第59話 夏休み最後の思い出作りへ

 朝から昨日の夕飯で残った大量のおかずを食べて、俺たちはぐったりとしている。


「さすがにもう食べられない……」

「私も食べすぎちゃった……これはちょっと運動しないとお腹にお肉がついちゃう……」


 そんなことを言う割に、栞のお腹は細くて余計な肉がついてる感じはしない。俺としてはもう少し……っていうのは女の子には禁句か。デリケートな話題には触れぬが吉だ。余計なことを言わないようにして、今度は自分のお腹をつまんでみる。もともと筋肉も脂肪もそんなについていなかったが、夏休みで怠惰な生活をしているせいもあって少し太ったような……?昨日も今日も食べすぎたし、栞がうちでカレーを作ってくれた時も、嬉しくて満腹まで食べてしまった。このままいくとあっという間に肥満になってしまう気がしてきた。


「涼も少しは運動したほうがいいんじゃない?ランニングとか筋トレとかさ」

「う……今まさにそれを考えてたところだよ……」

「別にどれだけ太っても嫌いになったりしないけど、健康のことも気になるし、それにやっぱり格好良い方が私は嬉しいな?」


 そういわれてしまったら、何かしないわけにはいかない。最近では可愛いと言われることのほうが多い気がするけど、俺だって栞には少しでも格好良いと思われたいし。とはいえ、今は夏だし外でランニングなんてしたら、運動不足の俺なんてあっという間に倒れてしまうだろう。


「やっぱり筋トレからかなぁ……体力そんなにないし……」

「なら、今度いつも私がしてるの一緒にやろっか?」


 栞はスタイルもいいし、何かしらしてるだろうとは思っていたけど、やっぱりちゃんとしているらしい。しっかり者の栞らしい。

 栞から普段のトレーニングメニューを聞いていると、栞のスマホが着信を告げる。


「あれ?彩香からだ。ちょっと出るね」

「うん、どうぞ」


「おはよう、彩香。どうしたの?…………え?うん、いるけど。…………わかった、スピーカーにするね」

『おっはよー!高原君!いい朝だね!』


 朝から元気いっぱいの楓さんの声。本当にこの人はいつも元気だ。そのエネルギーを少しでも勉強に向けたら成績も上がるだろうし、課題に苦しむこともないのに。


「おはよう、楓さん。いい朝ってすっごい雨降ってるけど……?今日はどうしたの?」

『しおりんと一緒なら、高原君にとってはいい朝でしょ?相変わらずいっつもしおりんと一緒なんだねぇ。仲が良くて結構なことだよ!』

「彩香?からかうだけなら切るけど?」

『あー!ごめんごめん、切らないで!ちゃんと用事があるの!2人にこないだのお礼を兼ねて夏休み最後の思い出作りに誘おうと思ってね』

「こないだ言ってた遊ぶって話のこと?」

『そうそれ!』

「彩香、あなたちゃんと課題は終わらせたんでしょうね?終わってないならまたしごいてあげるけど?」

『しおりん、怖いよ……ちゃんと終わらせたもん!ちょっとだけ遥の写させてもらって、昨日までかかったけど……って、そんなことはいいの!2人とも、明後日は空いてる?』

「もう何も予定ないから空いてるけど?」

『じゃあ明後日ね!詳細は後でしおりんに送っとくから高原君はしおりんから聞いてね。あ!結構身体動かすことになると思うから、前日に疲れることしちゃダメだよ?というわけでさらばだー!』


 いや、待て!言いたいことだけ言って切りやがった。疲れることってなんだよ……?だいたいダラダラしてるだけなんだけど?


 でも運動の話をしている時に降って湧いた身体を動かすという話。今の俺達にはうってつけだ。1日でどうにかなるとは思ってないけど。


「本当に彩香は嵐のようね……」

「そんな楓さんと付き合ってる遥はすごいよね。栞も最近少し影響受けてる気がするけど」

「私、あそこまで騒がしくないと思うけど?」

「前より元気になったって意味だよ」

「それは彩香じゃなくて涼の影響だもん。私がこうして明るくいられるのは涼のおかげだよ?例えるなら私が月で涼が太陽みたいな感じかな?」

「俺もそんな太陽みたいに明るくないんだけど……まぁ、そう言ってくれるのは嬉しいんだけどさ」


 むしろ俺にとっては栞が太陽なんだけどね。お互い様ということかな。


「でももう夏休み終わっちゃうと思ってたけど、また涼との思い出が1つ増えるね?」

「そうだね。楓さんには感謝しないと。まだ何するのかはわからないけど」



 その後、楓さんから送られてきた当日の詳細。


 行き先 :内緒

 集合場所:電車の乗り換えのターミナル駅

 集合時間:明後日午前9時

 持ち物 :ある程度のお金(必要な買い物があるらしい。入場料は課題の手伝いのお礼ということで遥と楓さんもちにしてくれた)


 詳細のはずなのに……どこに行くのかさっぱりわからん。

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