第13話 ヒュドラ草
「はぁ~。これだけあればあれもこれも……」
「あれもこれも? けっこう高く売れる感じ?」
「あっ、もちろん私の取り分は少しでいいよ……? 私、なんにもしてないし……ホントに……。10分の1……4分の1……はんぶん……」
だんだん声が小さくなるフィオナ。
意外と金に困っていたのか? いや、冒険者なんて金目当てでやる以外にはないだろうか。魔物と殺し合いをやり続ける稼業なのは間違いないのだろうし。
「う~ん。私はそれの価値がイマイチわかってないからねぇ。とりあえず、脱出できてから考えようか」
「あうあうあう。はい……」
あのドラゴンから出た魔石とやらは、二度と手に入ることはないだろう。
金に換えるなら、はっきり言ってホームセンターの無限在庫で事足りる。換金するのはもったいないような気がする。
それともお金以外の価値があるってことなのかな?
「それよりさ、ドラゴンもいなくなったし、次の階行ってみよう」
◇◆◆◆◇
扉を開き、階段を上る。
また長い階段だ。100メートルくらいあるのではないだろうか。
「そういえば、経験値獲得でレベルアップってのがなかったね。フィオナはあった?」
「迷宮順化のこと? あっ! そういえば、確かにない! 直接的にはなんにもしてないからかなぁ……。もったいない……」
気持ちはわかる。ラスボスの経験値をゲットし損ねたとか、損した気分だ。
「搦め手は経験値獲得できない仕様か……?」
いや、毒攻撃はわりと直接的な攻撃ではあるはずだ。少なくとも魔法よりかは物理的だ。
とすると、ボスでたまにある経験値が獲得できない仕様か?
なんたってラスボスだから、あとはもうクリアを残すのみでレベルアップの必要ないでしょ? みたいな……。そもそも、迷宮順化とかいうもの自体が謎だし。
ま……残念だけど、こればかりは仕方が無い。
しばらくはレベル1のまま頑張るかぁ。
階段を上り終えるとまた扉。
「そういえば、ダンジョンってセーブスポットはないの? こう……、休憩できる場所みたいな」
「せーぶすぽっとってのが何かはわからないけど、魔物が出ない場所は転送碑のまわりとかかな。この階にあれば帰れるんだけど」
「転送碑? なにそれ?」
「それを使えば別の階にある転送碑に瞬間移動できるんだ」
ほう! めっちゃ便利じゃん!
ダンジョンを何階層も毎回毎回降りたり昇ったり、めっちゃ大変だなと思ったが、要するにエレベーターがあるということなんだな。
「じゃあ、それを見つけるまで昇ればいいってことじゃん。なんだ」
「う、うん」
全階層クリアしなきゃ出られないのかと思った。
「じゃあ、それがあることを願って、扉を開いてみますか。まあ、ドラゴンよりは楽でしょ」
「……そうだね……」
フィオナがなんか歯切れの悪い返事の仕方をするのは気になるが、とにかく次だ。
実際の所、ドラゴンみたいに単体でボスがいる階層のほうがやりようがあるわけで、迷路の中でゾンビの大群が出てくるみたいなほうが私たちにとっては脅威である。
それにあたったらかなり苦労することになるのだが――
「わぁ! なんだこりゃ! すごい!」
扉を開いた先にあったのはお花畑だった。
部屋も、ドラゴン階よりもう少し明るい。さすがに外ほどの明るさではないだろうけど、マジでなに? サービス階か? お花畑で休憩してドラゴン戦への鋭気を養うための階とか?
「ま、待って待って! マホ、入っちゃだめ!」
「ん、どしたの。そんな青い顔して」
「これ……全部、ヒュドラ草よ……。枯れず、死なず、少し触れただけで全身が麻痺して動けなくなる毒草」
植物まで生息できるのか。
なんでもありだな、ダンジョン。
◇◆◆◆◇
ヒュドラ草。
フィオナによると、その花は生命力が強くなかなか枯れない上に、切っても切ってもすぐさま再生し、その上ちょっとでも触ると全身が麻痺するという恐ろしいものなのだとか。
「あ~、なんでこのダンジョン、こんな嫌がらせをするの!? ヒュドラ草なんて切っただけじゃダメで、炎魔法で焼き払わなきゃすぐ復活するんだよ? たぶん、魔術師を消耗させるための階層なんだよこれ。ちなみに私はちゃんとした攻性魔法は使えません」
頭を抱えて絶望するフィオナ。
麻痺花の群生地がこんな迷宮最下層にあるなんて、考えられないとのことなんで、やはり珍しいということなのだろう。
とはいえ、フィオナはまだホームセンターとはどういうものかわかっていないらしいな。
まあ、ドラゴンはガソリンで倒しちゃったから、仕方ない部分もある。
これは一番得意な分野だよ、君ィ。
「フィオナ君。本来だったらだね、冒険装備だけの冒険者たちが武器と防具を携えて、この階層に入ってくるわけだ。その場合は、魔法で焼く以外にないわけでしょ?」
「うん。普通は……確かにそうだね。魔法以外に対処法ないと思う」
「だけど、私達は違う。無限に道具があるわけで」
「う、うん……」
「つまり、毒草なんてどうにでもなってしまうというわけ。しょせん草でしょ?」
というわけで、我らが草焼バーナー君になんとかしてもらおう。
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