第12話 寝起きで
返事はすぐにきた。
『ありがとうございます。ご無理言ってすいません。それと、今日は邪魔してしまったと思うので……ごめんなさい』
『いえ。俺も栞から話が聞けたので……それで本題なのですが、話をする場に俺も同席することが、栞の出した条件ですけど大丈夫ですか?』
『大丈夫です。私が無理を言っているのでそれくらいでしたら。あと、あなたにも直接謝罪したいですし』
『では日時と場所を決めてしまいましょう。3日後以降でしたらいつでも大丈夫ですが、どうですか?』
『私はいつでも問題ないです。そちらで決めていただいて構いません』
『それなら─────』
とりあえず予定を取り付けることができた。連絡を取り終わった頃には自宅前まで帰ってきていた。
今日は色々あって疲れた身体をベッドに投げ出し、栞の話を思い出す。俺は栞のことをずっと大事にできるだろうか……今の気持ちで言えば大事にすると言いきれるけど。ついこないだまで自信の欠片もなかった俺に絶対なんていえるのだろうか?もしまたあの話のようなことになったら今度こそ栞の心を壊してしまうかもしれない。あぁ、ダメだ……独りだとやっぱり悪い方に考えがいってしまう。
まだ別れて1時間くらいしかたってないのに栞に会いたくなってきた。せめて声だけでも……そうだ。予定、栞にも伝えとかないと……
スマホを取り出して通話ボタンを押しかけて、やめた。
「明日の朝にするか……」
栞も今日は疲れてるだろうし、ゆっくり休ませてあげたい。俺の不安を払拭するために栞を頼ったらだめだ。今は栞の方が不安だろうし。俺もさっさと風呂に入って寝ることにしよう。
翌朝、暑さで目が覚めた。時計を見れば午前10時前。寝間着にしているシャツは汗でびっしょりだ。気持ち悪いのでシャワーで流そうと階下へ向かうとインターホンが鳴る。母さんがインターホンのモニターを確認すると
「あら、栞ちゃんじゃない」
『おはようございます。涼、起きてますか?』
「今起きてきたところよ。ちょっと待ってね」
「涼!栞ちゃん来てるから、お迎えしてあげて!」
母さんに言われて玄関へ。というか寝起きの格好のままだし、きっと寝癖もひどいだろうけど……まぁしょうがないから出迎えるけど、できることならあまりだらしない姿は見せたくない。
「おはよう、涼」
俺の顔を見た栞はへにゃりと力なく笑った。いつも来るのは午後だったし、来る前に連絡してくるのに今日はどうしたのだろう。
「おはよ、どうしたんだ?連絡もなしに」
「したわよ?でも既読もつかなかったし、寝てるかと思ったけど来ちゃった……なんか心細くなってしまって……」
寝ていて気付かなかったらしい。栞も昨夜の俺と同じで不安になってるみたいだ。
「ごめん、寝てて気付かなかった……とにかくあがって。俺ちょっとシャワーで汗流してくるから母さんの相手でもしててくれるか?」
「うん……ごめんなさい、朝から押しかけて……」
「いいよ。俺も会いたかったし……」
思わず本音がぽろっと……言ってからすごく恥ずかしくなってきた。昨日の今日で会いたいなんて重い系の彼氏か……?ここのところわりとべったりだけど、まだ友達だというのに……
「え……涼も……?」
「あ、いや……そうじゃなくて、って会いたかったのは本当なんだけど、心配してたというか、俺もちょっと不安になってたというか……とにかく、すぐ戻るからリビングで待っててくれ」
逃げるように浴室へ、手早くシャワーを浴び、リビングへ戻る。
「栞、お待たせ」
リビングで話していた栞と母さんが振り向くが、栞は驚いた顔、母さんは呆れた顔をした。
「りょ、涼?!」
「涼あんたねぇ……栞ちゃんいるんだから……」
あ、やばい……いつもの癖で上半身裸で出てきてしまった……寝起きで油断していた……
「ご、ごめん!すぐ上着てくる!」
だらしないところは見せたくないとか思いながら、やってしまった……身体自体はだらしなくはないと思うけど、運動もそんなにしないから貧相だし……
「お見苦しいものをお見せしてすいませんでした……」
ちゃんと服を着てリビングに戻り謝罪した。
「見苦しくはないけど、びっくりした……」
「栞ちゃんいる時は気を付けなさいよ?あ、でもそのうち全身見られることになるかもしれないわよね?」
「み、水希さん!!」
「母さん……俺達まだ友達なんだけど……」
「まだ、ねぇ?そう言う割に栞ちゃん毎日のようにうちに来てるし、あなたたちずっとべったりじゃない?」
「しょうがないだろ。友達なんて今までいなかったし、距離感とかわかんないんだから。とにかく栞も困ってるからそれ以上はやめてくれ!」
栞はさっきから真っ赤になって俯いてしまっている。これから大変なことが控えてるっていうのに、変なことをいうのはやめてもらいたい。
「栞もごめんな。母さんが変なこと言って」
「大丈夫……涼となら別にそうなっても……」
「え?」
後半はよく聞き取れなかったが、栞の隣に座っていた母さんには聞こえていたらしく
「あら〜」
とか言ってにやにやしている。
「とにかく栞に話もあるし、俺の部屋行こう」
これ以上何か言われる前に退散することにした。
「お昼、栞ちゃんの分も用意するから食べていきなさいね〜」
という母さんの声を背に自室へひっこんだ。
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