第8話 初めての来訪

「涼が女の子連れてくるなんて……しかもこんなに可愛い子を……」

「黒羽栞と言います。涼君とは最近仲良くなって友達になりました。お母様よろしくお願いします。」

「こちらこそ涼と仲良くしてくれてありがとね。涼の母の水希みずきです。よろしくね、栞ちゃん」


 初対面の感触は良いみたいだ。あとは母さんが余計なことを言わなければ……


「栞ちゃん礼儀正しくていい子ね。涼も見習ってほしいわ……涼は友達としか言わないからてっきり男の友達連れてくるものだと思ってたわ」

「言ってなかったっけ?」

「聞いてないわよ。女の子連れてくるならこっちにも心の準備があるでしょ」


 よくわからないけどそういうものらしい。玄関でこれ以上立ち話もなんなのであがってもらうことにした。


「とりあえず今日は課題やるつもりだから、リビング使うけど大丈夫?」

「好きに使っていいわよー」

「え?涼の部屋じゃないの?見てみたいのだけど」

「片付けはしたから見せるのはいいけど、2人で勉強できるようなとこじゃないぞ?」


 机とベッドと本棚とチェストしかない部屋だ。床で課題をやるわけにもいかないし。


「じゃあ、まずは涼の部屋を物色して、それから課題やりましょ?」

「物色するなよ……」

「でもお約束じゃないかしら?えっちなのの隠し場所とか探すの」

「やめてくれ……見られたらもう会わないからな……」

「ふふっ、冗談よ。でも普通に本とか漫画とかはあるでしょ?涼の好きなもの興味あるし」

「まぁそれくらいなら」


俺のことに興味をもってくれるのは素直に嬉しい。興味があるってことはもっと仲良くなりたいってことだと思うから。


「2人とも本当に仲良しなのね。よかったわ、涼にもそんな子ができて」

「話すようになったのも、ここ1ヶ月半くらい前からだけどな」

「時間なんて関係ないわよ。相性さえ良ければ」

「相性ねぇ。一緒にいて落ち着くから悪くはないんだろうな……とにかく部屋案内してくるから」

「はいはい。お母さんちょっと買い物に出てくるから。栞ちゃん、遠慮せずにくつろいでくれていいからね」

「はい。ありがとうございます」


 なんか余計な気を遣って出ていった気がする。まぁ初対面の母さんがずっといても栞が落ち着かないだろうから助かるけど。


「結局2人きりになっちゃったな」

「気を遣わせてしまったかしら……変なことしないわよね……?」


 栞が身を守るように、自分の体をぎゅっと抱き締める。若干胸が強調されて目のやり場に困る。普段制服でわかりにくかったが、スタイルも良い。勉強もスポーツもできて、容姿も実は良いなんて完璧すぎないか?他の人に顔見られるのは嫌みたいだけど。


「そのくだりはこないだやっただろ……」

「それもそうね。じゃあさっそく涼のお部屋を見せてもらいましょうか」

「はいよ」


 栞を伴って2階にある自室へ。初めて家族以外を入れるので緊張する。


「ここが涼の部屋なのね。きれいにしてるじゃない」

「そりゃ昨日半日かけて片付けたからな。普段はちらかってるよ」

「私がくるから片付けたんだ?」

「そりゃ、お招きするんだから片付けるだろ」

「ならこの状態を維持できるように入り浸ろうかしら?」

「うちだけで予定全部埋める気か?」

「本棚の中身も気になるし、お互いインドア派だしいいんじゃない?」


 そう言っ栞は本棚から適当に本をとりだして、パラパラとページをめくり始めた。


「漫画とラノベばっかりなのね」

「男の本棚なんてそんなもんだろ。というか今読み始めるなよ?課題やるって言ってたろ」

「それもそうね。涼の蔵書を漁るのはまた今度にするわ」


 リビングに戻り、2人でテキストを開いて課題を始めた。相変わらず俺がつまずいていると、的確なサポートをしてくれる。いつもと違う格好の栞が隣にいるのでちょっとドキドキしてしまうが、それでもかなり捗っている。

 1時間くらいたったころ母さんが帰ってきた。


「ただいまー。あら、ちゃんと勉強してたのね。えらいじゃない。おやつ買ってきたから少し休憩にしてお茶でもしましょうよ」

「すいません、気を遣わせてしまって」

「いいのよ。せっかく涼が連れてきた子だもの。私も構いたいのよ」

「ありがとうございます。それじゃお言葉に甘えさせてもらいます」


 きりのいいところで母さんも交えてお茶にすることになった。


「あなたたち、勉強以外に遊びに行ったりする予定はもうあるの?」

「いや、まだ考え中だな」

「とりあえず課題を終わらせてから考えましょうってことになってますね」


 そう言うと母さんはにやっと笑って


「さっきスーパーでチラシが貼ってあったんだけど、今週末この辺りで花火大会があるらしいわよ?せっかくだから2人で行ってきたら?」

「いきなり夏っぽいイベントがきたな」


 毎年家から音だけは聞いているが行ったことはなかったな……一緒に行く相手もいなかったし、独りで行ってもつまらないしな。


「花火ですか。いいですね。涼、行ってみない?」

「行くなら車出してあげるわよ?」

「学校のやつらとかいそうな気もするけど……栞が行きたいなら」

「それなら栞ちゃんに浴衣でも着せちゃおうかしら?私の昔のがまだとってあるから。自分のがあるならそれでもいいけど」

「浴衣ですか……自分のは本当に小さい時のしかないですね……」

「それなら当日早めにうちにいらっしゃい。着付けてあげるわ。涼も栞ちゃんの浴衣姿見たいだろうし?」


 なんでそこで俺に振るんだ……見たいけどさ……

 今の栞ならなんでも着こなしそうだし。


「涼、私の浴衣姿見たい……?」

「そりゃ見たいけど……絶対似合うと思うし……」

「じゃ、じゃあお願いします!」

「よかったわね、涼?私もなんかテンションあがってきちゃったわ!」


 こうして花火大会へ行くことが決定した。栞は浴衣で。

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