第25話 置いてかないで

「なぁ栞……俺、すっかり忘れてたんだけど……」

「そうね、私もよ……」

「登校日なんてもの、あったよなぁ……」

「私としたことが……失念してしまうなんて……ねぇ、涼!私、髪切っちゃったんだけどどうしよう……?」


あ、気にするところそこなのか。もう堂々としてればいいと思う。遥と楓さんがフォローしてくれるはずだし。

俺の忘れてたってのは、そのまんまの意味で、危うく登校するのを忘れるところだったということだったんだけど。


「顔見られるのはやっぱり怖い?」

「怖いというか不安というか……涼にだけ見せるつもりだったんだけど、思ったより短くしちゃったから……」

「あんまり気にしなくていいと思うよ?栞が栞らしくいてくれる方が俺は嬉しいかな」

「涼はいつもそう言ってくれるよね」


ちょっと壁があってクールな栞も嫌いじゃなかったけど、やっぱり今の方が好きだから。


「俺だけが知ってる栞っていうのもいいんだけどね」

「独占欲?」

「そうかも。ほら、栞は可愛いから、他の男がそれに気付いたら心配というか……男の嫉妬なんてみっともないと思うんだけどさ」

「私、涼のことしか見てないよ?」

「それでも心配になるものはしょうがないだろ。もし逆の立場なら栞もそうなるでしょ?」

「……確かに。涼もだいぶ表情が柔らかくなって格好よくなったからなぁ」

「そうかな……?自分じゃわからないけど……」


そう言ってくれるのは栞くらいなものだと思う。鏡を見ても冴えない男がうつるだけだし。


「学校でつまらなさそうにしてた時に比べたら全然違うよ?」

「それを言ったら栞の方が変わってるからね?見た目から話し方まで別人みたいだから」

「それは、ほら……壁をいっぱい作って自分を守ろうとしてたから……」

「でも今はそうじゃないでしょ?自己紹介の件もそうだけど、ちゃんと話せば他の人だってあの2人みたいに受け入れてくれるかもしれないしさ。ダメでも現状維持なら悪くないと思うし」

「やっぱり涼はずるい!」


最近ずるいが口癖になってる気がする。


「涼ばっかり自信つけて、格好よくなって、どんどん1人で先に行っちゃう。私、置いてかれたくないよ……」

「全部栞のおかげなんだけどね」

「私もがんばるから……置いてかないで!一緒にいてよ……?涼の優しさ知っちゃったから、もう1人に戻るなんて考えたくない……」

「俺も栞がいないと困っちゃうからね?栞が不安にならないようにすっごい頑張ってるんだから」

「なら、勇気出してみる……」

「うん。一緒に、ね?」



栞が落ち着きを取り戻したので、ようやく今日の本来の目的へ。


「この後はどうしよっか?」

「だいぶ遠回りになっちゃったものね」

「だよなぁ。こんなはずじゃなかったのに……」

「悔しいからここからは目一杯楽しむんだから!涼もちゃんとついてきてよ!」


不安を吐き出したおかげか栞はパワフルになっている。今度は俺が置いていかれそうだよ……

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