第08話 そこはダメー!

 というわけで、さっそく脱出の為の第一歩。

 あのドラゴンちゃんには死んでいただくより他にない。


「じゃあ、フィオナ。これ片っ端から全部中身出しちゃって」

「これはなに?」

「タバコ。フィオナが吸ってるのと同じ……ではないと思うケド。似たようなものかな」


 フィオナが吸ってるのはたぶんご禁制のやつだろうから。

 異世界だからセーフだ。


「ふーん。もらってもいい?」

「どうぞ。あ、ライターもあるよ」

「わ、すごい。魔導具」


 魔導具ではないです。てか、やっぱあるのか魔法のアイテム。

 すごいって言うくらいだから、まあまあ貴重なのかな。ライターを売り捌くだけで一財産築けてしまう!


「へぇ。まあまあね」


 ぷか~とふかして感想をもらすフィオナ。

 ご禁制のアレじゃなくてもいいらしい。


 私はタバコを解体し、葉っぱだけを業務用の寸胴鍋に移していく。

 その鍋に水を入れ、卓上コンロで煮詰めていく。


「それで、それなにをやっているの?」

「ニコチンっていう毒の抽出。あのドラゴンに効くのかはわからないけどさ、やっぱ時間があるってのがキモなわけよ。あいつが最下層の主で一番強いわけでしょ? そんならアレを倒せればクリアしたようなものじゃない?」


 生きてるなら毒は効くはずだけど……異世界だし、魔物だしなぁ。

 他にもホームセンターには農薬とか殺虫剤とか殺鼠剤とかヤバめの薬が大量にある。

 残念ながら私自身には化学の知識がほとんどないから、なにがどう効くか想像もできないが、猛毒のチャンポンを食らわしてやれば、多少は効くだろう。……多分。


「あっ、そうだ。フィオナ、服脱いで」

「うん。……って、えっ!? 服!? なんで???」

「食べ物は私の世界のものでも大丈夫のようですが、もしかしたらお身体に違いがあるかもしれませんから、確認しておきませんと」

「なんで急に敬語になるの!?」


 ここは異世界なのだ。

 パッと見たところ同じ人間だが、厳密には別人種。

 調べられることは事前に調べておくべきだろう。


「そ……それは、ドラゴンを倒すのに必要なことなのっ……!?」

「当然」


 毒で異世界の生物を殺そうというのだ、一番身近なサンプルを調べるのは当然である。

 異世界美少女の裸が見てみたい……などという願望から言っているわけではない。

 ないったらない。


「う、う~。必要なら……わかった」

「そんなに恥ずかしがらなくても、私とフィオナの2人しかいないんだから。あ、私も脱ごうか?」

「結構です!」


 すでに道具類は用意してある。聴診器と、血圧計と、オキシメーター、心電図、体重計も。

 フィオナが恥ずかしそうに顔を伏せながら服を脱いでいく。

 サバサバしてないのが逆にエッチなんですけど。迷宮の岩肌に白い肌が映える。私が写真家だったら、何枚も激写してるぞ。


「ぬ……脱いだけど」

「じゃあ、失礼しますね」


 とりあえず、外見。ひとまず、地球人と変わらず。

 聴診器を当てて音を聴く。比較対照は私。う~む。これも同じっぽいか? 少なくとも心臓は同じ位置で、同じように鼓動している。

 内臓まで同じということは、異世界なのに完全に同じ人間ってことだろうか。

 あの、指先から火を出すやつは、外部要因ということかも? あるいは、脳由来か。特殊な臓器が別にある可能性もあるか? 

 まあ、わからん。

 

「平熱は少しフィオナのほうが上かな。体温計で測ってみようか」


 体温は37.6度。

 私だったらダルくなるくらいの熱だが、フィオナにとっては平熱らしい。ここは地球人とは違う部分かも。


「うん……骨の付き方も形も同じだし……、耳も鼻も口も……あ、歯の数も同じ……? 生殖器は」

「そ、そこはダメー!!」

「わ、わわ。ごめん」


 デリケートな部分だからな。

 医学的には非常に重要な箇所ではあるんだが、仕方ない。


「まあ、こんなもんかな。とりあえず体のつくりはほぼ同じみたいね。体温は、少しフィオナのほうが高いくらいで」


 その後、体重、心拍数、血圧なんかも測ったが、特段変わったところはなかった。

 つまり、フィオナは地球人とほぼ変わらないということだ。


「こんなことでなにかわかったの?」

「フィオナが私と同じ生き物だってことを確認したのよ。なら、あのドラゴンも多少の違いはあれど、同じ生き物だってことになるから」

「でも、あれは魔物よ? 魔物は人間とは違う」

「そりゃ、なにも食べずにこんな場所にいるんだし、エネルギー源が別にあるんだろうけど――ヒントにはなるから」


 ごはんを食べてる時点で、フィオナが私とあまり変わらない人間だということはほぼ間違いなかったが、体内は機械で外見だけ人間だった――なんて可能性もゼロではなかったわけで。

 フィオナの体内が機械だったら、ドラゴンも中身は機械ですとなり、攻略難度が一気に上昇してしまう。

 身体が生身のタンパク質なら、毒も効くし、ヤケドや、なんなら温度変化なんかでも死ぬだろう。


「あと、ここって誰かが作ったダンジョンなのよね? それで、あのドラゴンは倒されるために配置されてるんでしょ? 願いを叶える祭壇から、逆算して考えれば、倒すことができない存在を置く意味がないし」

「ダンジョンを作ってる存在? そんなものはいないはずだけど、高レベルな冒険者のパーティーなら倒せるのかも」

「なら、きっと倒せるかな。とりあえず、毒から試してみよう」

「毒なんて効くかなぁ……」


 フィオナは半信半疑だが、毒をナメてはいけない。

 なにより効かなければ、それならそれで次がある。というか、取れる手が多すぎてどれから試すかというほうが問題なのだ。

 ドラゴンが寝ている内に倒すのが重要になってくるというのもある。


「ま、なにせ時間はあるから」


 鍋には毒々しく色づいたタバコの煮汁ができつつあった。

 う~ん。ここから出てくるガスだけで死ねそう……。

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