第7話 夏休みの始まり
「なかなかえげつない量だよな……」
「嘆いてないで手を動かしましょ」
進学校なだけあって、夏休みの課題は山のように出た。出された日から始めて1週間程たつけど、終業式を明日に控えた今でも3分の1くらいしか終わっていない。
「まぁでもわりと進んだ方か」
「そうね。2人だとつまずいても相談できるしね」
「いつもは独りで頭抱えてたからなぁ」
「あ!夏休みやりたいこと!どっちかの家で一緒に続きやりましょ?」
「助かるけど、俺の家に来るか、俺を家にあげるってことだけどいいのか?」
「どのみち一緒に遊ぶなら、早めにあなたの親御さんにも挨拶しておきたいし、私も親に紹介しておきたいもの」
「そ、そうか……」
女友達の親なんて、どう挨拶したらいいんだ……?
「まずはあなたの家に行ってみたいのだけど、ご両親は?」
「母さんは基本的に家にいるな。父さんは平日は仕事で遅いかな」
「お母さんがいるなら安心ね。2人きりだとなにされるかわからないものね?」
「嫌がることなんてしないっての……」
「ふふっ、冗談よ。それくらいは信用してるわ」
「そりゃどうも。まぁ母さんにはなんとなく話しておくから」
「お願いね。明日は私、用事があるから明後日の都合聞いておいて」
「明後日かよ。すぐじゃん。まぁ俺は予定ないからいいけどさ」
そんなわけでその日の夜、母さんに話したわけだが……
「あんたが友達連れてくる日がくるなんて……」
なんで泣かれてるわけ?そりゃ今まで誰もつれてきたことなんてないけどさ……
でもそれだけ心配をかけていたということなのだろう。
「あんたなんかと仲良くしてくれる子、大事にしないとダメよ?」
「わかってるよ」
「それでどんな子なの?」
「説明するより会った方が早いだろ。明後日くるから」
「あんた部屋片付けときなさいよ?いっつもとっ散らかってるんだから」
「それくらい言われなくてもするって!」
そうは言ったものの、あまり片付けが得意ではない俺は、部屋の片付けに半日を費やすことになってしまった。1日間があって助かった。そうじゃなければ汚部屋に案内する羽目になるところだった。
そうして迎えた当日の昼過ぎ、我が家の最寄り駅で待ち合わせることにしたのだが、なんとなくソワソワしてしまい早く着きすぎてしまった。『もうすぐ着くから』とメッセージが届いていたので大人しく待つことにした。聞けば電車で1駅離れたところに住んでいるらしく、歩いてもこれる距離だけど暑いから電車を利用することにしたらしい。
暑いので改札付近の日陰でぼんやり待っていると、電車が到着して人が改札からぽつぽつと出てくる。その様子を栞が出てこないかと眺めていると見知らぬ人から声をかけられた。
「お待たせ、涼」
「えっ?」
見知らぬと思っていたが、ここのところ聞き慣れた声。
「もしかして栞?」
「そうだけど、わからなかった?」
「いや……それでわかれって言う方が無理って言うか……」
栞は長かった前髪を眉にかかるくらいまで短くしていたし、いつもの伊達メガネも外している。つまりいつも隠れていた目が見えていると言うことで。
普段の地味風な感じから変わって、とても可愛くなっていた。優しげな印象の大きな目は他のパーツとのバランスがよい。服装もいつもの制服ではなく私服だ。淡い水色のサマーニットに七分丈のデニムといった格好でスラッとした体型によく合っている。思わず見とれてしまったほどだ。
「変かな……?夏休みで他の人と会わないし思いきって切ったのだけど……」
「いや!似合ってる!すごく可愛い……って何言ってるんだ、俺……」
「よかった……」
「でもよかったのか?顔見せるの嫌だったんじゃないの?」
「涼にだけならいいかなって。ほら、試験頑張ったらご褒美って話。涼には私の素顔知ってほしかったから……」
と言いつつも、やはりずっと隠してたものを見せるのは恥ずかしいようで真っ赤になっている。
「こりゃ、母さん気を失うかも知れないな……」
「えっ?やっぱり変かしら……?」
「いや、さっきも言ったけどすごい似合ってる。そうじゃなくて、友達とは伝えたけど、こんな可愛い女の子連れてくるなんて言ってないから」
「あんまり可愛いって言われると恥ずかしいのだけど……」
「ご、ごめん。とりあえずここにいても暑いし行こうか。歩いて5分くらいだから」
家に着くと、母さんは気を失いこそしなかったけど、しばらく開いた口がふさがらなくなっていた。
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