第11話 帰り道
花火が終了して辺りに静けさが戻ってから、栞は口を開いた。
「ねぇ、涼。美紀と話をする時一緒にいてくれない?今日はまだ色々整理できてないから無理だけど……」
「俺、部外者だけどいいのか?」
「うん。今日も巻き込んでしまったし、涼がいてくれたら私も勇気でるから。」
「そっか。それならついていくよ」
それで栞が前に進めるというならお安いご用だ。
その後、母さんから『そろそろ帰るわよ』と連絡がきたので合流したのだが、泣き腫らした目をした栞の顔を見て驚いていた。
「栞ちゃん、どうしたの?!涼がなんかした?そうならぶっとばしとくけど!」
「なんで俺が栞を泣かせるんだよ……」
最近になってようやく笑うようになった栞を泣かせるようなことはしたくない。嬉し泣きなら別だけども。
「涼は何も悪くないんです。私自身の問題なので……」
「それならいいんだけど……でもそんな状態で1人で帰らせるわけにいかないから、うちで着替えたら涼に家まで送らせるから。夜も遅いしね」
というわけで、栞の着替えを待って一緒に家を出た。そこまで暑くない時間帯なので歩きだ。まぁもう少し長く栞と一緒にいたかったというか、まだ心配だったというのもあるけれど。
「涼、今日は話聞いてくれてありがとう。話したら少し楽になった」
「聞くくらいしかできなくてもどかしいけどな」
「聞いてくれる人がいるっていうのが、ありがたいというか……独りで抱え込んでると悪い方にばっかり考えてしまうから」
「たしかにそういうのあるよな。俺も栞と会うまでは卑屈なことばっかり考えてたし」
「うん、だからありがとう」
その時、隣を歩いていた栞の指が俺の手をチョンチョンとつついてきた。驚いて栞の方を見ると恥ずかしそうにチラチラと見てくる。優しく栞の手を握ってやると嬉しそうな顔になった。
自然に手を握れた自分にびっくりしたけど、そういえば花火の時も握ってたっけ。
「栞は甘えん坊になったな?」
ちょっとだけからかうように言ってみた。
「涼が優しくするから甘えたくなるんだもの……」
「お、おぅ……まったく……最初のツンツンしてた栞はどこへいったのやら」
「あっちの方がいいならそうするけど……と思ったけどもう無理かも……昔の私も美紀にはこんな感じだったし」
「本当に大好きだったんだな」
「そうね……大好きだった……」
こう言うと栞も俺が好きということになるわけで、友達としてって可能性もあるけど。
「だった……か。今はどう思ってるんだ?」
「今はどうだろ……嫌いって思ったり恨んだりはもちろんしたんだけど、嫌いになんてなりたくなかったってところかしら」
「仲直りしたいって思ってる?」
「仲直りして昔みたいに戻るには時間が経ちすぎてしまったし無理かも。お互いの蟠りが少し解消できたらいいかなとは思ってるけど」
「そっか。なんにせよ話してみないことには始まらないしな。そういえば俺が連絡して予定決めるか?」
「うん、お願い。でも心の準備に3日くらいほしいかも」
「了解。決まったら連絡するよ」
そんな話をしているうちに栞の自宅に到着した。思ったより近くてうちから歩きで20分くらい。そのうちお邪魔することもあるかもしれないけど、今日のところはここでお別れ。
「それじゃ、おやすみ」
繋いでいた手をほどこうとしたら、栞にきゅっと握られた。
「今日はこんなことになっちゃったけど、来年の花火は楽しいだけの思い出にしようね……じゃあ、おやすみなさい」
それだけ言うと、手を離して小走りで玄関へ消えていった。
話し合いもまだだというのに、もう来年の約束をしてくれるらしい。美紀さんとのことがどうなっても、俺との関係は継続してくれるってことだろう。そう思うと、嬉しさが込み上げてきた。
来年のためにも、まずは目の前のやることを片付けなければ。栞の家からの帰り道、俺はスマホを取り出して美紀さんへ連絡をいれた。
『今日、栞と一緒にいたものです。栞が話をすることを了承しました』
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