第3話 見えてる
6月の半ば、我が校では球技大会が開催される。学年によって日程が別けられており、今日は俺達1年生の日だ。
種目は男子がソフトボール・サッカー・テニス、女子がバレーボール・バスケ・テニスとなっている。協調性もなく絶賛ぼっち中の俺は、テニスに振り分けられた。振り分けられたというより、他の団体競技は気付いた時には埋まっていて、選択肢がなかったのだが。ダブルスの枠もあったが、そちらも当然、仲の良い2人組で埋まっていた。
自分の出番がまわってきたわけだが、テニスの経験もない俺はあっさりと敗退した。ラケットを握ったことのない人間にテニスをしろというのが無理な話なのだ。まずまともにラケットに球が当たらないし、当たったとしてもネットに引っ掛かるか、あらぬ方向へ飛んでいってしまう。相手がテニス部員だったこともあり、ストレートでの完敗である。まぁ応援してくれるような人もいないのであまり恥をかかなかったのは救いだけど。
「はぁ……」
「辛気くさいわね」
「うわっ!……なんだ黒羽さんか。いいのか、俺と話してるところ人に見られても」
「誰も見てないわよ、こんな隅っこ。それにしても目も当てられない試合だったわね?」
試合を見てた人がいたみたいだ。あんなひどいものを見られてるなんて……。
「見てたのか……。初めてラケット握った人間じゃ、あんなものだろ」
「それならお手本を見せてあげるわ。次、私の試合だから」
「黒羽さんもテニスだったっけ?」
「えぇ。他の種目だと人と話さないといけないじゃない」
「そんな理由かよ」
「いいじゃない。ほどほどに貢献するつもりだし。あなたみたいに無様をさらすつもりもないわよ?」
「一言余計なんだよ……」
「あら、呼ばれてるみたいね。いってくるわ。あ、あとこれ試合の間、預かっててくれない?」
かけていたメガネをケースに入れて差し出された。反射的に受け取ってしまった。
「じゃあ、よく見ていることね」
行ってしまった。
見ていろと言われたから見ているが、
「勉強だけじゃなくて、スポーツもいけるのかよ……」
明らかに経験者とわかる動きをしている。相手も経験者みたいな感じだが、的確なボールコントロールで振り回していた。
あっさりと、勝利をもぎとって戻ってきた。
「ほら、これ。返すよ。なくても見えるんだな」
「メガネ?なくても見えるわよ。だってこれ伊達だもの」
「伊達メガネだったのか。でもなんのために?デザイン的にファッションって感じでもないだろ?」
「顔が隠れるじゃない。素顔をさらすのが嫌いなのよ」
目だけは前髪に隠されて良く見えないが、見えている部分に関しては整っていると思う。肌は真っ白だし、鼻筋は通っている。唇も控えめながら、ぷっくりとして艶がある。なぜこれで隠したがるのか。
「なに?見たいの?見せてはあげないけど」
「嫌がるのを無理に見せてくれなんて言わないよ。ただ、なんでかなって思っただけで」
「私、自分のことが嫌いだもの……」
これまでは一瞬浮かべるだけだったのに、今は見るからに何かを圧し殺しているような苦し気な顔になっている。
「何かあったかとか聞いても話してくれるとは思ってないから、詮索はしないけど。でもたまに無理してるように見えるときがあるからさ」
「そう見えてしまっているのなら、私もまだまだね」
「今みたいに地味な感じが素なのか、俺にきつめの冗談言ってくるのが素なのかわからないけどさ、もっと自分らしくいてもいいんじゃないかと思うよ」
「私らしく……?」
「あ、ごめん。事情とか知らないくせに、なんかわかったようなこと言っちゃって……」
「ううん、いいの。私のことを心配してくれているのはわかるから。ありがとう。高原君のくせに生意気だけど」
「生意気は余計だって。なんで素直にありがとうだけ言えないかな」
「ふふっ、しょうがないじゃない。こういう性格だもの」
先程とは変わってすっきりした顔で微笑まれて不覚にもドキッとしてしまう。
なんだそういう顔もできるんじゃないか……
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