第2話 ぱんくずちゃん

 この世の食事には、主食と呼ばれるものがあり、それは、国によって様々な種類や形のものがある。

 中でも、ふわりと小麦が香り、味はもちろん、食感も楽しめるパンは、いつしか子どもから大人まで食べる、みんなの人気者となっていった。

 ここ、日本でもそれは例外なく、親しまれている食品だ。

 今日も食卓にはパンが並ぶ。トーストされこんがり焼けたものから、柔らかくふわふわなものまで、様々に。


「うわ〜い!美味しいね!」


 少年は、トーストされた食パンを頬張ると、にっこり笑いそう言った。ある犠牲をまた、生んでいるとは知らずに。


♢♦︎♢


「きゃあ!」


 ぼろっ。という音も出さずに落ちたのは、先程の食パンに付いていたものだ。食パンのくずとして生まれ変わり、床に落ちたのだ。


「えぇ!まじ?わたし食べかすになってんじゃん!さすがに嫌なんだけどぉ?」


 トーストされたパンは、大体くずを生み出すと言っても過言ではない。実は、この食パンのくずも、多数のくずと生き別れた後であった。


「折角トースターでくずになるのを回避したのに!これじゃあ一緒だよ!もうっ!」


 しかし、食パンから外れてくずなってしまった今もはやどう嘆いでも、食べかすの他、無いのだ。


「お〜い!拾え〜!」


 食パンのくずは、大きな声で叫んだ。しかし、小さなくずの声は人間には届かない。


「まだ食べられるんだけどな〜!」


 食パンのくずは、しゅん、としてしまった。同時に、食べかすになった事を受け入れる覚悟を決めていた。

 食パンのくずが、心の葛藤をしていると、ぴゅうっと隙間から風が吹き、それに倣って、別の食べかすがこちらに近づいてきた。


「あ、こんにちは。」


 食パンのくずに挨拶をした食べかすは、食パンのくずに似ているものの、少し水っぽいようにも見える。


「ども〜!君も食べかす?」


 食パンのくずは、挨拶してきた、食べかすにそう言う。挨拶してきた食べかすは、そんな食パンのくずに、こう返した。


「そう。私は、アジフライの衣だった者です。ころもちゃんと呼んで下さい。」


 自己紹介をしたころもちゃんに、食パンのくずは、興味を示した。


「え?ころもちゃん?名前?いーな!あたしも欲しい!あたしに名前付けて!えっと、あたしはね食パンでした!」


「食パン?えっと、じゃあ、ぱんくずちゃんはどうですか?」


「い〜じゃん!気に入ったよ、ありがと〜!あ、てかタメ口でいいよ?」


「あ、うん、わかった。」


「んじゃ、ころもちゃん、よろしく!」


「うん、よろしくね!ぱんくずちゃん!」


 2つの食べかすは、仲良くなる事ができた。たくさんお話をしていくうちに、打ち解けたのであろう。

 食べかすの運命が、惨い事は変わらない。しかし、彼女たちは、これからの食べかすとしての運命に少しだけ希望を持てた気がしている。

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