#49 TVドラマの脚本は手書き…読めない

昭和中期テレビのドラマに〝クール〟なんてものはなく

人気が出れば何年でも続くし 人気がなければ突然主人公なり

敵なりを殺して〝終劇〟となります 

そもそもテレビなら何でも見てた時代に人が見ないなんて

よほどの話ですから


ですから 一つの事件を追いかけて推理し解決する話に人気が

出たら 犯人は信じられない程逃げ回らねばなりません

と いう訳で事件ものなどの主流は主人公は変わらず

一話完結のストーリー まあシリーズ化してる番組は今もそうですね


 そしてもう一つが 〝一代記もの〟主人公は子供の頃からいじめられ

しいたげられ苦労して苦労して次第に世の中に認められていきます

(〝おしん〟型です 今は格下世界に転生して楽に神になるみたいですが)

これって 人気があればどんどんエピソード増やしてって伸ばせるし

人気なければ「はい 成功しました」に一気に飛ばせる伸縮自在ネタ

なんです


その分野でトップライターだったのが『細腕繁盛記』『銭の花』の

花登筐はなとこばこ先生 その人と関テレが組んだのが『どてらいやつ

西郷輝彦主演でかなりな高視聴率だったようで 3年以上続いた連続ドラマでした 

      ド根性ものは苦手だったので あまりストーリーは知らないです

      実在人物をモデルにした立志伝だそうです 


大河のように始めから1年と想定して打ち合わせしているわけではない3年です

ドタバタです 先生の原稿が上がってこないと誰一人先の展開が分からない


ドラマの収録は東京です こちらにはそれだけの数のスタジオがないし

何より 役者さんを全員大阪に移動してもらい宿泊させるより 

スタッフを東京出張させる方が はるかに安上がりですから

という訳で 大阪本社に届く脚本が遅れるのは一大事なんです


一度巻き込まれました その日ディレクターは上京期限だったんですが

持参する脚本ができてない 先生は他の仕事で列車移動中に書くと言ってる

もちろん メールもないし FAXもない 先生にスタッフが付き 

各駅にバイクを待機させ 駅毎に出来た分だけ会社に届ける体制でした


原稿は手書き 先生の文字は〝個性的〟それが列車の揺れですごい事に

台本印刷専門の印刷屋は依頼を受けて 待機しているけど 

そのまま渡しても 絶対分からないレベルなので(間違いは困るし) 

普段から 担当Dがルビをふって渡すのです ところが 

日頃 神がかり的判読わざを見せるDも 頭を抱えた


そこで制作部室にいた全員に協力要請が飛んだ 10人ほどいたでしょうか

そして 私に「15部 コピーしてきてくれ」と生原稿が渡された


コピーする って簡単 とお思いですか?

私はまず最上階(6階だったと思う)の機械室にすっ飛んでいく

そこに 全社で たった一台のコピー機があるのです

担当のおじさんに ノートをもらい

いつ? どこの誰が? 何を? 何のために? 何サイズを何部?

といった 事を記入して検閲を受け 判をもらいおじさんが 

コピー機のカギをあけ  カウンターの数字を記入して 初めて

コピーできるのです


おじさん「制作部多いんだよなあ」とか言いながら 間違えないか

後ろからじ~っと見てますからね ミスコピーなんてありえません

緊張の一瞬です 

最後にカウンターの数字と 申請したコピー枚数をチェックしてOKです

2階に駆け降ります


すでに 机を押しのけたスペースに椅子を丸く並べて 皆が待ってます

全員が原稿のコピーを持ったら 担当Dが読み始めます

皆真剣です 聞きながら ああこれが先生の〝ね〟か などと確認します

Dが詰まると「〝つき〟じゃないですか?」「〝つま〟とも読めます」

「短い二本の横線は揺れてついたので〝てさ〟のような気がします」と

古文書解読の風情 遠慮なく発言する事を求められてるので頑張りました


こうであろう はDが決定して原稿にルビを振り印刷所に端から回して

行きます


そして突然「おい! ○○のお母さんが出てくるぞ!」

大事件勃発です ADさんがタレント名鑑くって程よいばあさんを

捜します Dはバイトの我々にも「テレビとかでお婆さん俳優の

思いつく名前あげて」と言います

あちこちから 色んな名前が上がりますが 

「あそこの事務所 急な話はだめ」「それは大物過ぎ」

「ああ その人 出演してる○○と因縁があるんだ

 後の話で合わないとも限らないから」

なんて 言いながら次々と電話かけて 俳優さんを探します


今は絶対ないだろう 昭和中期のテレビ局バタバタ話です 

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