第14話 お風呂に入ろう!
フィオナ曰く、毒の花粉的なものを出すわけではないらしいが、一応マスクは着用しておく。肌には触れないように、全身防備を固めて。ウェーダーを穿き、生身の部分を露出させないようにして。
万が一に備えて、安全帯を身体に付けて、麻痺ったら階段のとこからフィオナに引っ張って救出してもらえるようにした。
「そんじゃ、いくよ~? 汚物は消毒だぁ!」
ゴォオオオ! とバーナーから炎が噴き出す。燃料は灯油だ。
階層のほとんど全面が同じヒュドラ草で覆われている。広さはドラゴン階と同じくらい。つまり体育館全面ほどだ。全部の草を焼くのはまあまあ骨が折れそうだが、さしあたりは問題はない。
「うん。普通に燃えるね。というか、むしろ燃えやすい?」
バーナーで草を燃やした経験があるわけじゃないが、けっこう手応えなく鰹節みたいに踊りながら燃えて消滅していく。
そう。消滅だ。
炎で燃やせば煙や塵灰が発生するのは避けられない。私も、何度かに分けて作業する必要があると思っていたのだが、嬉しい誤算というべきか、煙も灰も発生させずに草たちは燃えて消えてゆく。
「お、お、おおお? おおおおお!」
むずがゆいような感触があり、私は一度フィオナのところに戻った。
「なんか身体が熱い! 毒かも!」
「うそっ!? でも、ぜんぜん動けてるじゃない。ヒュドラ草に触ったらすぐさま麻痺しちゃうはずだけど」
「悪い感覚はないけど、迷宮産だし、フィオナが知ってる草とは別のものだったかもしんない」
マズいな。呼吸系に作用するやつだったか?
酸素ボンベを背負って作業すべきだったか。迂闊……!
「ねえ、それって迷宮順化じゃないの? ヒュドラ草って魔物みたいなものだし」
「ん? え? 魔物?」
そういや、よく見たら草が消滅したところにちっこい魔石らしきものが点々と落ちている。
じゃあ、これ経験値を得てレベルアップしたってことなのか。
そういえば、草焼バーナーもさっきより軽く感じるかも!
「どうする? フィオナもやる? せっかくのお手軽経験値だし」
「いいよいいよ。マホが少しでも順化進めたほうがいいでしょ。マホ、非力すぎるし」
「それもそうだ」
私、10リットルのガソリン携行缶を2つ持って運べない程度には非力だからな……。
フィオナは軽々運ぶのに。
「じゃあ、ここの経験値は私が貰っちゃうぜェ!」
バーナーが火を噴くぜ! すべて消し炭にしてやる!
ちなみに、除草剤を使わなかったのは、ここを畑に再利用しようと思っているからである。
一度、除草剤を使っちゃうとリカバリできるかわからないからね。土は再利用したい。
灯油をかなり使ったが、ヒュドラ草はほとんど燃やし切った。
もちろん、全滅させず、
生命力が強い草だという話だし、残しておけば枯れずにいつまでも残るだろう。たぶん。
「よっしゃ! 次の階層に行こう!」
「……こんな簡単に……。マホ……ほんとに頼もしい……」
何度も言うけど、私が凄いんじゃなくて、ホームセンターが凄いのよ。
ちなみに、魔石は抜け目なくフィオナが全部拾い集めてました。
「次の階層行く前に、そろそろお風呂入ろうっか? 私も汗かいたし、なんか変な花粉とか付いてたらヤダし」
「お風呂? お風呂なんてあるの?」
「あるよ。沸かすのも問題ない。投げ込み式ヒーターもあるし。問題は排水がちょっと困るくらいかな」
「嘘! 入る! 入りたい! 実は、けっこう汗もかいてて気持ち悪かったんだよ」
今はいくぶんか落ち着いたとはいえ、ダンジョン最下層で、生きるか死ぬかという話だったわけで、さすがに落ち着いて風呂入るか~という感じではなかった。
人間というのは不思議なもので、入れないなら入らないで、まあまあ慣れてしまうらしく、私もけっこう平気だったが、なんとかなりそうと思ったら急に風呂が恋しくなってしまった。
「排水の問題があるから、ホームセンターの中ではダメだからね。開放感タップリだけど、駐車場にお風呂用意しちゃうよ!」
「なんか恥ずかしいけど、いいよ。楽しみ」
フィオナも女の子だからな。私も配慮が足りなかったよ。
水も電気もあるんだし、もっと早く用意してやればよかった。
湯船は普通にバスタブを使う。
水道はホースを繋いで引っ張り、駐車場のド真ん中に置いたバスタブに水をタップリ溢れるほど入れる。
投げ込み式ヒーターは、ドラゴンを倒す時にガソリンを温めたアレだ。
本来は何に使うものなのだか知らないが、こういう時に便利だ。
ガス式の湯沸かし器も使えるが、すでに繋いであるもの以外にガスを使うのは怖い。電気でなんとかできるなら、なるべく電気でなんとかしたい。
「ふふふ、フィオナ。私が頭を洗ってあげるからね」
「頭を……? 香油を付けるだけじゃなくて?」
「まさか! っていうか、フィオナほとんど手入れしてないはずなのに、未だに髪がサラサラなのマジで解せんのだけど、異世界人ってなんなの……?」
「手入れしてます! ほら、これ。
「そのレベルなんだよなぁ……」
逆にシャンプーしてしまうことで、なにもしなくても維持できているキューティクルの精霊的なものを殺してしまうんじゃないかという気がしてきた。
過ぎたるは及ばざるがごとしというしな……。
「頭を洗うための洗剤があるんだけどね……? フィオナは無理に使わなくていいからね……? 毒になるかもだから……」
「ええ~? せっかくだから使ってみたいんだけど?」
「ほんと? 後悔するかもよ? 天然で掛かっていた髪の毛の魔法を解いてしまうかも……」
「……なんで、そんな怖がらせるの……?」
だってフィオナって現代人が失ったものを持っている可能性高いし……。
まあ、シャンプーもリンスも売るほどあるわけだし、いいか。
なによりキッチリ洗うと気持ちいいし。
ということで、お湯が沸き、私たちは裸になって久々のお風呂を楽しんだのだった。
なぜいっしょに入る感じになった!?
だって、フィオナがいっしょに入ってくれないとわからないって言うから……。
あと、ついでなんでポチとタマも丸洗いしてやった。ペット用シャンプーも売るほどあるからね。
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