第15話 まっくらやみだ!

 ゆっくり休んで、次の階層へ。


 ヒュドラ草が生えていた階層の扉を開き、上へ続く階段を上っていく。

 今度もまた長い。フィオナが言うには、浅層の階段はこんなに長くないらしい。


「うわっ、真っ暗だ!」

「本当ね。ライト!」


 扉を開くと、部屋の中はまさしく一寸先も見えぬ暗闇。

 フィオナが、魔法で小さな光球を発生させるが、短時間で消えてしまった。


「まずいよぉ。マホ、ここダークゾーンみたい」

「なにそれ?」

「稀にあるのよ。光虫がいない場所が。階層全部がダークゾーンってことは、ほとんどないんだけど。魔法の光を発生させても、今みたいにすぐに闇に飲まれちゃうんだ。松明があれば、それなりに照らせるけど……」

「松明がOKならなんとかなるんじゃない?」

「でも、松明なんて持ってたら戦えないでしょ。それに、松明なんかじゃ、大して照らせないから不意打ちを食らう可能性も高いし……」


 おいおい、まだホムセンのすごさがわかってないのかな? フィオナちゃん。

 照明がありゃいいんでしょ? あるある。売るほどあるよ!


 私はフィオナとホームセンターまで戻った。

 地味に上り下りがきついが、さすがのホームセンターでもこれだけはどうにもならない。

 農業用モノレールでも敷設できればいいが、さすがにそこまで専門性が高いものはホームセンターでも売っていない。手作りならなんとか……ならないか。私の知識と技術では無理。

 まあ、ヒュドラ草の討伐で少しだけレベルアップしたらしく、少し身軽になったから、それほど苦にならない。時間もあるわけだし、身体を鍛えてると思えばいいだろう。プロテイン飲んどこ。


「火で明かりをとるのでもいいけど、やっぱりここは電力でいこう」

「どうするの?」

「これを設置します」

「なにこれ?」


 フィオナからすれば謎の物体だろう。バルーン型LED照明だ。こいつはかなりの照度があるし、屋外工事用だから、閉鎖空間を照らすくらい訳がない。

 しかも無限在庫だから、いくつでも設置できる。


「さて、どういう階層かな……?」


 発電機を起動して、バルーン型照明を点灯する。

 フィオナの魔法で出した光はすぐに闇に飲まれてしまったが、バルーンの明かりはまあまあ闇に拮抗しているようで、それなりに周囲を照らせた。

 ただ、何か不思議な力が働いているのか、明るくなる範囲が想像よりも狭い。

 う~む、やはり大量設置の必要がありそうね。


 音を聴く限り、魔物の気配は今のところない。

 とはいえ、頭上からいきなり魔物が降ってきたりとか、凄い速度でニンジャが首に斬りに来るとか、いろんな可能性がある。

 扉前から、徐々に徐々に明るい範囲を広げていく私たち。

 運べる荷物に限りがあるから、かなり何度も下と上を往復する必要があり、相当しんどい。

 太ももだけ太くなりそうだわ。


「……ん? ここ……床というか、地面に裂け目があるね……って、怖! 底が見えないんですけど!」

「あー、ピットだね。こんなに大きいのは珍しいよ」

「大きいというか……向こうまでずっと続いてない? 裂け目?」

「本当。なんでこうなってるんだろ。明かりなしで冒険者を落っことすため?」

「そりゃ、そうでしょ。落とし穴なら」


 裂け目は大きく、向こう側へはジャンプして渡るのは無理な距離。迂回する必要があるだろう。ホームセンターから物資を運んできて、橋をかけることもできるが、それは最終手段としたい。素人が作った橋とか怖すぎる。

 私、高いところとか苦手なんだよ。


 とりあえず、裂け目を迂回しながら、照明を設置していく。

 階層は広いが、壁の類は今のところ見当たらない。

 たぶん、下の階と同じように外周だけだろう。

 強力な懐中電灯をいくつか投げてみたが、今のところ壁には当たっていないからだ。

 ちなみに、魔物らしきものも今のところいない。下の階と同じく、ただの環境罠だけの階層なら楽なのだが……。


「マホ、こっち側から向こうに行けそうだよ」

「急に裂け目が途切れてるもんね。なんだこりゃ。迷路みたいになってんの?」

「そうかも」


 わりと平気そうに落とし穴をのぞき込むフィオナ。

 見てるこっちが怖くて、手を引く。


「そんなに穴に寄ったら危ないって。ていうか、フィオナは怖くないの? 私、こう無限の落とし穴とか本能的に恐怖が……」

「そりゃ私だって怖いけど……。ふぅん、マホにも怖いものあるんだ」

「そりゃあるよ。私は暗い場所も、深い落とし穴も普通に怖がるような普通の女の子だからね」

「マホが普通とか無理あるでしょ」


 地球では私ぐらいはまだ「ちょっと変わり者」くらいの枠だからセーフだよ。


 設置前に、アウトドア用のランタンを投げまくって明かりを確保してから、工事用の照明を数メートルおきに設置。

 一応、魔物が出たら速攻逃げ出せるようにしてはいるが、ドラゴン級とまでいかなくても、強めの魔物が出たら私もフィオナも一瞬でお陀仏である。

 安全確認しながら進んでいるとはいえ、大丈夫だろうか……。


「それにしても、この穴ってどこまで続いてるんだ? ちょっと音が出る物落としてみよっか」

「普通、ダンジョンの落とし穴って、下の階に落っこちたりするから、もしかしたらヒュドラ草があった階層に続いてるのかも」

「いや、位置が違うし、あの階層の天井に穴なんて開いてなかったでしょ」


 とはいえ、ダンジョンはそもそも不思議なもの。考えられないことが起きる可能性もある。


「じゃあ、いろいろ落としてみよう。ついでにゴミも捨てよう」

「ゴミって……」


 だって、麻痺ヒュドラ草を燃やしたときの装備とか麻痺毒付いてそうで危ないし、ドラゴン部屋も、ひしゃげたコンテナとか、蓄電池とかけっこうゴミが散乱してて、気になってたんだよね。


 ゴミを裂け目に投げ捨て、さらに音が鳴るものとして、お皿やグラスを投げ入れる。

 投げ入れたものたちが、音も無くスーッと闇に消えていく。

 しばらく……20分ほども待ってみたが、音は返ってこなかった。

 

 下の階に落っこちてきている可能性も考えたが、なにも落ちていていない。

 つまり、闇の底へと消えてしまった。

 あるいは、音が帰って来ないくらい深いか、空気がなくて音が帰って来ないだけか。

 いずれにせよ、落ちたら助からないことだけは確かだ。


「う~ん。ドローンとか使って調査してみてもいいけど……それにしても深い穴だな。柵とか作っておいたほうが………………ん?」

「どうしたの、マホ。目なんかこすって」

「あそこ……なんかいない?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る