第32話 地図を作ろう!


 ポチとタマとカイザーを引き連れての第一層探索は楽勝にすぎた。


 1層にいる魔物はスライムという名前の謎の軟体生物で、こいつがただのザコではなく、魔法でなければ倒せないという特性があるのだが、ポチもタマもカイザーも何故か火を噴くことができるようになったとか言い出して、まあ、スライム、会敵、即、蒸発となったよね。


 スライムの、体組織の大半が水分で、スライムの名前の通り、アメーバみたいにズルズルと動く。直径は50センチくらい。壁とか天井とかにひっついている時があり、それに気付かないと不意打ちされて窒息させられることがあるのだとか。腐っても魔物は魔物ということか。


 あとは、最初に言った通り、魔法じゃないと倒せないということ。

 ダンジョンが出来たころは、こいつが魔法じゃなきゃ倒せないということを知らないで挑んだ探索者が、それなりに犠牲になったのだとか。

 なにせ、動きの遅いアメーバにすぎないのだから、いつか死ぬだろうと叩くのに夢中になっている内に、足元から侵食されて――という具合だ。


「松明の炎とかじゃ倒せないの?」 


 地図を描きながらフィオナに訊く。


「ちょっと嫌がるくらいみたいよ。遠ざけられるくらいじゃない?」

「なるほど。物理はほぼ完全耐性を持っているってことか。最序盤の敵のくせに」

「魔法にはめちゃ弱いけどね」


 ピーキーすぎんだろという気がするが、言っても仕方ない。ダンジョン経営するなら、こいつらはどうにかしなきゃかもな。


「ご主人、あっちもスライムいますワン」


 ずっと遠くにいるスライムをいち早く発見するポチ。


 みんな感覚が鋭いんで、肉眼では見えないような距離の魔物もすぐ見つけてくれる。

 私とフィオナは、後に付いていって地図を書いていくだけ。

 スライムもファイアブレスで一発だ。

 

「もうこの子たちに深層で魔石をとってきてもらえばいいんじゃないかな……」

「フィオナ! なんてこと言うの! この子たちは、身体はおっきいけどまだまだ子犬子猫子トカゲちゃんなんだから戦闘なんてできるわけないでしょ!」

「戦うのは怖いワン」「ニャン」「ガァ」

「ええええ……」


 まあ、フィオナの言い分はわからんでもないけど、この子たちだって心まで変わったわけじゃないんだから、わけのわからん魔物が跋扈する迷宮内で魔物を倒して回る日々を送れなんて、言えるわけがないのだ。

 犬も猫も高度に家畜化された、つまりペットなんだから。たとえ、どんなに大きくなろうが、狼やライオンになるわけじゃない。見た目はドラゴンみたいな元フトアゴヒゲトカゲのカイザーだって、温厚な性格で、元は昆虫だけじゃなく植物……葉っぱとかも食べる種なのである。

 争ってばかりいる人間と同じようにはいかないのよ。


「そりゃ、自分の身を守るためとか、私たちを守る為とかならこの子たちも戦ってくれるだろうけどさ、単独で『行ってこい』なんて言えないし、可哀想でしょ? 魔物にやられて死んじゃったらどうすんの?」

「うっ、それは……確かにそうだね。……ごめん、あんまり、強そうだからつい」

「それにこの子たちには、もっと大事な役目を考えてるから」

「役目?」

「そう。この子たち向けの仕事があるのよ。まあ、まだ秘密だよ」


 まだいろいろ計画段階だからね。

 それにしても、地図を作るのは意外と大変だ。そもそも、ダンジョンゲームみたいに同じサイズの通路だけで構成されているわけじゃなく、通路の幅も天井の高さもけっこう変化するんだよ。

 確かにこれじゃあ、地図はあんまり普及しないかもしれない。

 フィオナが言うには同じ階層内でも、立体交差するような地形があったりするらしいし、そうなったら紙の地図だと書くのはかなり技術が必要になりそう。

 地図もいいけど、地図以外の手段も考えたほうがいいな、これは。


「ねえ、フィオナ。ダンジョンに案内図とか看板とか掛けたり、地面に『階段こっち』とか文字書いたりしたらどうかな?」


 我ながらグッドなアイデアだ。

 というか、ダンジョンをそのまんま使おうというのがダメなのだ。自分たちのやりやすいように改造して稼げる場にすればいいのだ。


「ダンジョンにそういうの置いても、すぐ吸収されちゃうよ? 人間の死体とかは、まだ魂が残ってる間は吸収されないけど、物なんかは1日ももたないんじゃないかな」

「ん? そうなの? それ、おかしくない?」

「おかしいけどダンジョンってそういうものなの。マホは知らなかったかもだけど、これダンジョンの常識だから」

「いやいやいやフィオナ君。最下層にお風呂やら椅子やら出しっぱなしだけど、全部そのまま残ってるの忘れたの? ドラゴン部屋のゴミも、トカゲ部屋の照明器具も、水竜部屋のポンプだってそのまんまだよ?」

「あ、あー。確かに。なんでだろ……? ホームセンターから出てきたものは吸収されないってこと……?」

「多分そうなんじゃない? なら、問題ないじゃん。改造しまくれるぞ!」


 世界で唯一の人間の手が入ったダンジョンだ! 

 勝ったな(確信)。


「じゃあ、これをここに設置します。宝箱として」

「え……? 私たちが宝箱を設置するの……? それ、探索者を騙して呼び込むってことなんじゃ……」

「いいや、箱も中身もダンジョンにあるものには違いないんだからいいんだよ。ちょっと位置を変えただけ……」


 本来なら最下層まで行かなきゃ取れないお宝が第一層で拾えるんだから、探索者からしたら大儲けですわ。

 ま、実際のところどういう形でどう置いていくかはおいおい詰めていくとして、まだメルクォディアで頑張ってる探索者が数名いるらしいから、先行者利益というやつだ。


 1階層自体もそこまで広くない上に、広間みたいなところもそれなりにあって、地図は数時間で完成。

 その帰り道、少年少女の探索者と出くわし、フィオナは知り合いみたいだったんで、宝箱の場所を教えてあげた。

 余所よそのダンジョンに移動する予定なんて言ってたし、ここが儲かるダンジョンに変わるってこと、知ってもらわないとだからね。

 というか、このタイミングで余所よそに移動するのはめちゃくちゃ損だよ。


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