第39話 別にいいよ?

 久しぶりにメガネモードの栞さん。初めてうちに来た日からかけるのをやめていたのに。それ以前とは髪型も違うし、これはこれでありだと思う。知的な感じで新鮮で。たまにはかけてもらうのもいいかもしれない。


「うん。勉強するのはいいんだけど、どうしたの突然?」

「ほ、ほら。私達課題が終ってから何もやってないでしょ?遊んでばっかりで。休み明けすぐに学力テストあるし、そろそろなんかやっといた方がいいかなぁって……」


 まぁ建前としてはそんなところだろう。そうじゃないのは顔を見ればなんとなくわかるけど。


「それで本音は?」

「うっ……ほ、本音だよ……?学年1位を取っていた身としては落とすわけにはいかないというかなんというか……」

「それは確かにそうかもね。それでなんで今日はメガネかけてるの?」

「へ?いや、これは、あれだよ?たまには気分を変えようかと……」

「ふぅん……?」


 だんだんとしどろもどろになる栞が可愛くてついついいじめたくなってくる。少しだけにやっとしながら言えば、栞は頬を膨らませる。


「涼のいじわる……その顔なんか言いたそうなんだけど……」

「栞は可愛いなぁと思って」

「やっぱりいじわるだ!どうせ本音じゃないですよー。お母さんに色々言われて、どうしたらいいのかわかんなくなったんだもん……」


 ふてくされる栞。そんな顔も可愛いけど、いきなりご機嫌を損なわせてしまってはよろしくない。


「ごめんごめん。俺も母さんから余計なことを言われてどうしようかって思ってたんだよ。でも栞が俺以上に動揺してるから面白くなっちゃって」

「むー……あんまりいじわるなこと言うとご飯作ってあげないんだから。せっかく最近お母さんに教えてもらって練習してるのに」

「ごめんなさい……」

「もう……少しならいいけど、加減してくれないと本気で拗ねるよ?」


 ちょっとやりすぎてしまったようだ。今後のためにもしっかりと反省しよう。


「気を付けます……でもさ、文乃さんに何言われたかはだいたい想像つくっていうか、さっき俺も言われたんだけど……焦らなくていいから。栞のこと大事にしたいし、ゆっくり今の関係を楽しみたいっていうか……」

「う、うん……そうね。外野の言葉に惑わされてたらダメだよね……」

「ということで、これ預かっててくれない?」


 『例の物』を封印した鍵を栞に渡す。こうしておけば俺が暴走することもないだろう。


「何これ?何の鍵?」

「俺の理性……かな?」

「……?理性をしまったの?今の涼はけだものってこと?」

「違う違う!逆だって!鍵が理性なの!」

「んー……?よくわかんないけど預かっておけばいいのね?」

「うん。お願い。帰る時に返してくれればいいから」

「わかった」


 危うく変な誤解をされるところだったけど、封印は強固になったはずだ。


「さて、それじゃあ……涼にからかったお詫び、してもらおうかなー?」

「え?」


 あれで許してくれたと思っていたが、実は結構根にもっているのかもしれない。


「だって、涼があんないじわる言うんだもん。私が拗ねたままでもいいのかなー?優しい涼はどっか行っちゃったのかなー?」


 と言う割に楽しそうにしている。さっきの仕返しということなんだろう。


「どうしたら……?」

「私が喜ぶことしてくれたらいいのよ?ほら……んっ!」


 少し上を向いて目を瞑り、両腕を広げる栞。


 えっと……抱き締めてキスをしろってことですか……?ゆっくりって言った直後なのに、いきなり飛ばしすぎでは……?


「してくれないなら帰っちゃうから。あ、でもお母さんが家に入れてくれないだろうから野宿かなー。怖いなー」

「あぁ、もう!俺が理性飛ばしても知らないからな?」

「その時は……別にいいよ……?」

「……」


 ……勘弁してくれ。


 そう思いながらも、栞の望みに応え、それ以上の言葉を遮る俺だった。


 まったく……触れるだけのキスで真っ赤になってるやつに、それ以上のことなんてできるわけないだろ……



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