第53話 勇者なんて名乗る奴は地球人に決まっている(偏見)!
私は、ダンジョンの改装を進めながら、同時進行で探索者の呼び込みの準備も進めていた。
最初はプレオープンみたいなものなので、あんまりたくさんの探索者が来ても困る。例えば、いきなり500人とか来てしまったら、ダンジョン内部でも人間同士の諍いが発生するだろうし、なによりも、街にそれだけの人数を受け入れる準備ができていない。
それで発生するのは暴動である。暴動は怖いぞ。
「とはいえ、できればある程度経験のある探索者を呼び込みたいんだよね」
「いや、無理でしょ。私が言うのもなんだけど、メルクォディアの悪評ってまあまあ広まってるからね。そもそも新しい人だって来るんだかどうだか……」
「ジガ君たちも知ってたくらいだしなぁ……」
普通に終わった迷宮とか言われてたしね。というか、そういう「ほとんど終わってるでコレ」、みたいな迷宮はそこそこ数があるらしい。メリージェンやメイザーズみたいに成功できるとこばかりではなく、失敗して管理局にド高い管理費を支払う羽目になったなんて話もあるという。
ちなみに、うちは迷宮の規模が大きいので管理局も管理費はほとんど取らないが、その変わり権利関係は全部持っていくという契約を迫られていたらしい。
フィオナといっしょにダーマ市庁舎に訪問する。
エヴァンスさんも交えて、そのあたりを話し合っておく必要があるからだ。
あと、迷宮管理局のこともある程度知っておきたい。
「そういえばこっちでパパさん見かけないけど、別のとこで仕事してるの?」
「あー……実はあんまりマホのこと信じてないみたいで、お兄様と二人で領内になにかお金になるものがないか探しに行ってるみたい……」
「えっと……それは銀山を探しに領主自ら冒険に出たみたいな解釈でいいのかな……?」
「うん。オークションのこと話したら、もっと頑張らなきゃって思ったみたいで。いや、私は止めたんだよ? 止めたんだけど」
「ダンジョンという金鉱を掘ってる最中なのに、妙なとこで思い切りがいいパパさんだね……」
そう。パパさんは妙なところで思い切りがいい。
ダンジョンだって迷宮管理局に任せておけば、魔石の売買の利益こそ得られないにせよ、人口増加による副次利益は莫大なものになったはず。
それを良しとせず、全取りを目指したわけだから、元々かなり山っ気が強いタイプなのかもしれない。見た目は人畜無害そうなんだけどな……。
まあ、すでにこっちは全権任されているから問題はないけどもさ。
「というわけでエヴァンスさん、探索者をちょっと呼び込もうと思ってまして」
「それはかまいませんが……来ますかね。うちに」
「手段を問わなければ、いくらでも手はありますが、できればこう……品行方正な人に来てもらいたいんですよね。でも、面接して来てもらうほどこっちも余裕ないですし、そこが難しいところです」
「手段を問わなければって、どういうのがあるの?」
「いろいろあるよ。魔石の買取価格をこっちのマージンゼロにするとか、毎日お酒を一本プレゼントするとか、公共施設利用料1年間無料とか」
「あー、なるほど。魔石のマージンゼロ買取はけっこう大きいかもね。うちは管理局と比べればもともと多く取ってないけど」
「さほど良い案ではないけどね」
「そう? 私はいいと思うけど」
「いや、こっちが儲からないのはあんまりね」
商売で運営するのだから、儲からないといけない。
儲けを度外視した施策も時には必要だが、最終的にはより儲かるための布石である必要がある。魔石のマージンゼロは、その探索者が有力であればあるほど、こっちの直接的な利益を損なうことになる。
ただ……こっちは魔石がたくさん欲しいわけだから、それはそれでアリなのか?
……いや、やっぱりダメだ。魔石の買取価格は聖域みたいなもの。そこに探索者によって格差があると知られたら、運営の信用を損なうことになる。
これから心機一転、ダンジョンを再オープンしようというのだ。
信用は大事にしていきたい。
「やっぱ無難なのはプレゼント系なんだよね。こっちは損がないし」
「それだけで来てくれるかなぁ」
「高レベルじゃなくてもいいんだよ。多少経験がある……そうだねレベル3くらい。初心者から初級者にあがったくらいの子でいいわけ。それならちゃんと広告打てば集まるんじゃないかな」
「それならありえるかな……? でも、メリージェンのレベル3って、まあまあ普通に稼げるからなぁ……。あと、マホは僧侶の子とかに来てほしいんだろうけど、僧侶は難しいと思うよ?」
「そうなの? なんで?」
「僧侶は少ないし、一番人気があるから」
僧侶が一番人気か。まあ、癒し手がいるかいないかで、パーティーの継戦能力が大幅に変わるとか言ってたから、さもありなん。
「そういえば、僧侶はどうやってなるの? 魔法使いは神と契約するってのは知ってるけど」
「僧侶も神との契約だよ。ルクヌヴィス様と契約するか、治療神ミスミランダと契約するかのどっちかだね」
「ルクヌヴィスって例の寺院の名前の?」
「そう。大神――ルクヌヴィス様と契約できる人は探索者じゃなくて、そのまま寺院で働くことになるパターンも多いけどね。完全蘇生魔法はルクヌヴィス様と契約して十分に修練を詰んだ僧侶にしか使えないから」
「なるほーど」
だんだんこの世界のクラスのことがわかってきたぞ。
まず、近接系の能力をつかさどるのが「戦士の加護」。これがなければ近接戦闘は基本的にヘボいらしい。フィオナによると、戦士の加護は神との契約ではなく、先天的――魂に根付いた生まれながらの加護で、人の神による寵愛の証だとかなんとか。
で、問題は魔法のほうだが、こちらは「神と契約できるか否か」で魔法使いや僧侶になれるかが決まる。さっきフィオナが言ったように、ルクヌヴィスかミスミランダと契約できたら「僧侶」、それ以外は「魔法使い」という区分けになるらしい。
で、フィオナのように「戦士の加護」があり、なおかつ「神との契約」もできた人は、魔法戦士や僧侶戦士になれるのだ。私の感覚(ゲーム由来だ!)だと、上級職というやつだね。
「神との契約って一人につき一つ? 複数の神と契約したりとかはできない感じ?」
「あー、複数神との契約はねぇ。できる人はいるみたいだけど、本当に少ないよ? 人間の魂の器ってね、神様の欠片を宿らせるだけでも精一杯なんだ。そこにもう一つ神様を乗せるってことだから、普通の人の2倍の大きさの魂が必要ってことになるわけで」
「魂ね。……ふ~む、そういう概念? いや、魂が実際に実在するのかな。面白いね」
魂ってのは、私も言葉の感覚としてはわかるけど、この世界では「契約した神が乗る場所」として、肉体のどこかに実在する――あるいは、魔力的な概念として存在しているというわけだ。
「じゃあ、理論上、戦士の加護があって、僧侶の魔法も魔法使いの魔法も使える人間は実在するってことか。なんかすごいね」
「うん。前に少し話題に出たことあったかもだけど、メイザーズにいる『勇者さん』がそれ。私は実物は見たことないけど、戦士の加護があって、雷神イヅ・ラディア様と契約。さらに治療神ミスミランダ様とも契約してるって」
「へぇ……。もしかしてだけど、の勇者って黒髪で自分で勇者と名乗って、自分以外異性ばっかのパーティー組んでる感じ?」
「え? なんで知ってるの? 髪色は知らないけど、かっこいい男の子ばっかり集めてるってけっこう有名だけど、マホがそんなことまで知ってるなんて」
バッカモーン! そいつがルパンだ!
どう考えても転生者もしくは転移者です。
「よし。そいつ勧誘しにいくか。どこにいる? すぐ出発しよう」
「え、えええええええ? どうしてそうなるの???? 来てくれるわけないじゃん⁉ メイザーズのトップ探索者だよ? 位階だってめちゃ高いって話だし! 私が最後に噂で聞いたときでも位階16だか17だかって」
「その勇者って男? 女?」
「女の子らしいよ」
「あは。楽勝!」
日本人……まして、女の子なら私との契約に乗らないはずがないからね。
もちろん、日本人じゃないかもだけど、ダメ元、ダメ元!
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