第五十四話 イルス祭9
「旦那──!!」「うわぁああ──!!」
ジェイスとルイフェルドが叫んだのは同時だった。もちろん、前言がジェイス、後言がルイフェルドのものだ。
ルイフェルドはいつの間にか手にナイフを握り締め、ローレンスを殺したブレイドに向かって駆け出そうとしていた。
ジェイスが急いでその身体を片手で軽く受け止め、ルイフェルドの目をしっかり見つめ首を左右に大きく振る。
ルイフェルドは少しジタバタと暴れたがジェイスの片腕さえ振り解けない。その無力さにその場にうずくまって泣き崩れた。
「──うるせえ餓鬼だな。お前もあのジジイと一緒のところに行くといい」
ブレイドはゆっくりと近づき四本の剣を握った右手をルイフェルドに向かって振り下ろす。
「キーン!」
凄まじい金属音がしたかと思うと、ブレイドの四本の剣は全て根本から折れているではないか。
ブレイドとルイフェルドの間には二本の剣が立ち塞がっていた。
ジェイスのタルワールとテメレアの
剣を折られたブレイドは急いで距離を取る。
「ここは任せて、あなたはあの子を保護して」
テメレアはそう言うと、厳しい表情を浮かべながらブレイドを睨みつける。
ジェイスはルイフェルドを左手にローレンスの亡骸を右手に抱えテメレアの後方に下がる。
ブレイドは右手の四本の折れた剣と左手の剣を全てその場に捨て、ローブの中から掌を広げたくらいの大きさの円盤を二枚取り出す。
円盤の真ん中には丸穴が空いており、外周部は鋭い刃でできている。
ブレイドは慣れた手つきでそれぞれの円盤の穴に両手の人差し指を通し、人差し指を振って円盤を回転させる。二枚の円盤が高速回転しその姿がぼやけてくるとブーンという蜂の羽音のような音を発した。ブレイドは二つの回転する円盤をテメレアに向けて放つ。円盤は吸い寄せられるようにテメレアの顔めがけて緩いカーブを描きながら向かって行く。
テメレアは咄嗟に首をわずかに後方へ傾ける。二つの円盤は先程までテメレアの顔があったあたりで軌道が交わる──。それはテメレアのほんの鼻の先だ。
二枚の円盤はテメレアの両頬を掠めすり抜けて行く。
「チャクラムか……、珍しい」とテメレアは呟く。
チャクラムとは真ん中に穴の空いた薄い円盤で、円盤の外周部には鋭い刃が付いている。回転させたチャクラムを相手に向かって飛ばすことで攻撃に使う。大陸外の東方地域にその発祥があると言われる。
「クソ……」
ブレイドはテメレアに両方のチャクラムが躱わされたのを見て、急いでローブの中を弄る。新たに二枚のチャクラムを手に取って再びテメレアの方へと放った。
ブーンという不愉快な音がテメレアの下へ迫る。
テメレアは飛んだ。まさに飛んだように見えた。テメレアは自分の身長よりも高いところまで跳躍したのだ。テメレアの靴の下──先程までテメレアの胸のあった場所──に四つのチャクラムが四方から吸い寄せられるように同時に飛来してきたのだ。
テメレアは刀身の輝く細剣 《レイピア》を目視できない速度で振り下ろす。
激しい閃光──。
金属の奏でる不協和音──。
四枚のチャクラムは一度に地面に叩きつけられ、石畳は砂埃を上げた。
「あえて、最初の二枚のチャクラムは避けやすいように顔を狙った。一定以上の修行を積んだ者なら避けられるだろう。そして、焦ったフリをして続け様にもう二枚のチャクラムを放つ──」
テメレアはそう言いながら鋒をブレイドの方へスッと向ける。
「眼の前の二枚のチャクラムに意識が集中している間に、避けられた二枚のチャクラムが戻ってきて後方の死角から命を刈り取る訳ね……。そんな小細工は私たちルミナス騎士団には通用しないわ!」
テメレアの細剣 《レイピア》が輝きを増す。
「チッ、さすがはルミナス騎士団と言ったところッ――」
ブレイドが言い終わる前にテメレアは細剣 《レイピア》の鋒がブレイドの喉元に迫る──。
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