第40話 ◆覚悟?
「その時は……別にいいよ……?」
「……」
ちょっと待って……私、何口走って……?
ゆっくりって話だったよね……?
大事にしたいって言われたのが嬉しくて、キスをおねだりして、その上……
「んっ……」
やけくそみたいに言ったくせに、抱き締めるのもキスも優しくて……
これはダメだ。ダメだよ。理性なんてあっという間に溶かされちゃう。涼が我慢してても私から求めてしまう。
2人きりってやばい……我慢が効かない。
唇が離れた時、私はとても涼に見せられない顔をしていただろう。そんな自覚があって俯いてしまう。顔が見れない。まだ初日の朝なのに……
自重しなきゃ……3日間身が持たない……
「ご、ごめん、涼……私、また暴走しちゃった……ちょっと頭冷やしてくる。洗面所かりるね!」
逃げ出してしまった。
私、しょっちゅう逃げてるなぁ……
洗面所の鏡に映る私は、案の定な顔をしていた。
目は潤んでるし、顔は真っ赤だし、呼吸も少し荒くて……
慌てて蛇口をひねり、冷水を顔に叩き付けるけど……この熱はなかなか引いてくれそうにない。
5分程そうしていると
──涼に自分の全部をあげるつもりなんでしょ?
自分の心の中で誰かが言う。
──ならそうなった時はその時じゃない?
──やりたいようにやったらいいじゃない。
それもそうだ。外野の言葉に惑わされるなって言ったのは私だ。お母さんの言葉に振り回されすぎてた。そういうことばかり意識するからおかしくなるんだ。意識しすぎず自然体で……私達のペースで成り行きに任せればいい。もし2人とも我慢できなくなれば、それがきっとその時なんだろう。
そう思ったら、すっと心が軽くなった。熱も少しずつ引いてきて。
試しに鏡の前で笑ってみる。
……うん。これなら大丈夫。ただただ涼のことが大好きなだけのいつもの私だ。この顔なら見せられる。覚悟ができたってことなのかな?
洗面所を出て涼のもとに戻る。相変わらず涼は真っ赤な顔で身悶えてる。
ふふっ、可愛い人。
そんなことを思えるくらいには余裕が出てきた。
「ねぇ、涼?」
「うわっ!栞、いつの間に戻ったの?」
「今だよ。それよりも、3日間いっぱいイチャイチャしようね?」
「なっ!逃げ出したやつのセリフとは思えねぇ……」
「そんなことよりさ、お買い物行きましょ?」
「そんなことって……切り替え早すぎない……?」
「涼が遅すぎるんじゃない?ほら、本格的に暑くなる前に行くよー」
「ちょっと待って……強引なんだから……」
「はーやーくー」
無理矢理手を引いて立たせる。手を繋いだままでスーパーまで行くのは、もう私の中で決定事項。
離してあげないよ?涼、手汗がすごいね?でも全然嫌じゃない。もっと動揺して、私にドキドキしたらいい。もっと私に夢中になってほしい。
スーパーに着いても涼はまた少し赤い顔をしてる。
「ねぇ、今日のお昼ご飯と夕飯、何が食べたい?というか涼に相談なんだけど。簡単なものでちゃちゃっと作って私との時間を増やすか、時間がかかっても手の込んだものが食べたいか、どっちがいい?」
私としては今回は涼との時間が多い方が嬉しい。お母さんと水希さんに頼めば、夕飯を一緒する機会くらい作ってもらえそうだし。
「簡単なものでいいかな……」
涼も同じ気持ちかな?
「そんなに私とくっついてたいんだ?」
からかった仕返し第2段。
「いや、ほら。面倒臭いもの頼んで栞に負担かけたくないし……」
素直じゃないなぁ。
「ふ〜ん?」
「なんだよ……?」
「涼は可愛いなって思っただけよ」
「……」
涼は少しむくれるけど……そういうところだよ?
「それじゃ、簡単に済ませましょ。お昼は冷やし中華で、夜はカレーにでもしよっか?カレーなら多めに作れば明日も食べれるし。どう?」
「あぁ、うん。いいんじゃないかな」
同意を得られたので、必要な食材を購入して帰宅する。
ささっと昼食を済ませた後。
「さて、それじゃ勉強しよっか?」
「あ、それは本当にするんだ?」
「え?やらないとは言ってないよ?それに涼と付き合い始めたせいで成績が落ちたって思われたら嫌でしょ?」
「それもそうか。やるべきことはちゃんしないとな」
でもね、課題をやってた時とは違うからね?
私は涼と肩が触れる位置に座り、教科書を広げる。
「あの……栞さん?この状態でやるの……?」
「これなら涼とくっつけて勉強もできるでしょ?」
「集中できないだろ……」
「私の集中力を舐めないでもらいたいわね」
「俺ができないんですが?」
「んー……頑張って?頑張ったらご褒美あげるからね。って登校日の分も忘れてたから合わせてね」
やりにくそうにしてる涼の横顔を見ると、勝手に頬が緩む。
あー……楽しいなぁ。
我慢も遠慮もなし。3日間全力で楽しんでやるんだから!
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