、羨ま──いやっ、かー君に不満があるわけじゃないんだけどね?」
「俺がなんだって?」
「別にー?ただ、かー君はもう少し女心を勉強したほうがいいよってだけ」
「いや、それもう不満じゃん……何かあるなら言ってほしいんだけど……」
漣は素直というか純真というか、言われた言葉をそっくりそのまま受け取ってしまうところがある。そういう点で橘さんは苦労するんだろう。
俺の場合は栞のことを察してあげようと気にしているし、なにより栞のほうが素直に気持ちをぶつけてくれるので助かっている。振り回されることも多々あるけれど……。
「じゃあ、かー君?今日の帰りにうちに来てくれる?多分親いないから」
「いいけど何するの?打ち上げ?」
「はぁ、これだもんなぁ……」
「なんか紗月も大変だね?」
「栞ちゃんに言われるとちょっと腹立つんだけど!」
「「漣……お前というやつは……」」
俺と遥の呆れた声が重なって、栞と楓さんがそれに笑って。ため息を付いていたはずの橘さんもそれにつられて笑っていた。
まぁ、この2人もなんだかんだ仲良くやっているし、ゆっくり進んでいくんだと思う。
***
賑やかな昼休みを終えてグラウンドに戻れば午後の部が始まる。
そして午後一番に俺と栞の出番が待っている。
さて、練習もしていない二人三脚、はたして上手くいくのだろうか。
さすがに始まる前に打ち合わせくらいはしたけれど。
◆
私の右脚と涼の左脚を結んで準備完了。並んでスタートラインに立つ。
二人三脚って響きがいいよね。これが違う人となら全くそうじゃないんだけど。
涼と一緒だと思うだけで楽しくなる。呼吸を合わせて足並みをそろえて。私達はそうやってここまでやってきたんだから。そしてこれからも。
だから練習なんてしてなくてもきっと上手くいく。そう思ってた。
スタートの合図で結んでいる方の脚から踏み出す。打ち合わせどおり。
ペースは私が作る。涼にだけ聞こえるように掛け声をして。涼は私の歩幅に合わせる。そう決めた。出だしは好調。とりあえず8ペア中3番目。悪くないよね。
頬を撫でる風が気持ちいい。涼と一緒ならなんでもできる。どこまでも行ける。そんな気持ちになる。だから私は涼が大好きなんだ。
涼が組んでいる私の肩をトントンっと2回叩く。これはペースを上げていいよって合図。これも打ち合わせで決めたこと。涼も私と同じ気持ちになってくれてるのかな?
涼の呼吸にも乱れはない。だから少しずつペースを上げて、前のペアの背中が近付いてくる。
でも、そんなのどうでもいいの。涼と一緒に走るのが心地良い。それだけ。
もっと速度を上げて、どこまでも。
でも……私はちょっと調子に乗りすぎてたみたい。
朝、筋肉痛だったよね?普通にしてる分には痛みはなくなってきてたけど、動かし方とかで痛みがやってくることはあった。
コーナーに差し掛かって、少しだけ内側に身体が傾いた時だった。左脚の太ももにズキッと痛みが走って。
あっ、と思った時にはもう遅い。私の脚はもつれていた。走る速度を上げていたのも悪かった。
私の身体は前に傾いていって……手で支えるのも間に合わない。後に振り切ったところだったから。このままでは頭から地面と衝突だ……。
一緒に転んでしまうであろう涼に心の中でごめんね、と呟いて。衝撃に備えて目を瞑る。
…………
……
……あれ?
思っていた衝撃がこない。いや、軽い衝撃はあった。でもその直後、私は地面より柔らかいなにかの上に横たわっていた。
◇
練習してないわりに上手く走れてる。栞とならもっとやれる。そう思った直後栞の身体がグラッと揺れた。きっと足がもつれたんだ、と思った時には栞の身体は前に傾いていた。
急激に時間の流れが遅くなる気がして、でも思考だけがはっきりしている。このままでは栞が地面と衝突する、そう思った。だいぶ速度を上げていたからこのままじゃ……。
無我夢中だった。無理やり栞と地面の間に自分の身体を滑り込ませる。どう動いたのかなんてよくわからない。とにかく受け止めないと、その一心で。
自分の身体で栞を受け止めて、空いている右手で衝撃を和らげようとしておかしな体勢で手をついた。指にズキッと今まで感じたことのないような痛みが走って、思わず手をどけて背中で着地した。
1メートルくらいは背中で滑ったんじゃないだろうか。背中がヒリヒリする。でもそれよりも右手が痛い。
けど、自分の痛みなんてどうでもよくて、栞が無事かどうかだけが気掛かりだった。
「ってて……栞、大丈夫……?」
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