第61話 見惚れて

 栞達の買い物が終わったとの連絡を受けて再度集合することに。

 栞はいったいどんな水着を選んだのか。楽しみな反面、楓さんにノセられて過激すぎるものを選んだりしていないか心配にもなる。


「いやー、遅くなってごめんね!しおりん素材がいいから色々着せてたら楽しくなっちゃって、時間かかっちゃった!」

「ちなみにどんな感じのを……?」


 やはり気になって聞いてしまう。


「後のお楽しみなんでしょ?あと今日は髪型もちょっと変えようと思ってるんだ」


 最近の栞は以前は一つに束ねていた後ろの髪をストレートに下ろしていることが多い。見慣れてきたその髪型も変えるということは、普段と違う栞が見られるということでそこも楽しみになってきた。


「高原君期待してていいよ?しおりんの清楚さを損なわずに、でも少し大胆に仕上げてみたよ!」


 予想通り楓さんの意見が結構入っているらしい。楓さんは得意げに胸を張っているし。


「最終的に決めたのは私だけどね?服を選んでもらった時のことを参考にして、ちゃんと涼の好みに近そうなのを選んだから。あとね……」


 栞が俺に身を寄せて囁く。


「ちょっと露出が多いかもしれないから、何かあったら涼が守ってね?」


 そんなふうに言われてしまったら、俺の頭は沸騰寸前。栞の白い肌を思い出したり、それを他の男に見られるかもと思うとちょっと複雑だったり。どうやら本当に俺は独占欲が強いらしい。


「う、うん。頑張るよ」

「うんっ!えへへ」


 もうすでにご機嫌な栞。

 やっぱり俺の彼女はすごく可愛い。まだ本番の水着姿も見ていないのにそんなことを思ってしまう俺は相当なのだろう。


「それじゃ行こっか!」


 楓さんの号令で俺達はプールへと移動する。

 着替えは当然男女別なので、また栞とは別行動だ。

 これまた当然なのだが男の俺と遥のほうが先に着替え終わる。水着に着替えてラッシュガードを羽織り、先に更衣室を出てプールの入口で待つことに。こういうところに来るのは初めてなので物珍しさでキョロキョロしてしまうのはしょうがないことだろう。

 夏休みもそろそろ終わりだというのに、結構な人で賑わっている。プールの方はさすが大型というだけあっていろんな種類のものがある。波のプールもあるし、ウォータースライダーも何種類もある。これは1日で遊び尽くすのは無理じゃないかってくらいだ。

 そうして周りを見渡していると後ろから声をかけられた。


「涼、ごめんね。時間かかっちゃった」


 栞と楓さんが着替え終わって出てきたようだ。これだけの人の中でもちゃんと見つけたことに安堵しながら振り返る。

 そして俺は言葉を失った。というより見惚れて固まってしまったというのが正解か。


「涼?どうかな?」


 栞が恥ずかしげに身を小さくすると、ある部分が強調されて、俺の心拍数はさらに上昇していく。


「……涼?変だったかな……?」


 栞が俺の顔を覗き込んでくる。


「えっと、その、可愛すぎて見惚れてた……」


 こんな栞を誰にも見せたくないし、知られたくないと思ってしまう。けど、ここではそういうわけにもいかない。とりあえず、俺の心の中に詳細を記録する分にはいいだろう。


 まずはいつもと違う髪型。ワンサイドアップに纏めていて、落ち着いた雰囲気の栞に活発さをプラスしている。水着については、楓さんが言っていた大胆さ、それはビキニタイプをチョイスしたところだろうか。そして清楚さは……色が白、ということかな?胸元にリボンが腰回りにはフリルかあしらわれていて可愛さも申し分がない。


 ……遥の言う通りラッシュガードあってよかったかも。でも隠してしまうのももったいない気がするし、俺はいったいどうすればいいんだ……?


「よかったねぇ、しおりん?高原君しおりんに釘付けじゃん!」

「よかったぁ……涼ったら何も言わなくなっちゃうから心配したんだよ?似合わないって言われたらどうしようって」


 俺が黙ってしまったことでここまで不安にさせてしまったことは素直に反省しよう。でもこんな栞に見惚れるなっていうのが無理な話なんだよ。


「栞が俺のために選んでくれたのに、そんなこと言うわけないだろ?」

「うん、知ってる。でもね、ちゃんと言ってくれるまで不安になっちゃうもんなんだよ?可愛いって言ってくれたからもういいけどね」


 不安げな顔から笑顔に戻ってくれてよかった。やっぱり栞は笑っている時の方が可愛いから。


「ねぇ、くっついていい?」

「う、うん。でもお手柔らかに……」

「いーやっ!」


 遠慮なくいつものように……いや、いつもより強く俺の腕に抱き付く栞。普段より遮るものが少なくて、栞の体温や感触が伝わってきて正気を保つのが精一杯である。

 なんとなく周囲から羨望の視線を感じるけど、栞に意識の大半をもってかれているのでそこまで気にしている余裕はなかった。


「私のも感想を……って思ったけど、2人の間に入ったら、私熱さで焼け死んじゃいそう」

「うむ。今はやめとけ。代わりに俺が言ってやろう。彩のも似合ってるぞ」

「遥からのは前の時に聞いたからなぁ……」

「なんだよ、俺からじゃ不満かよ?」

「いひひ、冗談だよっ!遥から言ってもらうのが一番嬉しいに決まってるじゃん!でも取って付けた様な言い方は減点だからね?」


 俺と栞は大概なバカップルだけど、遥と楓さんも負けてないと思うんだよなぁ……


「それじゃ気を取り直して遊ぼうぜ!」


 遥の声で全員が遊びモードへ意識を切り替える。なのだが……

 栞が思い出したように告げる。


「そういえば、テンション上がりすぎて忘れてたんだけど……私泳げないんだった……」


「「「えーーー!!!」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る