第6話 呼び方
「惜しかったわね?」
返却された試験の結果は僅差で俺の負け。その差、わずか8点だった。順位としては黒羽さんがまたしても1位、俺は3位だった。
「いけると思ったんだけどなぁ。しかも間にもう1人いるし」
「でもすごいことよ?30位からここまで上がったんだもの」
「それはそれ。悔しいものは悔しいの」
「とにかく勝負は私の勝ちね」
「約束だしな。じゃあ、お願いとやらを聞こうか」
「いやに潔いわね……」
「負けたものはしょうがないからな」
「じゃあ1つ目だけど……夏休み中も2人で会いたいのだけど……友達なら普通のことよね?」
「そんなことでいいのか?俺としては友達になってくれないかなって言ったときからそのつもりだったけど」
「いいの?!じゃあ決まりね。連絡先交換しておきましょ。連絡とれないのは不便だし」
「そういえばしてなかったな……ここでしか話さなかったし忘れてた……」
家族以外に初めて登録された名前に、少し嬉しくなってみたりして。
「2つって言ってたけど、あと1つは?」
「名前……」
「名前?」
「名前で呼び合いたいなって……」
なんかもじもじしてる。なんだこれ……可愛い……
「あ、おぅ……いきなりハードルが上がったな……」
「ダメ……かしら……?」
上目遣いで(目なんて見えてないけど)見つめられてはダメなんて言えない。
「ダメ……じゃないです……」
「よかった……ね、ねぇ、ちょっと呼んでみてくれないかしら……?」
「栞さん……」
「さん……はなしで」
なにこれ……めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……。
「栞……」
呼んだ瞬間、栞の頬が真っ赤になった。きっと俺も同じような顔してるんだろうけど……
「呼び合うんだろ?俺だけじゃなくて、し、栞も呼んでみろよ!」
「うん……。りょ、涼……。自分でお願いしておいてなんだけど、ものすごく恥ずかしいわね、これ……」
「だよな。変に意識しすぎなのかもしれないけどさ。でも……距離は縮まった気がするな」
「そうね……」
なんかものすごく疲れた気がする。家族以外に名前で呼ばれることなんて今まではなかったから、ちょっとくすぐったいような変な感じはするけど、なんか悪くないなと思った。
「なぁ、栞。俺さ、今まで友達なんていなかったから、どうやって遊んだりすればいいかよくわからなくて……」
「私だって似たようなものよ。男友達なんて初めてだもの。一緒に考えていきましょ。あ、でも夏休みの課題は一緒にやりましょうね?」
「そうだな。できることなら、休み前にある程度終わらせたいよなぁ」
「そんなに夏休み私と遊びたいんだ?」
「そりゃ初めてできた友達だからな」
「からかったつもりなのに真面目に返されると恥ずかしいのだけど……」
仲良くなってきて、栞はキャラが変わってきた気がする。最初の頃はわりとツンケンしてたのに、柔らかくなってきたというか。今回のお願いにしたってそうだ。『関わるな』なんて言ってたくせに、実は寂しがり屋なのかもしれない。そういえばあんなことを言った理由ってなんなのだろう?
「そういえば、自己紹介の時言ってた『関わるな』ってやつ、なんかあったのか聞いてもいいか?俺とは友達になってくれたけどさ」
「う……」
「あ、いや、ごめん。言いづらいことだよな」
「ううん、こっちこそ気を遣わせてごめんなさい。今はまだ、傷が癒えていないというか……話すには割りきれていないというか……」
「無神経に聞いてごめんな。言えないならいいんだ。でも話せるようになって、俺にできることがあったらなんでも言ってくれ」
栞のおかげで試験もいい成績が取れて、少しだけ自信がもてて友達にまでなれたんだ。力になれることがあればなんでもしてあげたい。もし何もできなくても話すだけで楽になれることもあるだろうし。
「ありがとう。それだけで少しだけど楽になった気がするわ」
「それはなにより。俺が始めちゃった話だけど、ここまでにして、夏休みやりたいことって話だったな」
「そうね、お互いやりたいこと考えておくってことにしましょう。思い付いたら相談しましょ?」
「おう」
毎年、夏休みなんて家で独りだらだらするしかやることがなかったが、今年は忙しくなるかもしれない。
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