第60話 目的地到着

 迎えた約束の日。俺と栞は一緒に電車に乗り、集合場所へと向かっている。


「結局どこに行くのかわからないままだったね」

「彩香に何回聞いても内緒とか行ってからのお楽しみとか、そんな返事しかなかったのよね」

「なんか企んでなければいいけど……」


 内緒にされると変な勘繰りをしてしまう。あの2人なら俺達を困らせるようなことはしないとは思うけど。


 集合場所に到着すると、すでに遥と楓さんは到着していて俺達を待っていた。


「おっそーい!」

「いや、まだ集合時間まで15分もあるし」

「すまん、涼。こいつ楽しみにしすぎて30分も前からここで待ってるんだ」

「んで遥はそれに付き合わされた、と」

「そういうことになるな」

「柊木君も大変ね……」

「ほら、皆はやくー!置いてっちゃうよー!」


 待ちきれずに1人先へゆく楓さん。これだと置いていかれるのは俺達だけど、迷子になるのは楓さんだ。


「彩!勝手に行くなよ!急いでも電車の時間変わらないんだから」

「だってしおりんと遊ぶの楽しみすぎてウズウズしてるんだもん!」

「ったく、しょうがねぇやつだな。悪いな。ほっとくとあいつ1人でどっか行っちまうから、俺達も移動しようぜ」

「あ、あぁ……でもそろそろ行き先教えてくれてもいいんじゃない?」

「それは行きゃわかるから、それまで楽しみにしとけって」


 やっぱりまだ教えてはくれないようだ。


 その後また別の路線の電車に揺られること30分程。俺達は遥と楓さんに促され電車を降りる。

 さすがにここまで来ると俺でもわかった。ここら辺で最大級の屋外型のプールだ。遊園地とアウトレットモールも併設されているが。

 どうやら栞も察したみたいで、俺の腕に抱きついて言う。


「ねぇ、涼。来年って言ってたのに今年になっちゃったね?」

「そうみたい」

「こんなに早く実現するとは思ってなかったなぁ……けど、また1つ涼と行きたかった場所に来れて嬉しいっ!」


 さっきまで行き先がわからなくて不安げだったのに、わかったとたんに満面の笑顔になる栞。俺も嬉しくなって栞の手をキュッと握る。


「さっそくイチャついてやがるな、お前ら」

「ほっとけ。でもプールなんだろ?俺達、水着なんて持ってないぞ?」

「なんのためにここを選んだと思ってるんだよ。すぐそこで買えるだろ。ここから一旦男女で別れて水着選びな。まぁ俺達は自分のもうあるからお前らの分だけだけど」

「え?せっかくなら涼に選んでもらいたいんだけど……」

「そこは悪いけど彩に付き合ってやってくれ。それにどんなの選んだかわからないほうが涼も楽しみが増えるだろうしな?」


 ニヤリと笑う遙をジト目で見ながら考える。女性物の水着売場であれこれ見ながら栞と選ぶのは楽しそうだけど、試着を待つ間とか店員の視線とかそういうのが気になっていたたまれなくなるだろう。それならば後のお楽しみとしてとっておくのはありかもしれない。それに栞と遊びたがっていた楓さんの欲求を満たしておかないと後で何しでかすかわからない気がする。


「そうなの、涼?」

「たしかにそうかも」

「じゃあ、そうしようかなぁ……でも、来年は2人で来ようね?」

「わかったよ」


 また来年の約束ができてしまった。花火にプール、来年の夏も忙しくなりそうだ。


「彩、旦那の許可が出たから黒羽さんのこと頼むな」

「了解!任せてよ!奥さんのことめちゃくちゃ可愛くしてくるから、高原君楽しみにしててね!」

「だから旦那でも奥さんでもないってば。楽しみにはしとくけどさ」

「でも、婚約はしちゃったもんね?」

「ちょっと栞!」

「へへ、言っちゃった」


 またしても爆弾が投下される。そんなこと教えたら詮索されるに決まってるのに。でも幸せそうな顔で言われたら、もう何も言えない。俺には栞を止めることなんてできないのだ。


「ほぅ……面白いネタあるじゃん。これからゆっくり聞かせてもらおうか。とにかく行くぞ、涼」


 俺は遥に引き摺られるようにして栞達と別れた。



「さて、詮索は後にして水着選んじまおうぜ。水着は好きなの選べばいいけど、ラッシュガードは明らかに男物ってわかるのにしろよ」

「ラッシュガードなんているのか?」

「お前のためじゃないぞ。半分くらいはお前のためかもしれないけど、黒羽さんのためだ」


 ラッシュガードなんてそもそも考えにすら入ってなかったので栞のためと言われてもいまいちピンとこない。頭にハテナを浮かべていると遥に呆れらた顔をされてしまった。


「わっかんねぇかなぁ。涼がみっともない独占欲をむき出しにした時の視線避けとか、ナンパ避けとか、あとは普通に日焼け防止とかな。まぁ色々と使い道はある」


 なるほど。確かに他の男に栞をジロジロ見られたり声をかけられたりしたら嫌だ。独占欲……強いのかな?今まではほぼ2人きりだったからあんまりわかってなかった。でも今も少しだけ栞を楓さんに取られた気がするのはそういうことなのだろう。


 そうして、遥にアドバイスをもらいながら無事水着を購入することができた。


 その後は栞達の買い物が終わるまで、栞との婚約云々の話を根掘り葉掘り聞かれたのだった。






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