第19話 私の番
4時間程の睡眠をとった。普段の睡眠時間に比べれば全然足りないが目覚めは悪くない。寝る前にある程度は整えたが、もう一度洗面所で確認する。寝相がいい方ではないので、案の定寝癖がついていた。少しだけ水をつけて手早く直す。
現在午後2時。栞が来るまであと2時間くらいある。もう少し寝ていればよかったという気もするけど、眠気はもう消えてしまっているし、ぎりぎりまで寝てて寝癖がついたまま迎えるわけにもいかない。
遅めの昼食を摂った後、自室にこもってなんて伝えるか考える。なにせ友達すらできたことのない俺だ。女の子に好意を寄せられた経験なんてあるわけもなく、こういう時に何て言ったらいいのかなんてわからない。でも……栞には気のきいた言葉なんて必要ないのかもしれない。上辺だけの言葉なんてきっと見透かされてしまうだろう。結局は自分の気持ちで勝負するしかないのだ。幸いにして『大好き』という言葉はもらっている。なら素直になるだけ。
そこまで考えて時間を確認してもまだ30分はある。こういう待ってる時間はなかなか過ぎないもので落ち着かない。無駄に髪型をチェックしてみたり、歯を磨いてみたり……
「涼?栞ちゃんが来るのが待ち遠しいのはわかるけど少しは落ち着いたら?」
母さんに窘められてしまった。
「今日は大事な話をするんでしょ?もっとどっしり構えてないと不安にさせちゃうわよ?ま、私はそろそろ出るから、がんばりなさい」
母さんにはお見通しなんだろう。家を空けてくれなんて言えばわかってしまうのは当然かもしれないけど。
リビングでお茶を飲み深呼吸する。今落ち着いたところで栞の顔を見たら動揺してしまうんだろうけど……
目を閉じて気持ちを落ち着けているとインターホンが来客を告げる。16時5分前。こんな時でも栞はしっかりしてる。
玄関を開け出迎えると、恥ずかしげに立つ栞が。
「お、おまたせ……」
「あ、あぁ、とりあえずあがって」
やはりお互い顔を合わせるとぎこちない。ひとまずリビングへ通し、2人分のお茶を用意する。
「ごめんな。急に会いたいなんて言って」
「ううん。私も涼には毎日でも会いたいから……昨日のことがあったから顔合わせづらかっただけで……」
『毎日でも会いたい』これだけで満足してしまいそうだ。でも今日はそこから1歩踏み出す。
「俺もそうだったんだけどさ……でもちゃんとしないとなって思って。俺の気持ち聞いてくれるか?」
「はい……って言いたいんだけど、私の我が儘聞いてもらっていい?私から言いたいの。その後でちゃんと聞くから……」
俺から切り出すつもりだったけど、栞も何か言いたいことがあるようだ。いつになく真剣な目をしている。
「あ、うん……わかった」
「ありがと……友達になろうって言ってくれたの涼からだから、今度は私から言いたくて」
「うん……」
「あの、私……涼のことが好き。友達としてじゃなくて……男の子として……大好き、です」
真っ赤になりながらも、しっかりと俺の目を見つめながら伝えてくる。それだけで鼓動が早くなる。俺もちゃんと伝えなくちゃ。
「俺も栞のことが好きだよ。栞とずっと一緒にいたい。俺の隣で笑っててほしい。花火の時泣いてる栞を見て、二度とこんな顔させたくないって思ったんだ……」
栞は目を見開いて、瞳に涙を浮かべる。
「ありがと……嬉しい。でも……私きっと重い女だよ?めんどくさいよ?もし涼が愛想つかしたりしたら何するかわからないよ?」
俺も栞も根っこの部分は似たようなものなので、いざという時に自信がなくなってしまう。でも俺は栞といれば大丈夫だって思える。
「最後のだけはちょっと怖いけど……でも栞と2人ならなんでも平気かなって思うんだ。だからさ……俺と付き合ってほしい」
「うぅ……結局涼に言わせちゃった……けど、こんな私でよければよろしくお願いします……」
結局栞は泣き出してしまった。俺は栞を優しく抱き締めながら落ち着くのを待った。
「はぁ……やっぱり涼はずるいなぁ……」
落ち着きを取り戻した栞が開口一番そう言う。
「ずるいってなにがだよ?」
「今日も友達になった時も、私がうじうじしてる間にさらっと言葉にしちゃうんだもの。今度は私の番だって思ってたのに……」
わかりやすくむくれてみせる栞。
「なんか、ごめん……でもこういうことは男から言った方がいいかなって思ってさ……」
「なんか前時代的なこと言って……最初は自信無さそうだったのに、たったこれだけの期間で男らしくなっちゃってさ。やっぱりずるいな〜」
「それは栞のおかげというか……」
「む〜、まぁでも先に好きって言ったのは私だし?よしとしてあげる」
ようやく機嫌をなおしてくれたみたいだ。
「ふふっ、涼大好き」
「お、俺も好きだよ」
『ただいまー』
「やばっ、母さん帰ってくる時間忘れてた!」
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