第6.5話 とある日の午後
【試験勝負後~夏休み前の話】
俺の眠気はピークに達していた。
昼休みが終わって5限目。食後ということに加え、まだ苦手意識の残る数学の授業。眠くなってしまうのも無理ないことだと思う。どうにか板書をノートに書き写してはいるけど。
ふと気になって黒板から視線をはずす。
相変わらずうざったいくらい長い前髪に地味な眼鏡。でもきちんと背筋を伸ばし、真剣に先生の説明を聞いている。俺の初めての友人はとても真面目だ。
俺もこんなことではいけないと、気合いを入れ直す。なにせ前回俺は負けたのだ。集中しないとまた差が広がってしまう。
*
もはや日課となった放課後の図書室での時間。
「午後の授業中、ずっと私のこと見てたでしょ?」
栞はいつも通り俺の隣に座った 。
「見てない」
友達になったとはいっても、女の子をじーっと見てたなんて、よくないことのような気がして。
「見てたでしょ?」
「ずっとは見てない」
「やっぱり見てたんじゃない」
「真面目に授業受けてるなって思って、ちらっと見ただけだから」
栞の真面目な姿勢のおかげで、どうにか授業の最後まで乗り切ることができたし、そこだけは素直になることにした。
「涼は眠そうだったものね?」
「なっ!」
「でも最後までちゃんと起きてて偉かったわよ?」
「なぁ、栞?栞の方が俺のことずっと見てたんじゃない……?」
眠そうだったのも寝なかったのも、ずっと見てないとわからないだろう。
「え?……だって眠いの我慢してる顔がかわ……な、なんでもないっ!」
「かわ……?なに?」
「か、かわ……か、川端康成に似てるなって思っただけ!」
「いや、似てないし……」
無理矢理すぎる誤魔化しに笑いそうになる。どうしてそこで川端康成が出てきたんだか……
これ以上追及すると俺が恥ずかしい思いをすることになりそうだから、やめておこう。
あわあわしてる姿を見ながら、栞の方が可愛いけどなんて思ってしまった。
───────────────────────
涼君と川端康成は全く似てません。『かわ』から捻り出した栞さんの(作者の)苦し紛れです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます