第3話 ぽてちくん

 この世には、小腹を満たす軽食として、おやつがある。しかし、近年のおやつ界では、その手軽さと美味しさで人類を魅了するものが生まれた。ポテトチップス、通称ポテチだ。

 油で揚げておきながらも、じゃがいものほくほく感を残し、ほんのり香ばしい味に、塩やコンソメなど、様々な味付けが程よくマッチする、まさにおやつ界のキングと言っても過言ではない。


「僕ポテチ美味しくてだいすきー!」


 今日も少年は、美味しそうにポテチを口に運ぶ。とある、犠牲を生んでいるとは知らずに。


♢♦︎♢


「うわぁ!」


 音も立てずにフワリと落ちたのは、先ほどまでポテチだったものだ。


「どういう事だ!まさかこの僕が食べかすになってしまうだなんて!」


 ポテチの食べかすは、少しキザな話し方でそう、呟いた。


「あの坊や、僕の事に全く気づいてないじゃないか!信じられないよ!」


 ポテチの食べかすは、ナンセンスだ!などと叫びながら騒いでいるが、少年には全く聞こえていない。彼は途方に暮れ、人生を諦めかけたその時、不意にどこからか声がした。


「あ、あなたも食べかす?」


 振り向けば、他の食べかすらしき物体が2人いた。どちらも茶色だが、じゃがいもとは質感が異なるようだ。


「君たちは誰だい?僕はポテトチップスの食べかすさ。」


 ポテチの食べかすは、半ば諦めているようで、不貞腐れたように、そう言い放った。


「わたしは、アジフライの衣の食べかすで、こっちは、」


「トーストされた食パンの食べかすだよ!あたしのことはぱんくずちゃんって呼んでよ!」


 ぱんくずちゃん、それを聞いたポテチの食べかすは驚いた。


「君たち、名前があるのかい?」


「一応名前付けてるんだ。わたしはころもちゃん。」


「あんたは、ポテトチップスの食べかすだからぁ、ぽてちくんね!」


 2人は笑顔でポテチの食べかすにそう言う。自分にも名前ができた。それは存在意義を示してもらったような気分だ。


「ぽてちくんだなんて、少しダサくはないかい?まあ君たちがどうしてもと言うなら、悪くはないよ。」


 そうは言いながらも、どこか嬉しそうなぽてちくんに、ころもちゃん達は微笑んだ。


「ま、仲良くやってこーよ!ぽてちくん!」


 ぱんくずちゃんがそう言うと、ぽてちくんは、やれやれと言うが、内心密かに心躍らせているようだ。


「よろしく頼むよ、レディたち!」


 食べかすの運命は変えられない。しかし彼らは、この先もみんなと、楽しく過ごしたいと願った。どうか、この時がいつまでも続きますように、と。

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