第0.5話 ◆始まりのきっかけ

 どうやら私の心はどこかおかしいらしい。あんな目にあったというのに、最近は人恋しいと思うことがある。


 かつては親友と呼べる人がいた。あの人さえいれば他はどうでもよかった。私は他人に興味がないんだ、と思い込むくらいに。


 まぁ、今となってはその人はいない。彼女は私を裏切り、そして私は彼女を拒絶したから。

 もうあんな思いをするくらいなら、誰とも関わりたくない。関わるのが怖い。そう思ってた。

 思っていたはずなのに……自ら選んだとはいえ、孤独というものはなかなかに堪えるものだった。


 そんな相反する感情に悩まされる日々を送っていたある日、私はある男子に気付いた。いや、存在事態は知っていた。なにせ同じクラスなのだから。気付いた、というよりは目を付けた、と言った方が正確かもしれない。


 彼の名前は高原涼。私と一緒でいつも1人ポツンとしている。たまに誰かに話しかけられると、しどろもどろになって逃げてしまう。そんな男の子だ。


 なぜ私が高原君に目を付けたか。それはやはり彼がいつも1人だったから。他に交友関係がないならもし仲良くなったとしても、後で裏切られることもないだろう、そう考えたからだ。


 彼ならば、彼も孤独を感じているならば仲良くなれるかもしれない。この寂しさを少しでも紛らわせてくれるかもしれない。

 私が声をかけて、彼が逃げてしまう可能性もあるわけだけど、そんなことは頭から綺麗に抜け落ちていた。


 気付いた時には、私の中で高原君に話しかけることは決定事項になっていた。

 問題はタイミングだ。できれば他の人が近くにいない方がいい。


 彼が放課後によく図書室に行くのを私は知っていた。図書委員の当番の時に毎回見かけていたから。そして我が校の図書室には、ほとんど人が来ない。ならばここをおいて他にはないだろう。


 次の当番の日に声をかけようと密かに覚悟を決めた。


 当日。カウンターの内側に座り高原君が来るのを待つ。ほどなくして彼はやってきた。

 覚悟を決めたといっても、やはりちょっと尻込みしてしまうのは私が弱いから。それになんて声をかければいいのかわからなくなってしまった。


 なんか告白する勇気が出ない子みたい……


 そんなことを思いながら、ただただ視線を送ることしかできない。


 高原君は、私の視線になどまるで気付かず、椅子に座り、教科書とノートを机に広げ始めた。

 今日の復習をしているのか、出された課題をこなしているのか、すらすらと問題を解いている。でもあるところから手が止まって難しい顔で首を傾げだした。

 わからない問題にぶつかったみたいだ。もしかしたら、ここがチャンスかもしれない。幸い私は勉強はできる。まぁ他にやることがないからなんだけど。とにかくチャンスだ。私は静かに彼の後ろに移動して手元を覗き込む。


 あぁ、なるほど。これでは解けるはずがない。


 私は思い切って口を開く。自分で思ってたよりもずっと冷たい声になってしまった。話し方もなんか固くて。


 でも、この時の私の勇気が、行動が、私達の今後を大きく変えていくなんて、その時は全く予想していなかった。

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