第四十話 イルス王国王都トレド2
門をくぐるとまず目に入ったのは、大通りの先に聳え立つ巨大な王城だった。
王城の後ろから陽光が差し込んで、王城に荘厳さを与えている。王城も王都の壁と同じように白亜の城壁で囲まれている。城壁には沢山の旗が風に靡いているのが見える。旗は赤地で、イルス王家の紋章である夜鷹が大きな翼を広げているのが、この距離からでも見える。
テラは人生で初めて見るお城に興奮していた。
「す、すごい。昔話に出てくるようなお城があるわ!!」
テラは目を見開き、お城の方へと駆け出そうとする。
アヴァンはその手を捕まえて言う。
「こらこら、王都は広いんだから、逸れちゃ大変だぞ。テラ、これが王様のお城だ。すごいだろう?」
まるで王城を自分が造ったかのように自慢気だ。
「こんなおおきな建物は初めてみた」
テラはお城から目が離せない。御伽話のように突如、自分が何処かのお城で大勢の家臣に傅かれる風景が目に浮かんで驚く。
「世界にはもっと大きな建物が沢山あるのよ〜」
エルサの言葉にテラは目をさらに大きくする。
「えっ!そんなものが沢山あるなんて……。なんて世界は広いのかしら」
「そうよ、世界は本当に大きいんだから……、といっても私もそんなに多くの国には行ったことがないんだけれどね。ここより遥か南にあるエトルリア共和国にはね──」
「エトルリア共和国とはこの東域連合の中心地だ。その首都には──」
アヴァンが続けた。
「そう、東域連合本部のエスペランサ宮殿があるの!昔話にも出てきたでしょう?」
エルサが続ける。
「うん、『七人の始祖』っていうお話で出てきた!本当にあるんだ!」
テラはさらに目を輝かせる。
「本当に大きかったわ……。この王都トレドがすっぽり入ってもまだ足りないくらい……」
街がすっぽり入ってしまうくらいのくらいの宮殿……。サルネ村しか知らないテラにとっては想像すらできない光景だ。
「テラが生まれる前はお父さんといろんなところを旅したことがあるのよ。テラがもう少し大きくなったら、三人で世界を旅しましょうね」
エルサは微笑みながらテラの赤髪を撫でた。微笑んでいる母の揺れる髪も、同じ萌えるような赤髪だ。
ほら、口が開いたままよ。エルサに注意され、テラは慌てて口を閉じる。驚きのあまり、無意識に口を開けたままだったのだ。
テラたちは馬車を街の宿舎に預け荷下ろしを終えた頃には、陽は傾いて西に広がる山脈の稜線へと沈み込もうとしていた。街では所々で灯がともり始めたが、街には人々がごった返し皆忙しそうに動き回っている。テラたちのサルネ村では日が沈む頃には村で唯一の酒場も閉まってしまい、みんな自分の家で過ごすというのに……。
「みんな、明日から始まる中央市の準備に忙しそうだ──」
中央市が開かれる大通りをキョロキョロとしながらアヴァンは言った。おそらくアヴァンは修理に役立ちそうな店がないかを探しているのだろう。
──!!
時折、関心を引くもののを見つけると暫し立ち止まり、すぐに頭を振ってまた歩き始める。そんな様子をテラとエルサは半歩後ろから眺めてくすりと笑いあう。
王都トレドは約直径五キロメトルの円形をしており、王都の周りは高い山々で囲まれている。
その円の中心には小高い丘があり、その上に王城が建つ。
王城から北、東、西の四方向へと大通りが伸び、それぞれの大通りから細い道が伸び、さらにそこから路地と網目のように広がって迷路のような景観だ。
現在テラたちの歩く北の大通りは王都を出ても続き、エルボの森、そしてイルス王国北部のサルネ村の方へと続いている。東の大通りは隣国アメストリス皇国へ、西の大通りは隣国ヴォールト古王国へと続いていく。
「王都に着く前から荷下ろしの準備をしておいて正解だったわ。明日に備えて少し街を観光できそうね」
通りの左右では明日からの中央市に向けて準備をする人たちが忙しそうに動いているのを見ながら言った。
「こんなに人がたくさん集まっているところって初めて!なんか……、落ち着かないね」
テラは右手に持ったクッキーをかじりながら言った。テラは長旅を頑張ったご褒美として、アヴァンから露店のクッキーを先ほど買ってもらったばかりだった。
「明日からはもっとたくさんの人が来るわよ。他国からの商人が来るだろうしね」
テラは興味津々で一つ一つの露店をじっと見ながら歩いている。
アヴァンとエルサはそんなテラを挟んでその歩調を合わせてゆっくりと歩む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます