第41話 定番のやつ

 栞がものすごく攻めてくる。キスの後逃げ出したかと思ったら、余裕のある顔で戻ってきて、そこからの猛攻。めちゃくちゃくっついてくるし、からかってくる。


 しかし俺はこの状況に全く着いていけていない。あの10分にも満たない時間で栞にどんな心境の変化があったのか……何か焦ってるとか、また不安事があるのかと心配になってくる。最近いろんなことがあったから栞に対して心配癖がついている自分がいる。


 そんな中で勉強しろと言われても集中できない……と思ってたんだけど、楽しそうに俺に教えながら進めてくれたので予想外に捗ってしまった。いったいどうなっているのか……学校の授業なんて眠くなるだけだというのに。栞先生恐るべしだ。


 勉強が一段落ついた後、俺はリビングのソファで栞に膝枕をされていた。登校日の分と勉強を頑張った分を合わせてのご褒美ということらしい。栞の柔らかい太ももの感触にドキドキさせられる。しかも顔が見えないと嫌と言われて仰向けの状態だ。優しい目で見つめられて、恥ずかしいのに目が逸らせない。


「なぁ、栞?なんで膝枕なの……?」

「え?だって涼の持ってるラブコメ系のラノベで必ずと言っていいほど出てくるから真似してみたの。好きじゃなかった?」


 俺の蔵書が栞に余計な知識を与えていたことが判明した。まぁ、確かに定番ではあるんだけど、実際にされてみるとものすっごく居たたまれない。それなのに栞はすごく楽しそうで、これではどっちのご褒美なのかわかったものではない。


「嫌いではないけど……」

「じゃあ、いいじゃない。ほら、涼。頑張ってえらかったね。よしよし」


 楽しそうに頭まで撫でてくる始末。


「ねぇ、涼。体重かけないように力入れてるでしょ?平気だから力抜いていいよ?疲れちゃうでしょ?」

「たぶんすごく重いけど?」

「そうやって気を遣ってくれる優しいところは大好きだけど、大丈夫よ。それにご褒美なんだから、ね?」


 臆面もなく『大好き』と言ってくる。それにすごく優しい。さっきまでさんざんからかってきたのに、今度はすごく真っ直ぐで……

 俺は降参して体重をあずけることにした。


「うんうん、よろしい。なんかやたらと膝枕するシーンが出てくるのわかる気がしてきた。なんか甘えられてる感じがして、母性がくすぐられるというか。」

「俺は子供扱いされて恥ずかしいんだけど……」

「いいじゃない。私の前でくらい甘えん坊になっても。そんな涼も好きだよ?」


 あぁ、もう……そんなこと言われたらダメになるじゃないか……


 恥ずかしさは相変わらずだけど、髪を撫でられる心地よさと、勉強で頭が疲れていたこともあって睡魔が襲ってくる。


「あれ?涼、眠くなっちゃった?」

「うん……」

「可愛いなぁ、もう。このまま寝ちゃってもいいよ?ほら、いい子だからねんねよ。よしよ〜し」


 ……だから子供扱いはやめろって。


 そんな思考を最後に俺の意識は眠りに落ちていった。







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