たべかすちゃん
@ymarmn_
第1話 ころもちゃん
人類には様々な種類がいる。中でも、日本という国では、日本人と呼ばれる人が住んでおり、彼らの料理には、古くから親しまれているものがある。
ジューシーな中身に加えて、サクサクの衣に身を包んだ揚げ物だ。
いつしか揚げ物は、日本人の食卓には欠かせない一品になっていった。
そうして、今日も食卓に並べられた揚げ物は、美味しそうな香りを立て、人の口に運ばれていた。
「う〜ん!美味しい!」
少年は、口いっぱいにアジフライを頬張ると、うっとりと表情をしながらそう言った。とある犠牲を生んでいたとは知らずに。
♦︎♢♦︎
「わっ、わぁーーーーーーっ!」
ぽとり、と言う音すら聞こえない程軽く落ちたそれは、先程の少年が食べたアジフライに付いていた衣の破片だ。食べかすに生まれ変わって床に落ちたのだ。
本来であれば、アジフライの衣として少年の口に入り味わってもらうべきものなのだが、運が悪ければこのように、食べかすとして人びとから嫌われてしまう存在になる。
「もしかしてわたし、食べかすになっちゃった?い、嫌だ!嫌だよぉ!」
食べかすは大きければ大きいほど、もう一度チャンスを与えられる事があるが、アジフライの衣、しかも落ちた時に音もないような小さなものであれば、そのほとんどは気づいてもらえないまま、ゴミとして生涯を終えてしまう。
「誰か!誰か気づいてよ!わたしまだサクサクで美味しいよ!」
アジフライの衣は叫ぶ。しかし人にそんな訴えが伝わるはずもない。
「わた、わたし、このままゴミになっちゃうのかな。」
アジフライの衣はついに、泣き出す。己の現状を受け入れ出したのであろう。
「泣かないでぇ」
不意にどこからか、声が聞こえてきた。アジフライの衣は声のする方を向くと、同じく揚げ物の衣らしきものがいた。
「泣かないでぇ!」
自分と同じ色で同じ質感、そして同じくらいの大きさの衣仲間が、いた。アジフライの衣は、少しだけ救われた気分になった。
「僕らはいづれゴミになっちゃうけど、今はまだ食べかすだよぉ!一緒にがんばろうねぇ、ころもちゃん!あ、勝手に名前つけちゃったぁ!」
ころもちゃん!アジフライの衣は、自分にも存在価値があると思えるその名前を気に入った。そして、衣仲間の彼をころもくん、と呼ぶことにした。
「ころもくんはいつからいるの?」
「さっき落ちたばかりなんだぁ!お母さんのアジフライに付いていたんだよぉ!」
「そうなんだ!わたしは、こどものアジフライから落ちたの。すごくショックで嫌だったんだけど、ころもくんのおかげで今は元気になれたよ!」
ありがとう!そう言おうとした瞬間、ころもくんは姿を消した。否、人に踏まれて潰れたままスリッパの裏に着いた、というのが正しい。その後、ころもくんの消息は誰にもわからなかった。
「う、そ。」
奇跡的に助かったころもちゃんは、ショックのあまり、どうすることも出来ずに、その場に転がっていることしか出来なかった。
食べかすの運命は、あまりにも惨すぎる。ころもちゃんははじめて、本当の絶望感を味わった。
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