第07話 なんとかなるなる!
「――つまり、この建物は、あなたの世界のほーむせんたーっていう大きな雑貨屋で、あなたはこの『転移』に巻き込まれただけだっていうのね?」
「フィオナの話を信じるなら……そうなるかな。どうも、私のいたのとは、違う世界みたいだし」
「ふーん。じゃあ食べるのには当面困ることなさそうね。さっきの美味しいやつ、まだあるんでしょう?」
「勝手に食べちゃっていいのかはともかく、数年は問題ないかな」
厳密には永遠に問題ないかもだけど、その前に私たちの精神がどうにかなると思う。
「当面の危機的な状況は脱したってわけか」
フィオナはそう言って、なにかを考え始めた。
表情を見ても、だいぶ余裕が出てきた感じがする。まあ、閉じ込められてるといっても、そのうち助けが来るだろう。フィオナ、姫騎士風だし、たぶんそれなりにいい家の生まれに違いない。
「あのぉ……」
私はソロソロと手をあげた。
「それで、結局この場所はなんなの?」
「えっ? さっき説明したのに、聞いていなかったの?」
「そうだっけ? ごめん、聞いてなかったわ」
頬をつねったりしてる時に話してくれてたらしい。
だって、異世界転移しちゃってることに気付いて、半分脳内パニックになってたんだよ。
これは私は悪くない。
◇◆◆◆◇
ホームセンターの駐車場の隅。壁際に黒い石碑のようなものがある。
ツルっとした黒い石でできた、シンプルだけど雰囲気のあるやつで、サイズは私の身長より少し高いくらい。
もちろん、こんなものはダーマにはない。事務所には神棚があったけど、それくらいだ。
「私が宝箱の罠で、この階層に飛ばされてきたって話はしたわよね? あなたが、ここに呼ばれたのは、おそらく私がこの石碑で『助け』を願ったからよ」
石碑には水晶玉のようなものが埋め込まれていて、今は割れていた。
「願いを叶える宝玉の噂はもちろん知っていたけれど、正直……半信半疑だったのだけどね。まあ、実際マホが助けなのか、私にはよくわからないけど――」
「助け……」
じゃあ、私がこんなとこにいるのはフィオナのせいじゃんかー!
……とは、さすがに言う気になれなかった。
呼ばれちゃったのはどうも事実みたいだけど、彼女だってこんなことになるとは想像してなかっただろうし。まして、罠にかかって閉じ込められちゃってるような状況でなら、なおさらだ。
「じゃあ、あのドラゴンを倒せば解決ってこと?」
「あ~、そうだったらまだ良かったんだけど……」
「まだなんかあるの?」
「いや……さっきも言ったけど、ここダンジョンだから」
そういえばそんなこと言ってたな?
しかも、最下層とも言ってなかったっけ?
「あの、ここ地下ってこと? けっこう深い感じ?」
「そうよ。生きてここから出るには、強大な魔物ひしめく何十階層もの道を登っていく以外に方法がない……ね」
「はぁ~、なるほど。ダンジョンの最下層……逆攻略しなきゃ出れないってことですか。だから、フィオナはどうすることもできずにいた……と」
なるほどなるほど。完全に理解したわ。
「いちおう確認しておくけど、助けを待つんじゃダメなの?」
「そりゃ、もしかしたら最下層まで攻略する冒険者が来る……可能性はゼロじゃないけど。ここってかなり人気がないダンジョンだからなぁ……。期待薄」
フィオナによると、ここはメルクォディア大迷宮とかいう名前で、14階層までしか踏破されておらず魔物も強くて厄介……だとのこと。
一般的なダンジョンでは、最下層は浅くても10階層。発見されていて、踏破されているもので最深で30層。それ以外にも、踏破されておらず、最下層が地下何階なのかわからないダンジョンも多いのだとか。ここが全15層とか20層なら、すぐ脱出できそうではあるが、フィオナによるとその可能性は低いらしい。ダンジョンは、第一層の広さでだいたいの規模がわかるらしいのだが、ここは「大迷宮」と言われている通り、世界最大規模なのが確定しているとか。
なるほど、そりゃ助けは期待できそうもないわ。
「じゃあ、攻略してくしかないかぁ。ま、なんとかなるでしょ」
「……どうしてそんな楽観的なの? 魔物の強さがわかってないから?」
「だって、これだけ物資があるんだぜぇ? 余裕、余裕」
「そうかなぁ……」
まあ、実際のところどうなのかなんてわからないけど。
そんなこと言ったって始まらないのだから、ゆっくりやればいいのだ。物資もある。試しているうちに、解決方法もいつかは見つかるだろう。
大丈夫、大丈夫。
「な……なんで笑ってるの……。状況、本当にわかってる?」
わかってないかもだけど、だとしてもこれから嫌でもわかることになるのだ。
今の段階で、いきなり絶望するのはバカバカしい。
そんなことより、私は異世界に呼ばれたということ自体に、ワクワクしているのだ。
だって、異世界に呼ばれるなんて! しかも、大好きなホームセンターといっしょになんて!
あのドラゴンは倒さなきゃダメっぽいけど、まだ見ぬ生物、まだ見ぬ未開の世界が私を待っているのだ。
うお~! 絶対、生きて2人で脱出すっぞ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます