第2話 図書室には2人だけ

 俺は基本的に毎日放課後に図書室に足を運んでいる。授業で出された課題を片付けたり、予習復習をするためだ。家に帰ってやれば良いと思うだろうが、家にはゲームや漫画など集中力を妨げるものがたくさんある。自力でその誘惑を断ち切るには、そういうものがない環境に身を置くのが一番手っ取り早いのだ。

 うちの高校には自習室というものもあるのだが、パーテーションでしきられた机で皆が必死にガリガリ勉強している空間に馴染むことができず、一度行ったきり二度と行かなくなってしまった。

 その点、図書室は居心地が良い。当番の図書委員はいるものの、ほとんど人が来ることもなく静かだ。本という誘惑があるけど、漫画かラノベくらいしか読まない俺にとっては図書室にある本はあまり興味を惹かれない。というわけで、今日も俺は図書室にいるのだが。


「なぁ、黒羽さん?」

「なにかしら?高原君」

「どうして隣に座っているのでしょう?」


 広い図書室で俺達2人しかいないのにも関わらず、何故か隣あって座っていた。

 前回考えていた次というものは思ったより早くやってきたようだ。1週間くらいしかたっていない。


「気にしないで。今日も課題をやるのでしょ?またあなたが愚かなミスをしたら笑ってやろうと思っているだけだから」

「おい……」

「冗談よ。このほうがあなたもわからないことあったら聞きやすいかと思ったのだけど?」


 表情も声色も変えずに言うものだから、冗談がとてもわかりにくい。目なんて前髪で隠れているし。


「教えてくれるのはありがたいけど。黒羽さんもそういう冗談言えるんだな」

「失礼ね。私だって冗談くらい言うわよ?」

「とにかく黒羽さんの気が変わらないうちにさっさとやっつけることにするよ」

「そうしなさい。私は本を読んでいるから、何かあったら声をかけてちょうだいね」

「あぁ、そうさせてもらうよ」


 しばらくは黒羽さんがページをめくる音と俺がペンを走らせる音だけの静寂が続いている。

 しかしなんでまた、俺に話しかける気になったのか。関わるなと言っていたのが嘘のように距離が近い。それに、思えば俺も今までこんな距離感で女の子と接したことがなかった。

 

 こんなことを考えていたら隣をじーっと見てしまっていたようだ。


「さっきからペンが止まってるわよ。じーっと私のこと見てどうしたのかしら?顔に何かついてる?」

「い、いや、ごめん。何もついてないよ。少し考え事をしてだだけ」


 いきなり指摘されて挙動不審になってしまった。


「そんなに慌てなくて良いじゃない。それとも私に惚れたの?ちょっと勉強教えたくらいでチョロすぎないかしら?」

「惚れっ?!ち、違うって」


 冗談にしてはいきなり飛ばし過ぎではないだろうか。俺としては女の子とまともに話をするのも初めてのことなので、多少なりとも意識してしまってはいるかもしれないけど……


「あら、素直になっても良いのよ?まぁ、好きと言われてもお断りさせていただくけど」

「なんで告白もしてないのに振られてるの、俺?」

「私を振り向かせたかったら、そんな簡単な問題で間違えないことね。こことそこ、答え間違ってるわよ」

「え……あ、本当だ。」

「苦手とか思ってるから間違えるのよ。こんなの簡単だって思い込めば理解も早くなるわよ」

「精神論かよ……」

「精神論って重要よ。何事もね……平気だって思えるかどうかが大事なのよ……」


 何故か最後、一瞬だけ苦しそうな表情をしていたのが気になった。彼女は何か無理をしているのではないだろうか。会話するようになって2回目でそんなことを聞けるわけもなく、課題に集中することにしたが、気がかりだけが胸に残った。

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